投影

@treeofforest

第1話

水を滴らせながら自動ドアをくぐる。私が通った後は、綺麗に掃除された床の上に水滴がいくつも落ちていた。管理人がこちらを見ているが何も言わない。古くさいマンションの受付にしては顔立ちの整った彼女は、こちらが話しかけるまでは決して何も言わない。通りすぎようとすると、おはようございますと挨拶をしてきたが、私は無視してエレベーターを待った。部屋に戻ると、靴も脱がずにソファにどかっと座って、テーブルの上の蝋燭にポケットにしまってあるライターで火を着けた。蝋燭の火が ゆらめく。それは確かにそこで燃えているように見えた。恐る恐る手を近づけると指先が熱くなった。それを感じて指先から全身が温まり、安堵する気持ちとともに不確かな不安がよぎった。

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