安倍晴明
かつん・・・
かつん・・・
暗闇の廃倉庫に恐怖をあおり立てる様に乾いた足音が響く。
僕が出口に向かおうとした時に足音が響いた。
ドアが開く音もしなかった。
やばい。
逃げるか身を隠すかをしないと。
だけど恐怖で体が動かない。
僕でも感じられるほどの圧倒的な霊力を持っていた。
辛うじて動く首を動かした、辺りを見回す。
しかし、暗闇で何も見えない。
足音が止まる。
「なにやらネズミが結界内に侵入した様ですがね。しかし、この倉庫は地獄、私の霊視力を持ってしても地獄を見渡すとはいきませんか」
「だれだ!」
僕は恐怖を打ち消すように、叫んでいた。このまま恐怖に飲み込まれてはいけない。
かつん・・・
かつん・・・
かつ・・・
足音がとまる。
「ずいぶんと愚かなネズミが入った様ですね。人に名前を尋ねる時は自ら名乗るのが礼儀でしょう」
地獄と言う暗闇には、場違いなどこまでも美しく冷淡な声が響く。ゆっくりとした口調だけど、自信に満ちあふれ、どこまでも美しい声だ。
いや、暗闇の中で自信に満ちあふれ、冷淡でありながら、美しい声だからこそ恐怖を感じるのだ。
理性が悲鳴を上げ、本能が危険だと叫ぶ。
今の僕は恐怖にかられて、どこまで無力だった。
蛇ににらまれたカエル、虎に狙われた鹿、狩猟動物と捕食動物の関係。
それが僕とこの声の持ち主の関係だ。
どさ
朴は無意識に後ろに下がり、廃材につまずいてこける。
恐怖のあまり、痛みを感じない。
「愚かなだけではなく、無様なネズミですね」
男のどこまで美しく冷たい僕を嘲笑する聲が聞こえる。
恐怖にかられたまま、僕は握りしめていたマグライトを男の気配がする方向に向ける。
そこには五芒星を描かれた白い手袋で顔の半分を隠しているが、眉目秀麗と言う表現では足りない、白く美しい耽美な中性的な顔立ち、美しい長髪、なぜか旧日本帝国陸軍の服装と白いマントをしていた。それが放つ異形な姿さえ、男に絶対的な美しさを与えている。僕の理解の範疇を超えた美しさであり、それは畏怖すべきものになる。その恐怖から逃れるように僕は再び尋ねる。
「誰だ!」
男は怪しくほほえんだ。
「理解力の無い、ネズミはこれだから困る。私の名前をなのりましょう」
自分からは名乗れない。このクラスの霊能者となると本名を知られたら、即座に魂を破壊できる。僕は呪殺はされない。だけどどんな方法をしかけてくるか分からな。い。これは理性ではなく、僕の霊能者としての本能が言っていることだった。
「我が名は・・・安倍晴明」
一文字一文字区切るように、確定した物事を紡ぎ出すような言葉。
言葉に霊力を与え言霊として、自身にも周りにも安倍晴明と事実として認めさせる呪術言語。でも僕は恐怖に飲まれて言い返していた。
「安倍晴明様は平安時代に神になられて、地上から昇天されたはず。本物じゃない」
僕は恐怖に打ち震える。安倍晴明様。僕が使えている神社の主神。日本の陰陽道を集大成させた大いなる霊能者。陰陽道は中国から術を中心に日本の呪術などを取込み完成した日本における最高の総合魔法体系。その体現者であり神を名乗る男がいるのだ。
「現世に存在されているはずはない」
「簡単な事。現世の混沌をうれいて地上に降り立ったまでのこと」
男は自身に満ちあふれ、冷酷な声でほほえみながら言い切った。
やばい。僕は自分にかけられた安倍晴明様の呪いを忘れ、目の前の男の言う事を事実として受け入れそうになっていた。とにかく護身結界を張らないとならない。ナイフを持ったてで九字を繕うとした。
「烏枢沙魔明王様の名において、」
「密教を使うみたですが、遅いですね」
「オン・マリシエイ・ソワカ」
僕が握りしめたナイフで結界を作る前に目の前に男が来る。
そのまま、僕の右手を掴むと造作もなく、空中に投げ出した。
どすん・・・
積み上げられていた段ボール箱に体が埋まる。
痛みを忘れて、僕は完全な恐怖と悔しさを味わっていた。
人並み外れた速度。摩利支天様の真言だ。現実に術が影響を与えるには、並外れた霊力を必要とする。それも摩利支天様に使える密教僧でも無いのだ。ただ術にイメージを得るために唱えただけ。術のイメージが瞬時に完成され、高い霊力を無理矢理、陽炎を神格化した摩利支天様の力を得て、何にも捕らえられない加護、つまり何にも捕らえられない圧倒的な速度を得るを得たのだ。
「はて、投げすぎましたか?。さすがに私の霊視を持っていしても陰気が強すぎますね。まぁ良い供物を得ました。桔梗、電気をつけてください」
「御意」
どこからか女性の声がする。
今ならこの場所から逃げ出せる気がする。
立ち上がらないと。
そう思っても足が震えて動かない。
かしゃ
倉庫内に光があふれて、一瞬目が見えなくなる。
「そこにいましたか。どこまでも無様ですね。あなたの得意な密教で負けた気分はどうですか?さぞかし悔しいでしょう?。全ての術を網羅する之が陰陽道の力ですよ」
じょじょに目が見えてきて、僕は驚く事になる。
祭壇に続く
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