悪しき祭壇
そこで僕が見たのは犬の頭と頭から離れる事ができない犬の霊だった。
僕は切り落とされた犬の頭を見た事により、縁ができ犬の恨み、空腹で餓死させられる瞬間に首を切り落とされた辛さ、人に裏切られた悲しさ、それらを混ぜた怒りの吠える事が聞こえる。
そう犬の首たちは怨霊に取りつかれている。
僕はあまりの衝撃に悲鳴を上げる事ができず、冷静に分析をしている。
そう犬たちは孤独の一種、犬神にされていたのだ。
その犬たちが吠える先に視線を送る。
直径は2m、高さ2mくらいの大きさの岩が置かれ、その前には延長コードで繋がれた白色のゲーム機が置かれていた。画面にはつながれていないけどスイッチは入っている。
「この程度の風景で絶句しましたか?」
僕はへたり込みながらも、素顔が見える様になった安倍晴明を名乗る男をみている。
どこまでも冷たい笑顔を浮かべていた。しかし勝ち誇っている様にも見える。
「この祭壇は、どういう意味を持つんだ」
「腰を抜かしたままでは情けないですよ。あなたも霊能者の様ですね。祭壇の意味を考えたらどうですか?。聞くだけの子供ですか?」
「犬神を使うなんて、人の道に外れてる。犬たちは何を呼び出している?」
「ふっ、愚問ですね。あなたは人の道などと言う、時代が変われば、考えた方も変わるあやふやな感情論で正義を語ろうとするのですか?理解できないと否定しかできないのですか?万人が理解できないできなくて正しい事はあります。物事を深く考えること無くただただ感情論に縛られているのは滑稽ですね」
安倍晴明を名乗る男は怪しく笑った。
「さてこの無様なネズミをどのようにしてくれましょう」
僕は後ろに段ボール箱の山があるのを忘れて、後づ去ろうとする。
「ひっ」
情けない事が悲鳴を上げてしまった。僕には安倍晴明様の呪いがかかっている事を忘れていた。ただ呪い殺されると言う事くらいしか頭に浮かばない。
その時、ナイフ部分を出したままにしている多機能プライヤーを手にしている事にきずいた。脅しにもならないだろう。
「やれやれ、愚かで惰弱なあなたにも何が起こるか教えてあげましょう」
「名も忘れらた古の大君よ、神としてこの世に現れたまえ。贄をささげしょうぞ」
僕の目は見てしまう。岩から大量の陰気を噴出させ、陰気の塊となる強大な怨念をだ。見た事の因果関係により、怨念の声が聞こえるのと、この世に存在すると確定させた。怨念は現世に現れるさらなる力を得たのだ。
「にくしや、おうじん、にくしや。にえ、くらう」
どす黒いお陰気の塊が僕の恐怖をあおるようにゆっくりと近づいてくる。
怨念に引き付けられ形作られる陰気の塊。
「大君の霊は大和朝廷の時代に打ち滅ぼされた豪族の一人で、古墳にまつられる事も無く、記述も残されなかった忘れ去られし神です。祀るものも無く、ただ石に封じ込められただけの存在です。祀られる事の無い神はいずれ力を失い、ただの怨霊となり、その怨霊も時間が過ぎれば失われ、いずれは消えます。しかし、強い怨念は時代を超え、私の力によって蘇ったのです。名も無き大君よ、贄を喰らいなさい」
「にえ、くわせろ、おうじんにくしや」
僕の近くまで恐怖をあおるようにやってくる。
立ち上がろうとして、地面に手を付く。
こと。
僕は落としていたナイフを抜身にした多機能プライヤーが手に触れる。
僕は力を出し切っていない。
恐怖に飲まれかかっているだけ。
いつもの訓練を思い出して。
「オン、クロダナウ、ウン、ソワカ」
烏枢沙魔明王様の力を引き出して、多機能プライヤーのナイフの部分を炎の力で清めるイメージを強くもつ。
