第2話 ミミズクの献身
その骨董品の文机(ふみづくえ)の中には、逢引きの記録が詰まっている。
さて、古い道具には魂が宿るなんて言われている。いわゆる「付喪神」というやつだ。その文机も例外では無かったようで、それはミミズク・・・「フミミズク」という一種の妖怪だった。
持ち主である女を追いかけて街に彷徨い出たフミミズク。早速車に轢かれてしまう。己の体が吹き飛ぶ様子をスローモーションの再現VTRで眺めるうちに、彼岸へと旅立った。痛みはそんなに無かったのが救いか。
慌てたのは、文机の持ち主だ。その女は詩人で、夫以外の人物との恋を詠う事もしばしば。その書き溜めた恋文のようなものは、数百枚に及んでいた。
「ああ、あれが誰かにみられたら堪らない。一体、誰が持って行ったの?」
詩人は、嘆いた。かの詩の山は、完全なる創作だったのだから。見知った者にでも見られたら、失笑ものなのだ。恋などとっくに諦めた。そう、あの文机の中に封印しながら。そして詩人はこう思った。
「きっと、恋心が羽ばたいて行ったのかも。自由を求めて」
都合のいい解釈は時として、本人を救う。だが、真実は藪の中だ。
無邪気な心が一番罪深い。私は、そのように思う。
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