第103話「呪い咲く武器を君に」

 それから数十分、部屋の中の呪いの武器を見て回った。

 俺とマリアは部屋の奥にある、呪いのキーホルダーシリーズを見ていた。


「これは、つけると微熱がずっと出るキーホルダー、この青いのはつけると冷え性がひどくなるもので、黄色いのはつけると静電気に悩まされるわね」

「なんかすげー微妙な呪いだな」


 なんて会話をしていると、扉を開ける音が聞こえ、人が入ってくる気配がした。

 入って来た人物は、俺たちのいる方へと真っすぐに近づいてきた。


「……あ、マリアさん。どうも」


 入って来たのは、教会の職員、デイモンだった。


「呪いを解くために、少し道具を取りに来ました。あ、気にせずご覧になってください」


 と言いながら、紫色の水晶を手に取り、再び部屋から出ていった。


「……あれって呪いのアイテムだよな?何に使うんだ?」

「呪いを打ち消すためね。高レベルの神父さんでも、すべての呪いを解除できるわけじゃないの。だから、解除できない呪いがあるときは、解除できる別の呪いで上書きするの」


 この世界では、二つ以上の呪いにかかることがないらしい。例えば、呪いの剣を装備した後に、呪いの盾を装備すると、剣の呪いは自動的に解除され(ただし剣は使えなくなる)盾の呪いが装備した人間に降りかかる……という仕組みだ。


「……にしても、今日は死ぬほど呪いのアイテムを見たな。……そろそろ帰らないか?さすがに疲れたんだけど」

「…そうね。じゃあお茶でもしよっか」

 

