第102話「呪いのアイテムコレクション」

「じゃ、その装備品を見せてもらおうか」


 髪が若干白くなった初老の男に言われ、俺は右手首につけられた黒くて禍々しい見た目をしたブレスレットを見せる。


「ほー……こりゃまた珍しいもんを装備したもんだ」


 感心したような、呆れたような声を出してブレスレットを見る。

 担当するのは、このエレシウス中央教会唯一の神父であるユンゲル。


「ま、この程度のアイテムならすぐ終わるな」

 そう言って机の横に立てかけてある杖を手に取ると、ぶん、と俺に向かって大きく振りかぶり、小声で呪文を唱える。

 杖の先から眩い光が一瞬出たかと思うと、次の瞬間には右手首からブレスレットが外れていた。


「ん、これで終わりだな」

 そう言いながら、ユンゲルは外れたブレスレットを手に取る。


「じゃ、これは教会が引き取るってことでいいかい?」


 俺ではなく、横にいるマリアに向けて聞く。まあ、このアイテム自体はマリアのものではあるんだが。


「うーん……ダンジョンでも迷わないっていうのは惹かれるんだけどなー。またいつか使おうかな」

「俺は絶対付けないからな。数十分つけただけで俺の足の小指はやばかったのに、ダンジョンなんかで付けたらえらいことになるだろ」


 俺は全力で拒否し、ユンゲルに呪いのブレスレットを引き取ってもらう。


「よし、呪いも解いてもらったことだし帰るか」

「ええ?せっかく教会にきたんだから、良さそうな呪いのアイテムでも持って帰ろーよ」

「お前何しにここに来たのかわかってんのか?つーか良さそうな呪いのアイテムがあってたまるか」


 教会では、呪いを解いたアイテムを引き取って保管しているらしい。処分するとなると結構費用がかかるから、どんどんたまっていくんだとか。

 そして、そういう呪いのアイテムを持ち帰って効果などを確かめる、頭がおかしいのがマリアになる。


「あ、ここね。私がよく来る呪いの武器庫。結構いいものが置いてあるんだけど」


 帰ろうとしている俺を引きとめ、とある部屋の前でマリアは行きつけのカフェみたいな紹介をする。


「呪いの武器にいいやつとかあんのかよ」

「それはモノによるわよ。呪いの武器を装備することによるメリットとデメリットを比べて、デメリットの方が小さいものが、比較的いい呪いの武器になるわね」


 そう説明しながら、ギギギと割と大きな音をたてながら、さび付いた扉を開け、部屋の中に入っていくマリア。

 部屋の中は全体的に薄暗く、なんか埃くさい。


「なんていうか……禍々しいな」


 それが俺の第一印象だった。剣や杖、槍に弓という数々の武器や、盾や鎧と言った防具、指輪やネックレスと言った小物まで、数多くのアイテムがそこにはあった。

 そしてその全てに、ドクロだったり、悪魔のイラストや紋様があり、とてもじゃないが、使おうとは思えない。


「結構広いし、小さい頃だったらかくれんぼとかするよね」

「いや、それはないな」


 確かに物が多く、かくれんぼをするのには最適かもしれないが、呪いのアイテムに囲まれたところで遊ぼうなんて、普通の人は思わない。


「まあ、見た目は結構あれだけど、中身的には割といいアイテムもあるから。例えば、この剣とか」


 そう言ってマリアは、持ち手にドクロが刻まれたいかつい長剣を俺に見せた。


「これは、装備した人間の全ステータスを二倍にしてくれるの。攻撃力とか防御力とかスピードとか体力とか」

「へえ。でも呪いの武器なんだろ?」

「うん。この剣を装備したら、他の武器は使えなくなって、あと受けるダメージも二倍になるわ」


 まあ、呪いの武器としては割とオーソドックスな部類に入るな。続いてマリアは、その横にある少しカラフルな剣を取り出し、


「この剣は、使用する際の音が一切出ない武器ね」

「ふーん」


 と説明する。高レベルな戦いになると、武器を使用する際に生じる音―例えば剣が空を切る音などによっても左右される。そこで、そういった音を生じない武器にも需要が出たりするらしい。


「音が出ないってかなりすごいのよ?例えば、図書館で殺人犯である館長に追われているとするでしょ?」

「なにその限定的な状況」

「それで、その館長を本棚で倒すとするじゃない」

「そうなのか?いやよく分かんねーけど」

「本棚をドミノ倒しのようにして館長を倒すとき、本棚の倒れる音でバレちゃうじゃない。でもそんなときこの剣を使って本棚を倒せば、本棚が倒れていく音も消えるから、館長に不意打ちを食らわせることも出来るのよ」

「剣があるなら直接それで攻撃すればよくない?」

「まあそれはいいじゃない」

「で、それはどんな呪いがあるんだ?」

「うん、これを装備すると持ち主はコソ泥になるの」

「え、なにその呪い」


 精神的に病むとかなら何となく呪いの武器っぽいけど、コソ泥になる武器は初めて聞いた。


「じゃあコソ泥がそれ使ったらどうなるんだよ」

「打ち消し合って、呪いにはかからないわね」


 なんかマイナスとマイナスを掛けてプラスになるみたいな感じか。


「つーかさ、呪いの武器をためらいなく触ってるけど、呪いにはかかんないのか?」


 イメージだと、持ったりしただけで呪いが発動されるイメージがある。


「それは大丈夫よ。まず、武器も持った瞬間すぐに呪いがかかるわけじゃないし、鎧とかなら、しっかりと装備した時点で呪いが発動するわね。………まあ、私はあらゆる呪いを無効化するペンダントを持ってるから呪いにはかかんないんだけどね」

「なあ、最後聞き捨てならないことが聞こえたんだけど。自分は呪いにかからないアイテムを持ってて、俺には呪いのアイテムをつけたのか?」


 詰め寄る俺をわざとらしくスルーしながら、マリアは他の所を見だし、


「このポーションとかも面白いわよ」


 そう言いながら、部屋の右側にある棚に近づく。

 その棚には、色とりどりの透明な壜に入った液体がきれいにたくさん並べてあった。そしてその全ての壜にドクロのイラストが描かれてあった。


「なんか見るからにやばそうなんだけど、これは飲んだら呪いにかかるのか?」


 俺は似たような壜の中から一本黄色い壜を手に取る。


「基本的にはそうね。例えば、今トウマが手にしてるポーションは、飲むと魔法による攻撃をほぼ無効にできる防御力を手にできるけど、魔法攻撃はできなくなるわ」


 ってことは、そもそも魔法が使えない奴だったら、使おうと思えば使えるのか?


「あと、それめっちゃ不味いみたい。とてもじゃないけど、飲めないんだって」

「……そうか。…これは?」


 左手で奥にある青い壜を取り、右手に持っていた壜を元に戻しながら聞く。


「それ?それは飲んだら死んじゃうポーションね」

「シンプルに毒じゃん。呪い関係ないし」


 毒を長いこと持ってるのもなんかあれだし、すぐに棚に戻す。そして下の段から、また別の壜を手に取る。

「あ、今右手にある赤い壜のが、めちゃくちゃニオイのきついポーションね。体に振りかけるタイプのポーションで、かければモンスターがわんさか寄ってくるわ」


 確かに、閉じられた壜からはうっすらと刺激臭がする。


「……モンスターが寄ってくるだけの効果なのか?なんかステータスが上がったりとか」

「ないわね。ただただモンスターをおびき寄せる液体ね。まあ、経験値を上げたい人にぴったりかも」


 ドMのクルセイダーが欲しがりそうなポーションだな。体ににおいがついてもあれだから、棚に戻しておく。


「で、トウマが左手に持ってるのが、色々な痕跡を消す液体ね」

「なんかすげー犯罪の臭いがするな。っていうか、もう呪い関係なくなちゃったよ」


 そのポーションとよく似た赤い壜に入ってある液体を振りかければ、使用者の痕跡が消えるらしい。足跡とか指紋とか。血痕とかも消えるんだとか。実際、犯罪に使用されることもあるらしい。

 左手に持っていたポーションもさっきの壜の手前に置き、直しておく。その間に、マリアの興味は隣の棚に移っていた。


「あ、新しいやつが入ってる」


 と嬉しそうに言っているマリアだが、見ているのは新着の衣服ではなく、呪いの鎧だった。漆黒のいかつい鎧だ。


「それはどんな効果が?」

「えっとね、この鎧を装備することで、状態異常にならなかったり、即死系の魔法とかが効かなくなるわ」


 それだけ聞くと、かなりよさげなだが……


「呪いについてだけど、この鎧を装備することで言動が中二病になるらしいわ」

「なんじゃその呪いは。でも、今までの中じゃ一番被害が少なそうだな」

「そうでもないわよ。まともな会話の出来ない痛いやつになって、友達がいなくなるんだって」


 ぼっちには大丈夫な装備……かもしれない。


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