「殺された死刑囚の問題」解決編

第75話「死刑囚はなぜ殺される」

 俺は集まっている十三人の前に立っている。

「えー今日起こったフェイオス死刑囚が殺害された事件について、ある結論に至ったので、それを聞いてもらいます」

 全員無言で話を聞いている。

「今回の事件は、死刑直前の囚人が殺害されるという事件でした。ただ、犯人の動機を考えるのはそんなに得意じゃないので、それ以外の観点から犯人に迫ろうと思います」


「まず、アリバイですね。犯行時刻は二時から二時半の間で、その間のアリバイを調べたところ、メランプスさんとバウボさんは犯行が不可能であろう、と分かりました。というわけで残り十一人です。

 つづいて、凶器。凶器となった槍ですが、これは倉庫内にあるものを犯人が取り出し、凶器として使用、その後再び倉庫内に戻しています。という訳で犯人は倉庫内に入ることができ、凶器となった槍を使って被害者を殺害できた人物になります」

「……まあ、そうね。でもそれっていたって普通じゃない?確かに凶器となった槍は大きくて使うのは結構大変だけど、ここにいる人たちなら魔法を使わなくても振り回して攻撃くらいはできるわよ」

 というマリアの言葉に何人かうなずく。

「いや、クベーラさん、イオカさん、ペリデスさんはこの条件から犯人じゃないとわかる。。三人とも手足は蹄だから、魔法も使わず槍を持つのは難しいからな。そもそも三人は凶器のある倉庫に入ることすらままならない」

 クベーラとともに倉庫に行ったとき、扉の暗証番号を打ち込み扉を開けたのはホーソンだった。小さなボタンを動物と同じような蹄では押せないからこそホーソンに頼んだのだった。


「残り八人ですね。さらに、倉庫に入るのに暗証番号を打ち込む必要があります。そして、倉庫はいくつかありますが、その中で凶器となった槍が入っている倉庫に入る必要があります。そして凶器を持った犯人は、初めてきた人は迷ってしまうように入り組んだ廊下を、巡回しているあの魔道具の水晶に映らないように現場に行き、現場から離れなくてはいけません。そしてそれを限られた時間で行わなくてはいけません。……というわけで、でしょう」

「そうね。三十分のなかでそれをすべてするのは無理そうね。だって……暗証番号はともかく、監獄内の見取り図とか外部に出してないわよね?」

「はい。脱獄等を防ぐためにその辺は徹底しています。監獄内の移動については、地図もないので職員に慣れてもらうしかないですね」

 マリアにそう聞かれたメランプスはしっかりとうなずいて答えた。


「残り六人ですね。そして、あの魔道具はランダムで監獄内を巡回しています。つまり、いつ、どこを巡回するのかは職員の人にも分からないですね。犯行時刻前後もあの魔道具は現場の前周辺を移動していました。音もなく稼働しているあの魔道具に映らずに犯行を行うことはできるでしょうか?」

 という問いにはホーソンが答えた。

「できますね。音はしませんが、からね」

「はい、そうです。ニオイを頼りにすれば、水晶に映らずに犯行は及べますね」

 あのスター○ォーズにでてくるあのロボットに似た魔道具は、ゴムと油を混ぜたような独特なニオイがしていた。

「……ってことは、って言いたいわけね」

「ああ、そうだな。これで残り四人になる」

「……まあ、そこは分かるけど……たまたま犯人はあの水晶に映らなかっただけっていう可能性はないの?細かいことを言ってるとは思うけど」

「まあ、そうだな。それを言ったら、今日赴任してきた二人も、倉庫にたどり着き、そこから現場に向かい、被害者を殺害、その後凶器を処理して自分の持ち場に戻るまで、たまたま一度も迷うことなく行けただけかもしれない」

