第30話 特に問題は無い

 生きているかぎり、ありとあらゆる問題が追いかけてくるように思う。その問題は、ほぼ人間関係だ。ならば人里を離れて暮らせばいいのだけど、いまどき、山に暮らし野人と化すのも難しい。例えば、山菜採りに来た山の持ち主に見つかって、「こら、人の山で何してる! そのタケノコは置いていけ!」と怒られるとか……「こんなところにポツンと一件」みたいなテレビ番組の、取材対象みせものになったりする可能性があったり……面倒だ。


 そんなわけで、問題が起きる事自体に対しても、その問題に対処する面倒さを我慢する事にしても、もはや「仕方ない」と諦めている。なぜなら、逃げたところでそいつは追いかけてくるし、逃げる場所自体があんまり無いのだから。地球は思ったよりも狭いぜ。


 バイト先(コンビニ)では今日も奇妙なお客さんに絡まれる。

「コロナはただの風邪なんですよ! 厚生労働省のホームページ見てください!」と、他のお客さんに聞こえるように大きな声で主張し始めたあんちゃん。レジの行列を気にしつつ「そうなんですか~」と生返事し、ひょいと彼の顔を見たら、マスクをしていないのだった。

 心の中で、「暑いんだろうなあ、だからマスクを……」などと、自分なりに彼という存在を解釈し、飲みこむ。その過程が無ければ私は反射的に彼の事をこう思っただろう、「帰れ、馬鹿野郎チンカス!」と。


 ありとあらゆる「困った事」というのは、飲み込むために解釈しなおす必要があるものだ。なぜならそういう過程無しには飲み込めないほど、マズいのだから。しかしまあ、解釈し直し過ぎてもはや現実逃避にまで及べばそれはそれで、病的ですらある。なので、何でも程々でいい。そういう、何かどうでもいい感じを保ちつつ生きるのが、心の健康を保つ秘訣なのかもしれないと、思う。


 それにしても暑いなあ。コロナウイルスが熱に弱けりゃあ、暑さ万歳ってとこだけど。


 


 

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