ほんとうのところの、説明(3)生徒会長の、夢
……どうにか、どうにか、話を戻そう。なにをしていたんだっけ、なにをするべきか、そう、――平穏に感情など感じずにただただ日々を送るべきだ、
だから、説明しないと、
いまの状況の危なさを伝えて、早く事態を収束させないと。
「俺は光が見えると渡したくなってしまうんだ」
「……ほー? どゆことだい」
「わからん。俺にもよくわからん。ただ本能ってだけだ。深海先生は俺の四つめの欲求って言ってた、睡眠食欲性欲とおなじ、もしかしたらそれ以上の、四つめの欲求だとよ」
「……詳しく聴かせてくれないかい?」
「俺の感情は光なんだ。……なんだ。つまり。感情を感じると光が見える。……なんだ。比喩ではなくって、ほんとに、見えるんだ」
「そーいなふうに脳かなんかいじられてねえ、プログラムされたんだろねえ。そいで?」
「……その光を渡したくなる。だれでもいいから、だれかに。……光を抱えているのは苦しいんだ。出してしまいたんだ」
押し殺した声で、でもやっと言えた。
「俺以外の存在がこんなの、耐えられるわけがない」
――そう、こんな感情。
先生によって通常の人類の何十倍何百倍までにも拡大されたうえ濃縮されたこんな、感情。
「……そっかい?」
目を閉じたままだから、その表情はわからんが。
あまりにも、あまりにも軽い返事。
「それは悦矢の自惚れかもわからんねえ」
ぱた、と足を床につけるような音がして、ぱさ、ぱさ、と続く足音。
俺の頬がつつかれたのはすぐ、だった。
「なぁ悦矢、目ぇ開けてーな」
目を開けると、――高柱昴がとてもとても優しい表情をして、俺を、見上げていた。
「な、んのつもりだよ……」
「いっちゃん僕に渡してみ」
「……は、」
「なんもねえ、僕だって、理由も根拠もなく、こーいってこの鬼たちの学園で生徒会長しとるわけじゃなーいんよ?」
高圧的なはずの生徒会長は、いまは。
どこまでも慈しみがあって。
生徒会長は、つまさき立ちをして、俺の頬を両手で包もうとする。
「僕の夢を教えたげるよ」
ふだんからは信じられないくらい静かな声で。
「僕の夢は鬼たちを幸福にすることなんよ」
とんでもなくきれいに笑って、言う。
「――鬼たちを救済することなんよ」
そう言うと防ぐ間もなく、俺のこめかみに指を当てた――、
ちかり、と、
光、だけ、が、
眩く。
「……おい!」
光が、出ていく、俺の頭から出ていく、流れ出ていく、するするするりとあっけなく。俺の頭はどんどん闇を取り戻し、落ち着いていく、俺の身体感覚はいつも通りになって、――らくになる、けれどもこの光の方向、そうだ、そうだそうだそうだ、俺はいま目の前のこのこいつのことをこいつのことだけを考えていたから、やばい、まずい、並みの人間が俺のあの感情なんか感じてしまったらそんなの――
きらきらと出ていく光の隙間から、はっとして高柱昴を見れば、ただ目を閉じて立っている。苦しそうな顔はしていない、むしろ穏やかだ。だが。
感情というのは表情のあらわす意味とイコールではないというのはなによりも、先生が言っていたことなのだし。
俺の感情が、ダイレクトにいま目の前にいるこいつに渡されている!
そんなの、そんなのは、――俺以外の人間は耐えられるわけない、壊れてしまうのに――!
高柱昴は、ふら、ふらふら、と、目を閉じたままその場に座り込む。スカートが花のように広がり、両腕を脚の真ん中にまっすぐ伸ばしている。
俺は思わずその場にしゃがみ込み、肩を揺さぶった。
「――おいだいじょうぶか!」
壊れていないか、生きているか、心身ともに、たとえ生命は残っていたって――あのすさまじい感情に呑み込まれてしまっては、いくら高柱昴だって、……壊れてしまうんではないか!
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