ほんとうのところの、説明(1)奴隷精神と、ほしがられる特殊能力

 長すぎた朝の全校集会のあと――俺と飯原凪奈は、それぞれの檻に閉じ込められたまま、生徒会室へ運ばれた。縣暁は、さすが、人を捕らえることに手慣れていて、壁や生徒にガコンガコンと檻を衝突させることなどもなく、すべての動作が静かだった。


 ただ、廊下のギャラリーはうるさかった。縣暁が校則違反者を檻に入れて荷物のごとく運ぶというのはときどき見る光景だが、なんというか自分がそちらがわになると、こういう気持ちになるんだなということは……俺は、はじめて知った。


 俺とおなじ制服を着たあいつらは、相手が檻のなかにいるならば、昨日までのクラスメイトだって見世物のように指差し笑うことをいとわない、いや、むしろ、望んでそうする。

 そしてそれは、いまも、そうだ。――生徒会のやつらだって、俺をそういう目で見ている。嘲笑の色を隠しもしない無数の瞳。




 そうやって、俺と飯原凪奈は生徒会室に連れてこられた。




「……おい。なんのつもりだ? どういうことだ」


 けらけらっ、と生徒会長は笑って、俺の質問には答えない。遠慮もなにもせず、指を差す。


「いーい眺めだいねぇー!」


 王座には、高柱昴が腕を組んで座っている。ちびっ子なのに。ちびっ子にしか見えないのに。――高柱昴は、その体格などにかかわらず、かくも大きい。巨大である――。



「どーんな猛獣もさぁ、檻に入れちゃえば、かわいいくらいなんだいねえ。調教しちゃえばいっしょだもんなあ、猫もライオンも、みぃーんないっしょさね」

「言っとくが。……俺はアンタには調教だかなんだか、されないぞ。あんま自惚れんなよ」

「ああ、ああ、そういうとこよぉ。悪くない。そういう目ぇさぁ、僕、ぞくぞくするんよ。――そういや、ねえ、暁、じぶんは最初っから従順だったなぁ」

「はっ。自分の役目は生徒会長の指の一本となることですので」

「ほぅら聴いたかいね悦矢、これよこれよぉ、奴隷精神ってのはかくあるべきよぉ?」

「いまなんて……奴隷?」

「うん。奴隷だろ? じぶんらさぁ」


 高柱昴はにこにこしている。


「――弱いんだもんなあ? 弱肉強食ってのはそういうことさぁ。でも僕は優しいからぁ、弱者にもチャンスをあげるんよね。――弱者はさぁ、いっかいさぁ、痛い目見んとわからんのよ。ほら、サイキックだのアンドロイドだのクローンだのロボットだのさぁ、この学園のやつら、外で強かったばっかりに、自分が強いんだと勘違いしてる連中ばかりじゃないねえ、――哀れでねえ!」

「なにが言いたい……」

「矢野悦矢、」

 俺の名前を呼びながら、その目はふと本気になった。

「悦矢がさあ、僕の友だちになってくれるだけでいいんよ、……僕が友だちになりたい相手なんてそーおはいないんよ? 悦矢がさあ、生徒会に入ってくれりゃあそれでいいんよ、面倒な事務仕事とかないし、悦矢くらいのハイランクのサイキックに、まーさかそんなことやらしゃあせん。だから、生徒会に入ってくれるだけで、いいんだけどねえ、したらねえ、……このガラケー少女だってねえ!」

「ガ、ガラケーって、いつの言葉、ですか、あのっ、違くてあの、じゃなくってトランシーバー……」

「そんなのどうでもいいだろが。そーいな凡庸な返しであんまり僕を退屈させないこったね、そもそもあんた弱っちいくせにさあ、――やってくれるいなあ」


 高柱昴は、わざとらしく両手を上げる。


「トランシーバー型ロボット、ね。つまりはテレパシーの一種だろぉ? 媒体があんたの金属の身体なだけってこっちゃ、まああんたは電話以下だいねえただたーだ電波を媒介する単なる波塔、ってか電波ロボットなんだからよぉ。――そーれに比べて悦矢の能力はどうだい?」


 妖艶、とまでもいえるような表情で。脚を組んで。



「僕は悦矢の能力がほしいよ。ほしくてほしくて、喉もとから手が出そうだ」

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