感情を、取り戻す

 高柱昴は。


「……僕は」



 ぽつり、と。



「……僕は……あれ? 僕は……僕は?」



 昴は繰り返しそう呟くと、自分の胸に、ぎゅっと手を当てた。片手をぺたりと。そして、はっとしたように今度は両腕で自分を抱く。

 あまりにもあまりにも、昴にとって新しいことが起こっているのは、わかった。

 心は胸に、心臓にあるわけではないということが常識になってからひさしい。けれども心は胸にあるのだと、むかしのひとがそう考えたのはもっともなことだと、俺は思った。

 だって。――感情を発見したときには、やっぱり、胸をかき抱くものなのだから。

 昴は自らを抱いたまま、長く息を吐いて、目を閉じて、天を仰いで、目を開けて――かすかに、笑った。途方もなく。心底嬉しそうに。まるでなにかに感謝するかのように。





 昴はそのまんまの顔で、俺を見てくれた。

 こころがどこにあるかなんてそんな問いの答え、俺にわかるはずもないが。


 ――おまえの感情の場所がそこだっていうならそれでいい。

 それで、いいんだよ。

 なあ、昴。

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