第28話 言葉を信じるな
言いたい事を言いっぱなしで終わるこのシリーズですが。
突然ですが、想像してみましょう。
例えば、残虐シーンの描写が生々しすぎて、読んだだけで吐きそうになるような小説を書く物書きがいたとします。江戸川乱歩「盲獣」みたいな。ちなみに、この「盲獣」、作者曰く「『鎌倉ハム大安売り』という章だけは、作者の私が吐き気を催すほどなので」との事。すなわち、作者は殺人を楽しむ人間では無かったという事です。
表現に関していえば、こういう事は多々あるのです。例えばドラマの悪役に対し、視聴者から苦情のようなものが寄せられたり。俳優にしてみたら、「え、役なんですが……」という事になりますよね。
私小説というか、日記などについて想像してみましょう。
私小説や日記というのは、ある個人の記憶に基づいたお話なのです。それっていうのは、どんなに「客観的」に書いていても、事実と異なる部分が出てくるのです。
「事実と異なる」……ありていに言うと、「人は自分に都合のいい解釈をしがち」といいますか……といえば、子供の喧嘩の仲裁をしているとよく、こういう場面に出くわします。
A子「B子が、嘘を吐く」
B子「A子が、いじめるの」
この場合、私は過去のデータ(記憶)を総動員して、どちらの言葉を信じるかを決めるのです。なぜって、B子の言う事が事実ならば、いじめをやめさせないといけないからです。じゃあ、B子が過去に、C子やD子からも「嘘つき」と言われていたならどうか。そもそも、いじめはあるのか、という話になってくる。
しかし、事実はこうだったのです。B子は確かに嘘を吐く癖があった。そのせいで、仲良くしていた友達に嫌われた。B子は友人たちに嫌われているのが辛くて、「いじめられている」と大人に訴えた。
こういう場合は、B子が何で嘘を吐くのか、というのを考えないといけない。でないと、たぶんどの友達ともうまくいかないから。あとは、B子を嫌っている子たちを頭ごなしに「いじめるな」と怒ってもしょうがないという事が分かる。なぜなら、嘘を吐く友人を嫌うのは、人間として素直な感情だから。
まあ、単純な例ですが、言葉というのは何だろなあ。全てを表現しきれない。不完全なものなんですよ。単に、表現力が無いせいとか、そういうのではなく。言葉にすればするほど、本質から離れていってしまうといいますか。
結局なにが言いたいのかというと、その人を知ろうと思ったら、言語外の情報が大事、という事かなあ。「好き」と言いながら、物凄い目で睨んでいたら、その人の本心は「嫌い」でしょう。反対に、「ブス」といつもからかってくる、一番仲のいい友達とかね。文字だけじゃ、分かんないんですよ。人間って。そういう話でした。
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