角谷先生がさらわれた
角谷先生がさらわれた。
高柱昴に生徒会に入れと脅された、まさにその翌日のことだった。
そのことについて泉水羽多に余計なおせっかいを言われ、さらに飯原凪奈に妙に懐かれて高柱昴とのやりとりについても指摘された、そんな日の翌日の早朝――緊急全校集会があると校内放送が流れ、寝ぼけ眼をこすって体育館に行ってみれば、――角谷先生がさらわれた、という話だった。
鬼ヶ原学園は特殊だ。<教師さらい>は、よくあることだ。
教師はふつうの人間ばかりだから、ターゲットになりやすい。教師は<向こうがわ>の人間ばかりで恨みを買いやすいから、ターゲットになりやすい。
校長はいつも決して姿を見せない。巨大なスピーカーからのみ話す。老若男女という情報が一切削がれた、ぺったりとした合成音声で。
『またしても! 生徒による犯行、と、思われます』
体育館は、しん、としている。校長の話を邪魔するのは、校則違反だ。
『校長として、あなたがたに告げたい。相次ぐ教師さらい。あなたがたは、恥と、思わないのですか。教師をさらったところで、あなたがたはなにも変わらない、いえ、ますます堕落していくだけなのですよ? うっぷん晴らしに教師をさらって楽しいですか。あなたがたは強い、強すぎる能力をもっている。鬼ヶ原学園の生徒でしたら、みな、そうです。例外なくね。ひとごとじゃないんですよ? ちゃんと、当事者意識をもって私の話を聴くということが、できているでしょうか』
機械声なのに、話し手の激しすぎる感情を、まあ正確に再現しているもんで。
校長の話は続く。こいつは、いつもとおなじことを言う。……俺たち逸脱者が、いかに逸脱した存在か、いかに危険で例外的で、いかに<
その暴力的な本質を自覚しないかぎりは卒業できないと言う。
体育館の、どこでもない場所を横目で睨む。
……馬鹿らしい。馬鹿らしすぎるな。
なにも俺たちが好きでそうなったわけじゃねえだろうがよ。
俺たちをこうしたのは、それこそ、人類の勝手じゃねえか。
そうだよ、俺自身だってなにも――好きでこうなったわけじゃねえのに、な。
気がついたら、話が終わっていたらしい。質疑応答の時間になっていた。
まっすぐ、高く、垂直に手を上げたのは――。
「はい」
高柱、昴。
「二年一組、出席番号十七番、高柱昴です。質問する機会を恵んでくださることに最大の感謝を申し上げます。では質問です。……校長先生のお話ですと、可能性の高いのは角谷先生が担任している二年四組の生徒で、かつ、超能力者で、かつ、強い能力をもった生徒だということですが、――根拠はどういったもんで?」
『おお、おお、高柱昴さん、さすが生徒会長、わが校の誇る数少ない優等生、よくぞ質問してくれましたねぇ! つまるところ、生徒の証言が! ――ありました、その生徒はこの学園の生徒にしては良心をもった生徒で、ですねぇ、その名前に言及することを避けるほどの、まるで人間のようなこころのもちぬしだったのです! そしてその生徒は言いました――幽世タイムの直前、』
「……なるほどですなー。では、その条件に当てはまる生徒が怪しい――ってなことと、校長先生は、お考えなんですかい?」
『そういうことですな。……高柱さんは生徒会長ですよねぇ。全校生徒の顔と名前を覚えているということですな』
「あい、それに、出席番号と種族と、公開していれば能力も、基本的傾向としての性格も、それと評判や噂も、人間関係とかも、ああそういや健康診断の結果もねえ、まあその人間にかんする鬼ヶ原学園における情報であれば、ぜーんぶ把握しとりますなあ、ここにいる鬼ヶ原学園高校全校生徒三百七人ぶんのデータぜんぶ、僕の頭にデータベースとして入っとりますなあ。……そいがねえ、僕の取り柄でもありますんでねえ」
『さすがはわが学園における模範、頂点、生徒会長! それではそれらの特徴から不届き者の犯人を割り出すのも、至極簡単! というわけですな?』
「そうですねえ、そーいなことですねえ」
――茶番だ。
いつもこうだ。……いつも。
校長が特徴を言う。高柱昴が手を上げる。高柱昴の特殊な暗記力を確認する。そして、特徴に合致した生徒の名前を、――晒し上げる。
全校集会だなんて名ばかりだ。――実態は、血祭りだ。
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