「酒場では毒殺にご注意ください」問題編

第76話「名探偵とお花畑」

 俺は花畑に来ていた。俺が暮らしているエレシウス国から北に一時間ほど歩いていった場所だ。


「なあ。まだか?もう帰ろうぜ」

「ちょっと待って。あと少しで見つかると思うんだけど……」


 マリアは地面に咲いている花々を一本一本丁寧に見ながら歩いている。

 ここにある花たちは、使えば小さな炎の魔法が使える花だったり、小さな電撃を放つことの出来る花など、いわゆる異世界らしい花たちが咲いている。こうした特殊な花が咲いているのは世界各地にあるが、この大陸ではここだけらしい。でも、効果がそんなに大したことないから、やって来る人間はほとんどいない。


「……そもそも何を探してるんだ?」

「一年のこの時期にしか咲かない花よ。しかも、今年の花は特別かもしれないからね」

「特別?なんか嫌な予感がするんだけど。どーせ、ろくでもない魔法が使えるとかだろ」

「失礼ね。私が探しているのは幸運の花よ」

「幸運か。……朝のニュースの占いで一位になれるとかそういうしょぼいスケールで運が良くなるとかだろ」

「違うわよ。その花を使えば、ダンジョンに行ってる途中、モンスターに襲われている人達を助けたら、たまたまその人がとある国のお姫様で、そのお姫様と仲良くなってさらに色んな美人と知り合って最終的にハーレムをつくることになる……っていう幸運ね」

「なんだそのラノベ主人公みたいな幸運は。っていうかマリアがそれ使って意味あんのかよ」

「良いじゃない別に」

「それに、それだけじゃないんだろ?それを使ったら副作用として良くないことが起こるんだろ?」

「なに決めつけてるのよ。ちょっとここの花畑が焼け野原になるだけよ」

「大惨事じゃねーか」

「あ、あった!」


 マリアは花畑の中から一本の花を地面から抜いた。花びらの一つ一つが色違いの珍しい花だ。


「おい、その花使うんじゃねーぞ」

「ああ、大丈夫よ。ここの花畑、アイテムとして使おうとする人いないから。だから、燃えても大丈夫だし、燃えたところで二週間もあれば新しく生えてくるから」

「それなら安心、とはならねーから。花の心配をしてるんじゃなくて、俺の身の安全を心配してるからな。それに、燃えたらやばい花とかもあるだろ」


 これまでの経験上、マリアが興味を示すものはろくでもないものが多いからな。


「大丈夫よ。モンスターも人間も問わず、食べたら死んじゃう花はたくさんあるけど、そんな爆弾みたいな物騒な花はないわよ」

「毒でも十分物騒だよ」

「あ」


 とここで、マリアが何かに気づくと、森の方へと駆け出した。


「いいところにいたわね!」


 森の中を見ると、見知った三人がいた。


「あ、マリアさんじゃないですか。それにトウマ君も」


 そこにいたのは小金井達だった。小金井健太、青木富美子、根津小春の三人はとある事件(怪物の集う島)にてこの世界に召喚された大学生だ。

 三人は冒険者として活動している。


「さ、このお花を持って!」

「な、なんですかこれ?」


 小金井は戸惑いつつも、その花を受け取ってしまう。

 受け取った瞬間、その花は弱々しくピカッと一瞬光った。

 

「…?今ちょっと光ったよね?」

「……そうだね」


 俺が止める前に花を受け取ってしまった小金井だったが、特に目立った変化はないようだ。


「おいマリア、これはもしかして使っても何ともならないこともあるのか?」

「そうみたいね。こういう幸運を持ち込むタイプのアイテムって十回に一回くらい何も起こらないことあるからねー……」

「そうか。まあよかった」

「あ、でも―――」


「な、なにあれ⁉」

「なんかすごい燃えてるけど!」


 青木と根津の指さす方を見ると、さっきまでいた花畑が燃えていた。


「まあ、幸運が来ても来なくても副作用の方は問答無用で起こるんだけどね」

「可愛らしく微笑んでもダメだからな⁉」


 来た道を戻れば、学校のグラウンドくらいあった花畑は見る影もなく、炎だけが存在していた。


「ちょ、ちょっと大丈夫なの?これ森の方まで燃え移ったりしない?」

「それは大丈夫よ。放っておいても勝手に炎は消えるけど……まあ、このままだとあれだし、私に任せて」


 慌てている青木を安心させるようにマリアが少し前にでる。


「えいやっ」


 マリアは無詠唱で風と水の魔法を使い、一瞬で炎を消した。

 

「すごー……」


 小金井達は純粋に尊敬したような眼差しでマリアを見る。

 まあ、マリアは結構な高レベル冒険者だから実力はある。中身はあれだが。


「それにしてもきれいに燃えたな。さっきまであった花が一切残ってないな。大丈夫なのか?ここにアイテム採取に来た人が驚くんじゃ?」

「大丈夫よ。さっきも言ったように二週間もすれば新しく生えてくるし、そもそもアイテムとして採取に来る人は物好きしかいないと思うわ」

 

 自分でも物好きの変人という認識はあるのか。

 たまに、農業をやっている人が害虫や畑を襲うモンスターを退治するために毒花を使うこともあるらしいが、最近は道具も発達してきてその使用も減っているらしい。





「誰か!助けてー!」


 どこからか女性の叫び声が聞こえてきた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「酒場では毒殺にご注意ください」は一日一話ずつ更新していきます(全8話)

 毎日21時頃更新予定

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 


 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る