名も無き物書きの反乱

むらさき毒きのこ

第1話 カップルを冷やかす

真夜中。

仲間の作家志望に

「あなたは、不条理ものが得意であると思う」

そう指摘され、「不条理もの」を書こうと試みる。しかし、不条理ものはやたらと頭が疲れるのでやめる。徹底して現実を描こうとする中に浮かび上がって来ざるを得ない「不条理」、それがほんとうの現実であると思うし、私はそういうものを書きたいのだから。


隣の長屋には、若いカップルばかりが住んでいる。

なぜわかるのかと言えば、真夜中に彼らは帰宅するから。きっと、遊ぶのに忙しいんだろう。若者の夜は長い。


「お前たち、そのまま家庭とやらに収まるつもりか。行き着く先は、つまんねえぞ・・・今は、ただ熱くなって幸せだろうけど」


胸の裡で、いつか来た道をそっと冷やかす。


火星は張り切って輝き、夜の主人たる月は今日も現れない。これで何日目だろう。寂しい。

童話を書いたら割と評判が良かったけれど、どうやら疲れてしまったらしい。

ただ、何かが足らないんだ。投稿サイトのランキングは騒がしすぎる。


私は疲れると、とある無名の作家の事を思い出す。

なぜなら、その作家はひねくれていて、理屈っぽく、さらに言えば作風が暗い。

どこがいいのかと聞かれると困るし、面白いのかと聞かれれば「難しい問題ですね」と答えるだろう。だけど、疲れたら読んでしまうのだ。その作家の、孤独極まりない文章を。なぜなのかは我ながら不明。


ところで、長屋の事を「○○パレス」なんて名称で誤魔化すのは何故なんだろう。

二人の城、とでも言いたいんだろうけど、石膏ボード一枚の壁で仕切られた城なんか、プライバシーも何もあったもんじゃ無いし、やめてくれよと思う。







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