第2話 家鳴
私は二階にある六畳の和室に通された。
荷物を一通り運び込み、畳の上にごろりと横になる。老人曰く「今日はもう遅いので、仕事は明日の朝からお願いします」ということなので暇である。さっきの付喪神のことを考えながら、とんでもないところに来てしまったのかもしれないと一瞬考えた。しかし、まあなんとかなるだろうという持ち前の楽観主義がそれに勝り、いつの間にか眠ってしまった。
真夜中、私はどたどたという激しい音で目を覚ました。天井裏を何かが走り回っているらしい。ネズミだろうか。ドタドタギシギシと迷惑な話である。しばらくは無視を決め込んでいたが、あまりにもうるさいので終いには部屋を飛び出してしまった。
階段を下りると突然、後ろから「どうかされましたかな」と声をかけられた。振り向くと薄暗い廊下の奥に老人の姿がぼんやりと浮かんで見える。はっきり言って昼の付喪神より何倍も怖かった。
「いや、天井裏でどたどたと音がするので眠れないのですよ」
「ははあ、それは家鳴でございますな」
老人は少しも動揺せずに言った。
「家鳴?」
「左様。人の家の屋根裏などに住み、いろいろと音を立てる
「少々うるさすぎやしませんかね」
「きっとあなたが来られたのが嬉しいのでしょう。なかなか新しい人の来ないところですから」
要するに歓迎されているということなのだろうか。そう言われると悪い気はしない。
「どうしてもというときは、これをお使いください」
老人は着物の裾から小さな巾着をとり出した。
「これは?」
「金平糖ですよ。彼らの大好物です。これをあげれば静かになるやもしれません」
ずいぶんと曖昧な言い方をされたが、他に方法が無いなら仕方がない。ありがたくいただいて部屋へ戻ることにした。
頭上ではまだどたどたいっているが、気にしないふりをして布団に潜り込む。そして先の巾着から数粒金平糖を出して畳にばら撒いた。
そのまま寝たふりをしていると、すーっと襖が開き、何者かがてとてとと入ってくる音がした。布団の隙間からそっと覗いてみると、家鳴らしきものが金平糖の上にかがみこんでいるのが見える。
家鳴は黒い毛玉のような姿をしていて、そこから細い手足が四本生えていた。目や口がどこにあるかは分からないが、時折キュルキュルという高い鳴き声のようなものをたてる。なかなか愛嬌のある姿をしていた。
いつの間にか天井裏の騒ぎも静まってきたので、家鳴の影を見ながら私は再び眠りに落ちてしまった。
翌朝布団から出ると、巾着に入れてしっかり握っていた筈の金平糖も全て無くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます