「呪い咲く武器を君に」問題編

第101話「呪われた名探偵」

 呪いの装備品。

 RPGをやったことのある人だったら、一度は見たことあるだろう。身に着けると、何らかの状態異常などを引き起こす武器や装飾品のことだ。

 そんな呪いの装備品が、俺の右腕についている。


「おい、マリア。これはなんだ?」

「それ?身に着けると、初めて行くダンジョンでも迷わずに済むブレスレットよ」


 なに当たり前のことを聞くの、とでも言いたげな顔だ。


「そうか。それだけ聞くと便利なアイテムのように聞こえるが、この禍々しい見た目からして、明らかにつけたら呪いがかかるやつだろ」


 黒いブレスレットには、これでもかというほどドクロの模様がびっしりと描かれている。


「え?そ、そんなことも……あるかもしれないけど……でもあれよ?呪いって言っても、百歩歩くごとに、足の小指を何かにぶつけるっていう呪いだから、命に関わるものじゃないわ」

「なんじゃその呪いは。地味だけど嫌だな」

「と、いう訳で、今まで行ったことのないダンジョンに行こう!」


 俺の腕をひき、外に出ようとするマリアをとめる。


「ふざけんな。ダンジョンに行くとしても、このブレスレットを外してからだ。……おい、これ外れないんだけど」


 ガチャガチャとブレスレット外そうとしたが、全く外せる気がしない。っていうか、これどうやってつけたんだ?


「あ、それ外れないわよ?呪いのブレスレットだから、死ぬまで外せないわ。外そうと思ったら、教会に行かなきゃいけないわよ」


 なんでもないように言ってのけるマリア。


「てめーそんなもんを俺に勝手につけたのか!試したいなら、自分でつけろや!」

「そうなんだけど、やっぱほら、命には関わらないとはいえ、呪いのアイテムだし、怖いじゃん」


 と言ってマリアは可愛い笑顔を向ける。最初の頃なら許してしまうかもしれないが、今はそんなに甘くない。


「ったく、ダンジョンには行かないからな。とにかくこれ外すために教会に行…痛っ!」


 早足で部屋から出ようとすると、足の小指を扉の角にぶつけて悶絶する。


「大丈夫?……それにしても、こういう呪いのアイテムってそういう呪いが実際にあるのか半信半疑だったけど、人に呪いが降りかかる瞬間を初めて見れたわ」

 

 痛みに耐えながら床にうずくまる俺に、心配するのもそこそこに、楽しそうに話かけられた。






 エレシウス中央教会。

 俺が今生活しているのが、エレシウス国といい、この世界の中でまあまあ大きい国なのだが、その中央に位置する教会だ。

 中央教会という名はついてるが、別に大きな教会という訳ではない。ただ地理的にエレシウス国の中央にあるからその名がついているだけで、教会自体はいたって小さな教会だ。

 屋敷から一番近いと言う事でその教会を目指したのだが、屋敷に置いてある鎧が俺の足の小指に倒れ掛かってきたり、すれ違う人が俺の足の小指を踏んづけたり。はたまたどこからか飛んできたバケツが足の小指にクリーンヒットしたり。

 教会までの道のりで、呪いのアイテムの名に偽りなしの効果をしっかりと発揮した。


 

 教会の入口には受付があり、職員(そう言って差し支えないだろう)が二人座っていた。


「あのー呪いを解除して欲しくて来たんですけど」

「分かりました。それでは、こちらの紙にお名前と、呪いの症状をお書きください」


 受付の一人がそう言い、もう一人が紙を差し出す。

 その紙にはすでに何人かの名前などが書かれていて、眠れなくなる呪いや、嗅覚を奪われる呪い、というような症状が書かれていた。そういった症状の下に、百歩歩くごとに足の小指に何かが当たる呪いと書くのだが、こうやってみると俺の呪いってものすごく変だな。


「あ、そうそう、その紙はきちんと正しいこと書かなくちゃだめよ。事実と違う事を書いたら、上からたらいが降ってくるから」


 とマリア。


「は?いや意味がよく分かんねーんだけど」

「例えば、トウマの呪いを二百歩あるくごとに足の小指に何か当たる呪いって書くと……」


 ゴーン!


「痛っ!」


 何もないはずの天井からたらいが俺の頭に落ちてきた。バラエティー番組かよ。


「ね、こうなるの」

「ね、じゃねーよ!つーかなんだこのシステムは!」

「正しい呪いの症状を把握するためよ。呪いにかかってない人が、女性にモテない呪いにかかってるってこの紙に書いて、たらいが降って来たとかあるみたい。まあ、肉屋のジョンさんなんだけど」

「いや、ジョンさんって誰だよ」


 とりあえず受付を済ませると、とりあえず順番がくるまで待つだろうと思い、近くにある椅子に座る。(歩いていると、足をぶつけるからだ)

すると、俺より先に座っていた男が話しかけてきた。


「どうも。あなたも呪いの解除に?」


 人見知りしなさそうな赤毛の男は、俺たちの近くにやって来ると、そう話しかけてきた。


「ええ、まあ」

「そうなんですか。見た感じ黒い背後霊とか見えないですけど、何の呪いにかかったんですか?」


 黒い背後霊ってなんだよ。そんな呪いもあるのか。怖いな。


「えーっと、足の小指に物とかが当たる呪いです」

「へえ、また聞いたことのない呪いですね。僕は、扉を開けたら人の着替えにばったり遭遇するという呪いにかかったんです」


 何そのラブコメ主人公みたいな呪い。


「そのせいで、トロールとかゴーレムのお着換えシーンを見る羽目になったからね……あれは嫌な光景だったよ」

「はあ」


 思っていたお着換えシーンと違った。っていうか、ゴーレムって服着てたっけ。



「えーっと、次の方―」


 病院の待合室で、次の診察を受ける人を呼ぶような感じで、教会の職員がやって来た。


「……えーっと俺ですか?」


 赤毛の男は呪いを解除してもらっていて、今この場にいるのは俺だけなので、順番的には俺のようだが……教会の職員はそれには答えず、


「えっと、今ウェインさんの呪いを解除したんだけど……」


 と受付の人に確認する。


「それなら、順番で言えばジェイコブさんね。でも、中の方に行ったけど、そっちには行ってないの?」

「ええ、来てないわ」


 そんな会話をしていると、赤毛の男が横から、


「……もしかしたら、悪魔の迷宮に行っちゃったのかもしれませんね」

「なんだその物騒な名前は」

「トウマは知らなかったっけ。この教会の地下に迷宮があるのよ。モンスターとかは出ないんだけど、一度入ったら最後、永久に出られない……っていう謳い文句で有名なの」

「怖すぎるだろ。……で、そのジェイコブっていう人が迷宮に迷い込んだのかもしれないって?」

「はい、たぶん。ジェイコブさんだけじゃなく、さっき診察したのウェインさんも見当たらないですね」


 二人も行方不明なのかよ。



「まあ、間違って迷宮に迷い込むことはよくあるので、順番を飛ばしてトウマさんから行きましょうか」


 教会の職員がそう、俺に言ってきた。


「え、そんな軽くていいの?二度と帰ってこれないんじゃ?」

「ああ、大丈夫ですよ。トウマさんの呪いを解除した後に、探しますから。たぶん、三十分もあれば見つかるかと」

「そっすか……」


 職員の人曰く、一日に5人は迷い込むんだとか。

 その迷宮の管理体制はさておき、とりあえず俺にかかった呪いを解いてもらうか。



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「呪い咲く武器を君に」は一日一話ずつ更新していきます(全7話)

 毎日21時頃更新予定

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