ご挨拶?
僕の目の前で少女の右手が振られている。
「お目覚めはいかがですか」
どうやら少女は少し怒っているらしい。
僕にも言いたい事はたくさんあった。
だけど国語辞典の衝撃でそれどころじゃない。
物理で殴れとは良く言うけど、その有効性を身を持って体験している。
こんなにかわいい少女に挨拶をされているのに。
僕の恨めしい視線を少女の恨めしい視線で返してくる。
変な言い方だけど、展開は読めるんだけど、話が読めないと言うか飲み込めない。
だけど少女は丁寧語を使い、とても親し気に話しかけてくる。
知り合いにいたかな?
いるわけがない。
「ちゃんと起きて話してくれないと憑り殺しますよー」
少女は一般的な言葉じゃない言葉を楽し気にかわいく言う。
楽しいなと不覚にも思った。
楽しいと感じるとだんだん衝撃が薄れてきて、少女を観察する余裕が出て来た。
どこかであったのだろうか?
見覚えがある。
どこで?
良く見てみる。
少し透けて見える。
目鼻整った顔つき、ロングのストレートヘア、横向きのストライプの入ったシャツにジーンズだった。20年前以上前のファッションだ。
どこであったのだろう?
いつあったのだろう。
思い当たる節は2つ。
だけど一つは現実的じゃない。
そうすると答えは一つだ。
僕は観念し、口を開く。
「もしかして取り憑いてきちゃった?」
そう、昨日の夜と言うか今朝方と言うべきが、夜勤が終わってから桜舞う公園でであった少女の幽霊だった。
「はい!ついて来ちゃいました」
「やっぱり取り憑いてきたんだね」
僕は失礼な事に少女を見つめながらそうつぶやいていた。それにしても年代物幽霊さんだ。かなり面倒な事になりそうだなと思いながら少女の幽霊を見つめる。
「あのー?」
少女ははにかむ様に切り出した。
かなり恥ずかしそうだった。
「そんなに私の顔を見つめないでください。恥ずかしいです」
「いや、ごめん」
なんでやねん?
取り憑いてる少女に謝るべき事じゃない。
だけど少女の雰囲気がそれを感じさせなかった。
そんな親しい感じの空気感がそうさせたのか、油断して口走ってしまった。
「ちゃんと禊とお祓いするの忘れてねたからなぁ」
幽霊や妖怪を見る事のできる力、見鬼の持っている僕たち一族に取って必要不可欠な技術だった。一般的ではなく、非常識な行為なのはしっている。少し説明すると幽霊や妖怪を見たら、取り憑かれて、苦しむ事が多くなる。それは現世に影響力を与える事ができない幽霊は、見られる事によって、現世で存在を認められる。そうすると、見た人間に影響力を与える事ができる。その人間を取り殺したりしたら、その事が噂になって、さらに大きな現世への実存性と影響力を持つ事できるからだ。僕たちの一族は、必ず頭から塩を振りかけ、井戸の水で体を清める簡単な
「幽霊さんにあうと禊をしておかないといけないな。幽霊にとり殺される見鬼の一族と言うのも怖い話だよ」
ぼそりとつぶやく。
でもその独り言が全ての引き金だったらしい。
「そんなぁ・・・昨日あれだけまた会いたいと強く願って想ってくれたじゃないですか!」
「それはそうだけど」
話の流れが見えいないので、あいまいに答える。それに会いたいと思ったの事実だし、それで縁ができのは間違いないから。
「もう私の事なんてどうでもいいだ」
「違うから」
僕は危険を感じてそんな事を言う。
理解不能で危険な流れだ。命に係わる。
とても嫌な予感がする。
幽霊とか怨霊と言うのは、強い思い、
「もう分かった!一度見たらぽいと捨てるんだ!そんな男だったんだ。がっかりした。もう殺します。女の敵」
「だから!」
僕は声を荒げる。何で?どういう話の流れだ。良く分かこの状態の幽霊や危ない。怒りの感情に捉えれて理性が働いていない。
この流れはヤバい、意味不明にやばい。とてつもなくやばい。
幽霊だから当たり前かなと考えている自分もおかしかった。
「こんな私はかわいいぃぃのにぃぃ!」
アクセントはかわいいと言う所だ。
「とり殺します」
ぞっとするほど酷く冷たく低い声だった。
「呪殺反射だからやめて」
僕は叫んだ。その声は彼女の理性に届いていない。僕は少女に縋るように視線を合わせた。だけどその眼は殺意に満ちて、マジで感情に取りつかれている。
選択肢を間違うと間違いなく死ぬ。洒落を言っている場合ではない。
考えろ!
