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 病院の屋上には予想通りに蛍くんがいた。


 蛍くんはいつもの真っ白な病院のパジャマのような服をきていた。足元はスリッパ。

 屋上には蛍くんのほかにも数人の入院患者さんがいた。

 付き添いの看護婦さんも何人かいる。


 三階建てのコンクリート製の病院の屋上には、先ほど感じたものと同じ、とても気持ちの良い風が吹いていた。

 その風が、長い菜奈の髪を揺らした。


 蛍くんは屋上に張り巡らされた『転落防止用のフェンス』のところに立って、そこからじっと、青色の夏の空を見ていた。

 蛍くんは菜奈のことに気がついていない。


 そこからちょっとだけ見える蛍くんの横顔はとても真剣な(そしてすごく切実な)表情をしていた。普段、菜奈と話しているときには見せてはくれない顔だった。


「蛍くん。こんにちは」

 そう言って、いつものように菜奈は笑顔で蛍くんに声をかけた。


 蛍くんは菜奈に気がついて、その表情を和らげると、「貝塚さん。こんにちは」と嘘の笑顔を菜奈に見えた。

 そのやさしい嘘に気がつかないようにして、「うん。こんにちは」ともう一度、貝塚菜奈は桜井蛍にそう挨拶をした。

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