第34話 小春

 今週は、日中の気温が二十度くらいになるらしい。天気予報によると。

 今現在、午前五時五十分の空の、東の地平線がオレンジと白。もうしばらくすれば、ただの黒。


 君はなぜ、書く事をやめないのか。君の文章、読み返したよ。何だかホッとした。君には色んな欠点があるけど、お世辞とか必要無いんだ。


 ヤギを見に行った。いつものように。ヤギは枯草を食べなかった。緑色の、柔らかそうな、小さな葉を絶え間なく噛んでいた。忙しそうに。それが急に、午後四時頃になると動きを止めた。西の方を見つめ、張りつめた乳と腹のヤギが鳴き始めた。五秒に一回くらいの頻度で。すると、角があるヤギも同じように、西の方を見つめ鳴き始めた。

 彼らの声を聞いていたら、帰りたくなってきた。


 ある文明が終わる時、または始まる時、それは多分、季節が変わるのに似ているのかもしれない。


 ヤギが鳴くとき、もっと鳴けとはやし立てる者あり。または、怖れる者あり。


 君の言葉が、残る事を願う。確かに君は欠点が多いし、その事で他の物書きと揉めているのを何度も見たけれども。他のやつとは、違うんだよな。君の文章ってやつは。いいとか悪いとか、関係無いんだ。

 

 

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