ずっと訓練してきた事だ。
それを嘲笑するかのように安倍晴明を名乗る男は言った。
「今更、神仏に頼ってどうするのです。いくら汚れをはらうのに功徳がある烏枢沙魔明王様の力を借りたとしてもあなた程度の霊力で、大君を調伏する事はできませんよ。他力本願でどうするのです。真言などパワーソースでも無く、自身の霊力をイメージ着けて形を作り出す程度の物です。だから祈っても無駄です」
怪しげな笑みを浮かべながら、安倍晴明を名乗る男は怪しく右手を口元に持っていき前に突き出した。怪しくも美しい声だった。
「大君よ、烏枢沙魔明王様贄を喰らい、力を取り戻し球へ」
安倍晴明を名乗る男は圧倒的な力でこの空間の支配者だった。
神に等しい力を持つ怨霊を支配しているのだ。
なんとか多機能プライヤーを握りしめて、立ち上がる。
「おうじん、にくしや、おうじんの子、喰らう」
一気に陰気が広がり、僕に襲い掛かる。
「ウン」
僕は本能的に烏枢沙魔明王様の真言を唱えて、ナイフを清める。
「おうじんにくしや、贄、喰らう」
陰気は僕包み込むように広がり、僕の左肩に降れる。
僕はがむしゃらに清めたナイフで陰気と怨霊を切っていた。
怨霊も陰気も闇と不浄なる存在で水属性だ。弱い力でも一切の不浄清めるの烏枢沙魔明王様の持つ破魔と炎属性の力でばらばらにし、そのまま怨霊を付ききって出口に向かって走り出す。
陰気に触れた肩が焼ける様に痛い。
しかし、走らなければならない。
「おうじんにくしや、贄、ニエ、クワセロ」
「ほう、神を調伏するのでは無く、ナイフを清めましたか?小細工をしてくれますね。それなら陰気で構成された不浄なる存在である闇の神に効果を表すでしょう。烏枢沙魔明王様は全ての不浄を焼き尽くして清める功徳を持ち、鉄の刃は本質的に不浄なる存在を断ち切る力がありますからね」
「ニエ、クワセロ」
ドーンと怨霊の陰気があふれ出し、倉庫の中に響き渡る。
怨霊の陰気に触れていると言う、影響関係ができている僕は無様に怨霊の霊来てな波動に負けて、こける。
「にえ、ニエ、にえ、クワセロ」
「神よ。こんな所で狂気に駆られ力を使ってどうするのです。それに面白い小細工を見せてくれたお礼です。真の霊力の使い方をあなたの得意な真言で見せてあげましょう」
僕は立ち上がり、安倍晴明を名乗る男を見る。何をしようとしているのだ。
そんな僕に見せつける様に両手を組んで
「ノウマクサンマンダ、バサラダンセンダン、マカラシャダソワタヤ、ウンタラタカンマン」
その真言が唱え終わると、霊的な力が見えない僕でもはっきり分かるくらいに強力な霊的な網ができ怨霊を包み込む。
僕は茫然とし、嫉妬にも似た感情に囚われかける。
安倍晴明を名乗る男が行ったのは、不動金縛りの法と呼ばれる術だ。本来この術は深く不動明王様を祀り、護摩をたいたり、いくつもの複雑な手順を踏んで祈り続けて力を発揮する術だ。ただ印を組み、真言を唱えただけでできる術ではない。安倍晴明を名乗る男のすさまじいまでに高い霊力、術のイメージの確実性、それらを支える高い集中力。それを全て兼ね備えていたと言う事だ。僕にはどれももちわせていないものだ。
男は剣印と呼ばれる印に組み替える。
「おんきりきり」
霊力の波が刃となって怨霊を苦しめる。
僕はそれを見てはっとする。
逃げるチャンスは今しかないのだ。
僕は悔しさと恐ろしさに支配され逃げ出した。
ごめんなさいへ続く
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