第77話「ありふれた出会い?」
「誰か!助けてー!」
どこから助けを求める声が聞こえてきた。その声にいち早く反応した小金井達は声の聞こえてきた方へと駆け出した。
「あ!」
見れば、馬車の周りにゴブリンらしきモンスターが多数おり、衛兵っぽい人間が二人戦っているが、多勢に無勢、押されている。
そして、ドレスとまではいかないが、高級そうな服を身にまとった少女にゴブリンが襲い掛かろうとしていた。
すると、先頭を走っていた小金井は大きく息を吸い込み、
「わっっ!」
と大声を出した。
「ギャウウウン!」
今まさに襲い掛かろうとしていたゴブリンは大きく横に吹っ飛び、炎に包まれた。
そういえば小金井の個人魔法で、自身の声に対応して炎を繰り出せるって言ってたな。見た限り、その使用についても慣れているみたいだ。
根津は小刀を取り出し、加速してゴブリンたちに近付いていた。目にもとまらぬ速さで四、五匹のゴブリンを切り裂いた。
青木は持っていた杖に念を込めると、杖が淡く光る。すると、負傷していた兵士たちが瞬く間に回復していた。
「……しばらく見ないうちにすごく強くなってないか?」
そんな三人の様子を遠めに見ながら、マリアに話しかける。マリアも、三人がいれば大丈夫だと判断したのか、バトルには参加していない。
「そうね。まあ、召喚された人は結構な確率で強くなるって聞いたことあるけどね。それよりも、変よね」
「何が?」
「いや、この辺でこんなにゴブリンが現れるのが。あの兵士さんたちも弱くはないわよ。それが負傷するまで数で押されるって聞いたことないから。もしかしたら、ゴブリンキングでもいるかも」
「ゴブリンキング?ゴブリンの王様か?」
「まあ、そんなとこね。かなり強いモンスターだけど、あの三人が協力すればたぶん倒せると――」
ドオゥン!
地響きとともに体長五メートルを超えるモンスターが降り立った。
「で、でか!」
「あ、あれは!」
馬車を襲っていたゴブリンを倒し終わった小金井たちは、新たに現れたモンスターに身構える。
「ふ、富美子ちゃん、強化魔法を!」
「わ、分かったわ!」
青木が小金井と根津に何やら魔法をかける。たぶん、身体強化とかそういう魔法だろう。
いざゴブリンキングと対決、というところで、
「
ドゴォオオン!
すさまじい音とともにゴブリンキングに黒い雷が落ちる。
ドシャッ。
その一撃でゴブリンキングは倒れた。
「……あ」
「なんでお前が最後のいいとこかっさらうんだよ!」
思わず固まってしまった三人に代わり、マリアの頭をはたく。
「いや、つい」
てへっ、と笑うマリア。
「あー……あ、け、けがはないですか?」
気を取り直すように小金井は襲われそうになっていた少女に声をかける。
金髪碧眼、肌の白いその美少女は見るからに貴族の娘といった感じで、そこはかとなくはかなさも感じる。
ロリータっぽいファッションだから、年下かと思ったが、よく見れば俺やマリアと年も変わらないかもしれない。
「はい、けがはありません。助けていただきありがとうございます」
ペコリと小金井達三人、そしてマリアの方にも頭を下げる。
「私はファイドラ・メネラオス・ローラ。ローラとお呼びください」
「あ、どうも小金井健太です」
「私は青木富美子って言います」
「私は根津小春です」
「よろしくお願いしますね」
にっこりと笑い、スカートを両手に持って軽く持ち上げる、いわゆるお姫様とかがやりそうなあいさつをするローラ。そのままマリアの方を見て、
「マリア様もお久しぶりですね」
「そうね。一年ぶりくらいかな?」
と会話をしだす。どうやら二人は知り合いだったらしい。
「知り合いなんですか?」
「ええ。ローラちゃんはトラキア国のお姫様よ」
「お、お姫様でしたか……」
思ったよりも位の高い人物だったのか、小金井達はわたわたし始める。
