革命しないか

 高柱昴は微笑んだまま、続ける。



「……悦矢はさ。おとぎ話を読んだことはあるかいな? 桃太郎とか」

「動物ぞろぞろ引き連れて、鬼を退治するやつだろ」

「そうよな。……鬼ってんが出てきたろ。手垢のつくほど言われてるこっちゃが、ありゃあ外国のひとだったとか身長の高すぎるひとだったとかね、むかしのひとは異質な相手のこと鬼って言ったんだー。――ところでこの鬼ヶ原学園って、つまり名が体を表すごとく鬼の学園よな?」

「……まあ。そうだな」

「僕だけじゃない。この学園にいるひとはみぃんな鬼さー。……ひとかひとじゃないか、まあなあ種族とかなあ、互いにそこらーすべて知ってるわけじゃありゃせんが、――徹底的な共通点としては幸福で平等な人間世界から隔離された存在ばっかさ。なんらかの事情でね。社会から、不要と、あるいは有害とされた。……その点においてはこの学園のだれひとりとして例外などない」


 そうだ。それは、その通りだし、……俺だって突っ込みようがない。


 目の前の生徒会長も、俺も、俺を取り囲む無機質とさえもいえる生徒会役員たちも。この学園の生徒たちは、ひとしく。

 ――人間社会から、隔離されている。



 鬼ヶ原学園――。

<人間を外れてしまった「逸脱者」の若者たちにも教育の権利を>だなんて、泣かせてくれる話だよな、むせび泣いて社会サマに感謝を申し上げろとでもいうつもりか。



 高柱昴は、まるで俺の心を読んだかのように口を開いた。

 ……いや、コイツのことだから、実際にタレントのひとつを使って俺の心を読んだのかもしれんが。


「……あのね、僕ぁね、勇気のいった決断だと思うよ。鬼ヶ原学園っていう試みはさ……。ここにいるやつらぁなんか、その気んなればひとりで一瞬で社会を揺るがすことのできる猛者ばーっかだろ? そいつら皆殺しにしてもよかったところをさぁ――そうせんかったんだもん」

「……はっ。感謝でもしてんのか」

「うん。しとるよ」


 高柱昴はあっけらかんと言う。


「……だから矢野悦矢――なあ、僕だってもともとは、……ただの普通の人間として生まれついたのに、……【あのひと】に身体どこもかしこもいじられて、超能力者とか虚勢を張るしかない、……人間でもないかといって非人間でもない、中途半端な【あいだもん】よ」


 ――あいだもん。あいだの者。


「それで、お誘いがあるんよ」


 高柱昴は、生徒会長は、――明るく。



「僕と、この残酷な世界を革命せんかい?」



 まるでちょっと購買にパン買いに行かない? くらいの気軽さで――。




 しん、と。

 俺は黙っている。

 そんな誘いならば――生徒会長以外にだって、いままで何回も受けたことがある。……鬼ヶ原に来る代わりに、世界を、変えるとか、壊すとか、支配するとか、なんとか。……各方面から依頼を受けすぎて、もううんざりしていたのだった。

 だから、こんな誘いは、――俺にとってありきたりなデジャヴ程度の意味しかない。



 しかし、生徒会長はそこまでも見通しているようだった。



「……最初からそんなかまえんでも、いいよ。僕は、……悦也の自由意思を尊重するって言っとるじゃんか。

 ……次の生徒会選挙。あるだろ。僕は任期が終わるけど、まあそりゃ立候補するさ。……そいで僕がめでたく次の任期も生徒会長になったらさ、僕、まずぁ校則から抜本的に変えていこっと思うんだいね。……手はじめにさ」


 すっ、と目を細める。




「――物理的暴力をさ。おっけーにしよっかなって」




 ――なぜ? 

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