ごめんなさいとごめんなさい禁止
「ごめんなさい」
僕がうっすらとまぶたを開けると幽霊さんが泣きながら僕の顔を覗き込んいる。
本格的に回復してきた思考力で周りを見てみると自分の部屋に寝ている。
自転車でとにかく家に帰ってきて布団にダイブしたみたいだった。
幽霊さんは僕が起きるまでの間謝っていてくれたのだろうか?
きっと謝り続けてくれたに決まっている。
そう言う存在だから。
左肩がうずく。呪いとまではいかないけど、強い陰気が僕の左肩についている。
明確に呪う力じゃないから安倍晴明様の呪いも効果を発揮しない。
やっぱりこのまま寝てしまいたい。
それほど体力の消耗は激しい。
強力な陰気の塊を浴びたのだ。体調を崩さない方がおかしい。
「ごめんなさい。あなたがあれほど危ないと言っていたのに、ごめんなさい」
本来、霊体のはずなのに何だがこぼれる。
やっぱり寝ておきたい。
怨霊の放った陰気は、陰気でありながら呪いの力も持っている。
呪いとして、反発しない代わりに、陰気として勝手に消えない。
体力を回復させたい。
でも僕は幽霊さんが泣いている所をみてしまった。
たとえ幽霊さんであれ、女の子。
女の子が悲しいそうに泣いてるのを見て、捨てておけるほど強気な人間じゃない。
「大丈夫だよ」
僕は体を起こして、幽霊さんの頭を撫でようとする。
幽霊さんは実体化していないし、僕の霊力じゃ霊体を触れない。
「ごめんなさい。私のせいで」
「ごめんなさい禁止」
「えっ?」
「ごめんなさいは禁止だよ。ちょっと苦労するけどあの怨霊は倒さなきゃいけない。僕の方にある陰気は怨霊と強い関係性で結ばれているから完全に復活したら僕の命も危なくなるよ」
「でも、すごい辛そうな顔しているよ」
「変な顔しているかな?」
「ううん、辛そうな顔」
「陰気が強いけど、これくらいの量だったら抑え込めるよ。それに危険なのを分かっていたのに護身結界を張らなかったり、守り刀を持たなかった僕が悪いんだからね。プロじゃなかった」
「でも」
「でももごめんなさいも禁止だよ?」
僕は完全に体を起こし、結跏趺坐の姿勢を取る。本来ならば身を清めて、お堂で準備をかけてする方がいいのは分かっていたけど、体力が持ちそうになかった。
僕は笑顔を浮かべようとする。上手くいったかは分からない。
「身を清めるから少し離れておいてね」
僕は目をつむり、おへその辺りから炎が巻き上がり、炎が自分を包み込み不浄な物を焼き尽くすイメージを持ち、印を組み真言を唱える。目をつむったのは資格から入る無駄な情報を切り離し、術のイメージを強く持つためだ。烏枢沙摩明王様は炎を持って、一切の不浄を清める明王様だから、怨霊と言う不浄が放った陰気ならば完全に払えずとも抑え込めるはずだった。
「オンクロダナウソワカ」
まだ払えない。
「オンクロダナウソワカ」
徐々に左肩の痛みが引いてくる。
「オンクロダナウソワカ」
いっさいの痛みは消える。陰気は消えたけど、むずむずする。あの怨霊と縁が結ばれているために陰気の効果を払えずに一時的に抑え込めただけだろうと思う。思うばかりでダメな霊能者だなと思う。
僕は左手でガッツポーズを作る。
「陰気を払ったよ」
満面の笑みで言う。
「うそ、まだ左肩に黒いのが見えるよ」
ぽろぽろと涙を流しなら、辛そうに質問してきた。
安心させるために説明をしないといけない。
「陰気は本来形を持っていないんだけど、あの怨霊がバカみたいに大きな陰気を持っていたから,その影響力を受けていて、僕の程度の信仰心じゃ、いくら大慈悲を憤怒に変えて、炎で全てを清める烏枢沙摩明王様でも清めきれないんだ。陰気が水属性で聖なる炎に弱いと言っても、あの怨霊の恨みは強すぎ切るからね。それに八つ当たりにもならない、ただ陰気でふれただけだから、安倍晴明様の呪いじゃ反射されない。そのせいであの神様を一度倒して、倒してまた清め治す必要があるんだ。一度倒して消えたら影響力も消えるからね。復活したとしてもその影響を受けないよ。だから明日戦おうと思うよ」
「無理だよ。どうやって倒すの?。とても強いのよ」
「大丈夫。清らかな神は清らかな場所に、荒ぶる神は大自然に、祟りが見は不浄な取所を依り代とするが決まっているんだ。あの安倍晴明を名乗る男がいなくて、神様が依り代から出てこないうちに、あの祭壇を清めるつもりだよ。僕の信仰する烏枢沙摩明王様は一切の不浄を清める明王様だからね。怨霊は水属性で炎属性に弱い、怨霊は穢れた存在で破魔の力に弱い。ふたつも弱点があるし、切り札もたぶんあるから、祭壇を清められると思うよ」
「本当に大丈夫なの?」
僕は部屋にある神棚に飾られている破魔矢を見ながら言った。
「大丈夫。清められるよ」
そう言って笑顔を浮かべるのだった。
そんな装備で大丈夫なの?に続く
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