 容疑者から除外された四人が再び容疑者圏内に入るような流れになり、それぞれ不安そうな顔になる。

「ただ、次の条件でそう言った人たちも除外できるから大丈夫だ。その条件は、

「返り血………」

「そう。あの現場は至る所に被害者の血が飛び散っていた。凶器の槍にしても、持ち手にまで血が付着するほどだった。魔法も使っていない

「……確かにそうですね。返り血の問題は当たり前ですがとても重要ですね」

「そう。しかもこの建物内にシャワーを浴びる場所もない。せいぜいトイレなどで手を洗うことはできるけど、それ以外の部分の血痕をきれいにするのは難しい。まして残った四人のうち、ミュルテさん、ファドラさん、ネメアさんの三人は、体の毛が人と違って長いですからね。なおさら返り血の処理は難しくなります」

 しかも、遠くにある凶器をニオイだけで見つけたホーソンがいる。布か何かで拭いただけなら、凶器と同じようにホーソンの嗅覚が逃さないだろう。

「しかし、皆さんの中で返り血を浴びている人はいません。じゃあ衣服の着替えを持っていたり、返り血を浴びても良いように何かを被っていたりしたのでしょうか」

「うーん……倉庫の中には使えるものもあるかもしれませんが、ここ最近開けられたのは武器の入った倉庫だけですからね。あそこにはその名の通り武器しか入ってないですからね。返り血を防ぐものはないかと」

「そうですね。他の場所、職員さんが行動する範囲内で何かが無くなったとかもありませんし、職員さんたちが監獄に入った時と先ほど身体検査、荷物検査をした時で無くなったものなどはありませんでした」

 俺がそう話しているなか、みんなの視線は残りの一人に注がれている。

「しかし。犯人はその返り血の問題をクリア出来るんです。そう、。犯行の際は服を脱いでおき、返り血を浴びた皮膚をそのまま脱ぐだけ。そうですよね、犯人のデュアさん」




 結局、デュアは特に反論することなく逮捕された。

 まあレベルが上がっていたから、推理は合っているだろうと分かった。しかもレベルが13も上がっていた。

 返り血の問題は犯人以外の人物がどうこうできるものではないから、デュア以外の真犯人の可能性も考えなくていいだろう。

 事件から数日後、ホーソンが屋敷に来た。

「デュアが犯人なのは間違いないと思うのですが、いまだ黙秘を続けているんです。それで、犯行動機も分かっていないのですが……トウマさんは何か考えがないでしょうか?」

「ああ、そうね。結局トウマも動機については何も言ってなかったわね」

 ホーソン、マリアに言われ、俺は仕方なく自分の考えを言う。

「……とりあえず、俺が思ったのは、なんでデュアは凶器に槍を選んだのか、ということだ」

「凶器を選んだ理由?」

 マリアが首をかしげるが、ホーソンは何かに気づいたように、

「あの槍が置いてあった倉庫には他にも武器がありましたね。ボーガンといった犯人に近付かずに攻撃できる武器もありましたし、他にももう少し返り血を浴びにくい武器もありました」

「そう。そして返り血の話だが、必要以上に血が噴き出るように殺害しているように感じたんだ。そして槍を突き刺すという殺害方法じゃなくて、切り裂くという殺害方法を取っている。さらにデュアは死体を桶の中に入れている。このことからデュアは、死刑執行で用いるんじゃないかと考えた」

「………?」

「デュアは聖なる水を準備するのを忘れたんだよ。あれって準備するのに一日以上かかるんだよな?」

「はい、そうですね。その日のうちに準備できるものではないですね」

「聖なる水を用意し忘れた状態で刑を執行できないと考えたデュアは、だったら死刑囚を死刑執行の前に殺してしまおうと考えたんだろ。ただ殺すだけだと、聖なる水が普通の水なのがばれてしまうと考えたから、デュアは必要以上に血がでるように殺害し、死体を水の中に突っ込んだんだろ」

 もしそのまま刑が執行されていれば、フェイオスが死亡した際に邪念や怨念が発生し、周りの人にバレてしまうかもしれないし、鼻の利くフェイオスがニオイがおかしいとバラしてしまうかもしれない、と考えたのだろう。

「……確かに、あれだけ血で汚れていれば、あの水が元々聖なる水だったのかどうか分からないですね」

「じゃあデュアはってこと?」

 信じられない、と言った様子でマリアが言う。

「ま、あくまで俺の考えだけどな」


 その後裁判で有罪となったらしいが、デュアは何も語っていないという。




「殺された死刑囚の問題」終わり






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