少女と僕を救う道があるのか。今日と言う時間を生きたければ。
「ちゃうねん」
考えた結果がこれだった。
だれが見ても言い訳をして、命乞いをする姿だった。
関西人でも無いのにね。
「短気は損気、話し合えばわかるから」
命乞いでも何でもする。誰の命を傷つけたくないから。
でもこれじゃ誰が見ても立派な負け犬だ。
「問答無用」
少女は涙ながら叫んでいる。
泣きたいのはこっちだ。
「いきます」
僕の体に少女の霊が肌に取りつくのが感じられる。
だけど僕の体には侵入できない。
僕たち一族にかけられた強力な呪いが僕の体に入ることを許さない。
このままでは少女の持った怨念が呪いの力になり、呪いの力が霊体だけの少女に反射してかき乱される。少女のピンチだ。
僕はとっさに印を組み一気に真言を唱える。密教の流れを組む呪術で咒とも呼ばれる技術だ。
「オン・クロダナウ・ウン・ジャク・ソワカ」
印を組み咒を唱え服に霊力が流れ炎包まれることを強くイメージする。
唱えた真言は全ての不浄を炎で焼き清める烏枢沙魔明王様の真言だ。僕も少女も不浄な存在だから聖なる炎には弱いはず。はずばっかりで恥ずかしいな。
「熱!!どうしてそう言う事をするのです?そう言うの卑怯です。取り殺されてくれないと私の怒りはどこにむければいいのですか?」
少女は怒りの視線と困った様な顔で僕を見ていた。なんで力を使えるかと言うと割と複雑で僕たちの一族のご先祖は安倍晴明様の雑用人、下働きを勤めていた。安倍晴明様は陰陽道を極めた人で、安倍晴明様の家にはいくら結界を張っても陽と陰、両方の存在が家に出てくる。最初の頃は弟子や式神に陰気や陰気からでる
それでなぜ烏枢沙魔明王様の咒を使えるのかと言うと平安時代に行き倒れていた行者を助けけて回復するまで泊まってもらっていた時に凶暴な魑魅魍魎から身を守るにはどうしたら良いか訪ねたら早九字と九字十字の結界を張る初歩的な技術とこの世の一切の不浄を清める烏枢沙魔明王様をお祭りして咒を使いこの世に迷う魑魅魍魎を助ける宿願を持てば必ずご加護が得られると言われたと伝説にある。霊力が見えなくても何かの先に烏枢沙魔明王様のご加護を願い霊力を導くイメージは作りやすい。自分には見鬼の力により烏枢沙魔明王様のご加護は効果が無いけどあらゆる不浄に対して是多大なる破魔の力を発揮するので霊力が限られる僕たちの一族に取ってはありがたいの力だ。手袋や服やブーツなどにかけると陰気や魑魅魍魎などの不浄な存在にたいして霊的な防御能力を得る事ができる。自分でもなんでもありかとツッコミをいれたくなるほど、霊能力や術に対して節操がない。安倍晴明様の呪いに、烏枢沙魔明王様への信仰、古代日本から伝わる清めの塩を使う技法。だけどそんな事を言ってられない。僕は烏枢沙魔明王様に信仰するために、関わりあう不浄の存在を助けると誓ったんだ。だから少女も怨霊化しているし救わないといけない。それに昨日、ううん、たぶんずっと前から助けたいと思っていたと思うから。
「話し合わない?理不尽に取り殺されるのも嫌だし、僕としても幽霊さんを助けたいから。昨日見た縁もあるし、幽霊さんにまた会いたいと願ったのは僕だしね」
少し勝ち誇っている感じは許してほしい。まがい物霊能者と揶揄される僕たちの一族の術に自信が持てたのだから。でも僕は幽霊さんを強く助けたいと思っている自分がいて少しテンションが高いのだった。
続く
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