そんな様子を見つつ、ローラは、
「いえ、皆さん普通に接してください。ため口でいいですよ?」
「えー……いや、まあ……」
「私はそんなに偉くありませんから。マリア様の方が世界的に有名ですよ?」
「ああ、世紀のマッドサイエンティストとして有名なんだな」
「ちょっと待って。ちょっとおてんばなだけよ」
「ちょっとおてんばな娘が焼け野原をつくるのか?」
「いや、それは仕方ないじゃない」
俺とマリアのやり取りをローラはほほえましそうに見ている。
「えっと、そちらの男性は?ずいぶんとマリア様と仲がよろしそうですけど?」
「あー俺はトウマ。こいつの保護者みたいな存在だ」
「ちょっと待って。私お父さんいるからね」
「そうなんですね。納得です」
「ローラちゃんも納得しないで!」
「ところで、どうしてこんなところでゴブリンに襲われたのかしら?」
馬車の修復などを進めつつ、マリアはローラに聞いた。
「はい。実はエレシウス国に所用で出かけていました。その帰りにさっきのように襲われてしまいました。エレシウス国とトラキア国の行き来だけですので、護衛も数人だけでしたの」
「そしたら場違いなゴブリンに襲われたってわけね。しかもゴブリンキングまでね。……ひょっとしなくても、これってローラの命狙われてるわよね?」
「あまり考えたくありませんが、そうみたいですね。私のせいで兵士さんたちを危ない目に合わせてしまいました」
「い、いえ、とんでもないです!むしろ我々の力が足らず、姫様を危険な目に……こちらの方々が来られなければ、本当にどうなっていたことか……」
恐縮しつつ、兵士の中のリーダーっぽい人が頭を下げる。
「それで、命を狙うようなやつに心当たりは?」
「あまりありませんが、一応国王の一人娘ですからね……」
「今日、ここを通ることとかみんな知ってたりするの?」
「いえ、私が国の外に出ること自体、ほとんど極秘でしたので……」
「そう……今回は助かったけど、犯人を見つけなくちゃまた狙われるわね」
「やはり私は狙われているのでしょうか?」
不安そうな表情を浮かべるローラ。
「そうね。このゴブリンキング、確実に誰かの差し金よ。……でも安心して、この人たちが解決してくれるわ」
とここで、マリアは小金井の肩に手を置く。
「え⁉」
「まあ、ほんとですか!」
キラキラとした顔で小金井の方を見るローラ。
「ちょ、ちょっとタイム!」
小金井は慌ててマリアを少し離れた所まで引っ張っていく。
「急に言われても困るんですけど」
「大丈夫よ。三人よればもんじゃの知恵って言う言葉があるんでしょ?大丈夫よ」
「文殊の知恵ですね。食べ物になってます。いえ、そうではなくて、誰かに狙われているというなら、それこそトウマ君とかが行ったほうがいいんじゃ?」
「まあ、それでもいいんだけど……私が行くとなると色々と面倒だったりするのよ」
よく分からんが、世界的に有名な貴族のマリアが国の王族がらみのいざこざに口出しするのはまずいのだろうか。
まあ、俺も王族とか偉い人たちとそんな積極的に関わりたくないしな。
「まあ、大丈夫っすよ。あのローラ姫に協力してもらって、城内でちょこちょこ行動すれば、すぐに犯人も分かるだろうから」
「えートウマ君まで……」
「まあ、どうせここ五年以内に入ってきた宰相ポジションの奴が犯人だから、カマかければ一発だよ」
「え、そ、そうなの?」
「まあ勘だけど。じゃ、いってらっしゃい」
小金井の背中を押し、強引に連れていってもらう。
小金井達三人が、トラキア国で色々とトラブルに巻き込まれるわけなのだが、ここでは関係ないので割愛させてもらう。
ローラ姫一行を見送った俺とマリアは屋敷へと戻ることにした。
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