第104話「呪われた現場」

「……で、一応俺が呼ばれて来たんだが……まあ、後は任せるわ」


 ぼさぼさ頭の、少し痩せた背の高い男……レオポルドは現場に着くなりそう言った。

 そもそもこの世界で殺人事件が起こった際には、基本的にはその国の騎士団が事件の捜査を担当する。しかし、世界に影響力を持っている貴族の娘であるマリアが、第一発見者とはいえ事件に関わっているということで、この世界でも一部の人間しかなることの出来ない、ピース・メイカーと呼ばれる組織の人間が代わりにやって来ていた。

 このレオポルドもそのピース・メイカーの人間であるのだが、いつもやる気のなさそうな顔をしている。……めちゃくちゃ強いらしいけど。


「じゃあ、いつも通り捜査の権限は全部渡すから、俺の部下に指示出してくれ」

「相変わらずだな。もういい加減捜査も慣れてきただろ?」


 レオポルドと初めて会ったのも、魔王城で起こった殺人事件だった。その時は、殺人事件の捜査をやったことがないということで、異世界から来た俺の方がそういう捜査とかに詳しいだろうという勝手な考えによって捜査を丸投げしてきた。


「いやいや。こういう事件は『名探偵』に任せるに限るよ」


 ポン、と俺の方に手を置くレオポルド。


 言ってなかったが、この世界に来た俺が与えられた職業が『名探偵』だ。

 と言っても、別に推理能力が高いという訳でもないし、事件に遭遇しやすい能力を持っている訳でもない。ただ謎を解くとレベルが上がるという職業だ。

 この世界に来た、俺とは別の異世界人がノリで作った職業に、たまたま俺がなっただけで、モンスターとかとのバトルには全く役の立たない職業である。


「……はあ、まあいいや。じゃあ、死体の検分と、現場のこの倉庫について詳しく調べてもらおうかな。正直言って、呪いのアイテムだらけで、うかつに触れないし」

「そうだな。俺もこんなに呪いの武器にまみれた死体は初めて見たな」


 俺の言葉にうなずくレオポルド。


「で、この教会にいる人たちのアリバイかな。十一時くらいに俺とマリアが被害者に会ってて、死体を発見したのが十二時くらいだから、その間の教会の出入りを含めた、関係者の動きを確認したい」


「よし、分かった」

 俺の要望をそっくりそのままレオポルドが部下に伝え、部下の人たちはすぐさま行動に移った。



「ところで、こんだけ呪いの武器を使ってるけど、犯人は呪いにかからなかったのか」


 死体に突き刺さった三本の剣を指さして聞いてみた。


「たぶん、持って突き刺すだけなら、呪いにかかることはなかっただろうな」


 例えば、攻撃力が二倍になる代わりに防御力が半分になる剣がある。これを普通に持って、その辺の物を切ったとしても、この時点では通常の剣のまま。しかし、その剣を持った状態で『装備!』と唱えれば、使用者の攻撃力が二倍になると同時に呪いも発動する…というような仕組みになっているらしい。


「えーっと、死因はやっぱり頭部の傷なの?」



 死体の検分をしている捜査員に、後ろからマリアが聞く。


「……そうですね。頭の傷の様子を見るに、凶器は部屋の隅に転がっている木材ですかね」


 部屋の隅には、呪いの武器とは全く関係のない棒状の木材が転がっていた。教会のDIYをしたときに出てきた木材が、呪いの武器に紛れておかれていた。その内の一つを手に取ったみたいだ。


「えーっと、パッと見た感じだけど、被害者と犯人が争ってるよな?」

「そうだな。この部屋の奥が特に荒らされているし、犯人と被害者はこの辺でもみ合ったとされる。……具体的に言えば、犯人が倉庫のこの辺……つまりは一番奥で呪いのアイテムを物色していたところに、被害者がやって来た。で、しゃがんでいた犯人に後ろから声をかけるとか、肩を叩くとかした被害者に対し、犯人は下から体を突き飛ばした。で、この辺のアイテムに被害者が倒れこんだんだろう。遺体の衣服や体にそれらしき傷とかがついている。で、倒れて抵抗している被害者に、その木材でとどめを刺したってとこだろう」


 床に散らばったアイテムなどをよけつつ、レオポルドがそう言った。


「で、被害者を撲殺した後にこの剣とかを刺したってことか」



 三本の剣はいずれも、被害者が死亡した後に突き刺されたことは判明している。

「被害者に刺さっている剣ですが、それぞれ、『鳴無おとなし』、『邪夢じゃむ』、『加齢臭かれいしゅう』ですね」

「なんか最後おかしな名前じゃなかったか?」


 俺のツッコミをよそに、マリアがそれぞれの剣を説明してくれる。


「えーっと、『鳴無』はさっきも見た使用者の音を消す剣ね。『邪夢』は使用者の闇属性を強くする代わりに、悪夢を見る呪いにかかる剣ね。『加齢臭』は、使用者の幸運値が上がる剣ね。例えば、サイコロを振って二回連続一の目が出るくらいの。ただし装備すると使用者の臭いがきつくなる呪いが発動するわね。まあ、剣そのものからもニオイが発生するから、装備しなくても臭いんだけどね」


 最後の剣はデメリットしかない気がする。死体から臭うのはこの剣のせいか。

 

 その後も、現場となった倉庫を調べていったが、ポーションや呪いの武器のせいでこれと言った証拠などは見つからなかった。まあ、もともと埃っぽくて汚れていたのもあるとは思うが。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る