そう言って、薄暗い部屋を出た。


 教会の入口、受付のあった場所に戻ると、さっきの赤毛の男が受付の人と話していた。


「おや、さっきの」


 楽しそうに話していたその男は俺たちに気がつくと、にこやかに話しかけてきた。


「レミさん、ミルクティーを二つお願いできるかしら」


 受付の横にある椅子に座りながら、マリアが注文する。


「え、お茶ってここで?」


 よく見れば、赤毛の男の前にはコーヒーが置いてある。


「ええ。呪いのアイテムを見るのに疲れたら、ここで少し休憩していくの」


 たぶん、そういうやつはマリアだけだと思う。

 少しして、受付の人が頼んだミルクティーを持ってきた。それを飲みながら、たわいもない雑談をした。

 受付の紙を見ると、俺の後に一人来たくらいで、しばらく人の来た気配はない。まあ、受付の人が普通にお茶飲んでだべっている時点で暇なのは分かるけど。


「あ、そうだ。トウマ、これつけてくれない?」


 優雅にお茶を飲みながら、マリアが差し出したのは指輪だった。


「何それ?」

「これ?この指輪をつけると、飲んでるミルクティーがミミック味になるっていうアイテムよ」

「何その限定的な効果⁉…っていうか、ミミック味って何⁉」


 そんなツッコミをしている間に、俺の指に指輪をはめてきた。


「あ、てめー勝手に……」

「まあ、いいからいいから。で、ミルクティーはどんな味になった?」


 マリアにそう聞かれ、仕方なくミルクティーを一口飲む。


「……!ま、まずっ!」


 土や木といった植物的な味と同時に、金属的な味が口の中に広がり、何とも形容しがたい味だった。

 水をもらって口の中をゆすぎ、はめられた指輪を取ろうとしたが、なぜか指輪は外れなかった。


「おい、まさかこれって……」

「あ、それも呪いのアイテムね」


 にっこり笑って答えるマリア。


「これもかよ!……で、これはつけたらなんか効果あんのか?」

「それは、つけるとお肌の調子が良くなるわよ」

「あ、言われてみれば肌が潤ってる気が……ってどうでもいいわ!まーた変なもんつけやがって!」



 俺は再び呪いを解いてもらうため、ユンゲルのもとへと向かった。

 そんな俺を後ろから追いかけてきたマリアは、あの倉庫の前で俺を呼び止める。


「ねえ、せっかくだから、呪いのアイテムの上書きとかしてみない?」


 呪いのアイテムがたくさん入っているあの倉庫の扉を指さしてそう言った。


「呪いの上書き?……さっき言ってた、二つ以上の呪いにかかることがないっていうやつか?なんで?」

「その呪いの指輪なんだけど、結構なレアアイテムで、もしかしたらユンゲルさんが呪いの解除ができないかもしれないの」

「……なるほどな……本当のところは?」

「この石を持った状態で、二つ目の呪いにかかると、呪いが面白い感じで進化されるんだって」


 右手に持った青色のきれいな石を見せながらそう言った。


「面白い感じってなんだよ。呪いが進化するってやばすぎるだろ」

「大丈夫よ。いろんな呪いがあるけど、呪いにかかっただけで死ぬようなものはないから」


 別に死ななきゃいいというわけではないのだが。


「あほなこと言ってるんなら、先に行くからな」

「ま、待って。ね、お願い!ちょっとだけ。軽い呪いのアイテムにするから!先っぽだけ!」


 マリアは黒い剣をこっちに向け、そう大きな声で懇願してくる。


「変なこと言ってんじゃねー!」


 マリアの言葉をかき消すように大きな声でツッコむ。一応これでも貴族の娘だし、変なことを言わせるわけにはいかない。

 しがみついてくるマリアを引きずりながら、ユンゲルのいる部屋に向かう。

 さっき呪いを解除してもらった部屋の扉を開けると、少しくつろいだ様子でユンゲルが椅子に座っていた。そして壁際では女性の職員が紙の書類らしきものをまとめていた。


「おや?トウマ君じゃないか。どうしたんだい?」

「ああ、悪いんですけど、呪いを解いてもらいたくって。……ところで、あの迷宮に迷い込んだ人は大丈夫なんですか?」

「ああ、今職員が探しているから、もうじき見つかるんじゃないかな。まあ、トウマ君の前に呪いを解除した人も、帰る途中で迷い込んじゃったみたいだからね」


 軽い感じで言ってるが、そんなポンポン迷い込む迷宮って危険じゃないのだろうか。

 そんな会話をしていると、バタン!バタン!と扉の開閉音が聞こえ、バタバタと逃げるような足音が聞こえた。


「……?」


 部屋の扉を開け、廊下を見るが、すでに人の気配はなかった。


「誰かが逃げたような音が聞こえたけど……」

「ふむ。もしかしたら、泥棒とかかもしれんな」

「泥棒?」

「うむ。ここに収められてる呪いのアイテムによっては、珍しいものもあるから、売ればかなりの額になるものもある。例えば、マリアさんが持っているその青色の石も、世界に数個しかなく、値段にすれば数億くらいするぞ」

「は、数億⁉」


 はた迷惑なアイテムがそんなするなんて。


「……って、そんな悠長にしてていいのか?泥棒が入ってるかもしれないのに」

「大丈夫じゃ。この教会の出入り口は一つだけで、逃げるには受付を必ず通らなくちゃいけないからな」


 教会にある窓は小さく、人の出入りは出来ない。(なんなら小動物も厳しいくらいだ)


「……でも、武器とか持って襲ってきたら……」

「それも大丈夫。受付にいる子……レミはレベル100を超えているから、泥棒の方が返り討ちにされるな」


 あの子そんな強いのか。


「まあ、せっかく貴重な呪いのアイテムが壊されたりとかしたら嫌だし、見に行こっか」


 マリアはそう言って呪いのアイテムが収納されている部屋に向かった。



「うわ、なにこれ」


 扉を開けると、荒らされた室内が目に入った。と同時に鼻をつく悪臭が漂ってきた。


「やっぱ泥棒が……」


 床に落ちたアイテムたちを踏まないように奥へと入っていくと、俺とマリアは異様なそれを見つけた。


 床には教会の職員、デイモンが倒れていた。胴体には三本の呪いの剣が突き刺さっており、腕や足にはムチや斧、盾などが寄り添うように置かれている。

 よく見れば体にポーションが振りかけられており、その辺に空の赤い壜が二本ほど転がっている。ちょうどさっき見た、痕跡を消すポーションとかだ。

 デイモンの頭にはべっとりと血がこびりついている。かっと見開かれた目を見るに、すでに死んでいることは明白だったが、一応死体の脈を見る。


「どう?」


 後ろからマリアが聞いてくる。


「……だめだな、もう死んでる」



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