第58話「魔法使いが多すぎる」

 マリアをはじめとする陪審員たちは法廷から出ていった。

 最初は俺も陪審員として裁判に参加するのかと思ったが、ただ単に裁判の様子を見て欲しいということだった。

 異世界から来た俺に裁判の様子を見てもらい、改善した方が良い点などを見つけて欲しいようだ。だが、俺も別に裁判に詳しいわけじゃない。それこそテレビとかでしか見たことないから、知識なんかも皆無だ。

 まあ、殺人事件を扱う裁判が一日で終わるというのは日本じゃ考えられないか。ただ、この大陸でこういう裁判を行っているのはここしかないらしく、また人手不足で仕方ない面もあるらしい。

 

 ふと、周りを見渡してみる。傍聴席にはほとんど人がいない。事件の関係者……被害者の家族とか証言台に立つ人とかがいるくらいだ。

 今現在、俺の他にはさっきライリーを見たと証言台で話していたおじさんがいるくらいで、被害者の妻であるマニーも席を外している。


 三十分くらい経った頃。予定では判決が出るまであと三十分以上ある。ちょっと法廷の外に出ようかと思ったその時。


 ドゴォォオオン!


 爆発音が聞こえてきた。

 爆発音を聞いた俺はとっさに身構え、安全を確認しつつゆっくりと法廷の外に出た。廊下などには、爆発音を聞いてパニックになっている人たちがいた。

 爆発音が聞こえてきた方に向かうと、さっき見た裁判官や書記たちがある部屋の前で集まっていた。

「おい、マリア。今のは爆発だよな?」

 同じく爆発音を聞き駆け付けたマリアに聞いた。

「ええ。そうみたいね………」

 爆発のせいか、扉が外側にひしゃげているが、被害そのものは、部屋の外にはあまり出ていなかった。

 バタバタと裁判所の警備員がやって来た。そして爆発があった部屋に入り、中の様子を確認する。

 やや焦げ臭いが、爆発で火事が引き起こされた様子はなかった。

「この裁判所には外部からの攻撃とかを防ぐ強力な魔法というか結界が張られているから、被害がこの部屋だけで済んでいると思うわ」

 俺の思っていることをよんだのか、マリアがそう言った。

「そうか。……で、この部屋って誰の部屋だ?」

「ピンカートンですね」

 そばにいたオーティスが俺の言葉に反応する。ピンカートンということは、あの検事の男か。

 すると、中から警備員が出てきた。

「あの……中で人が亡くなっています。それで、どうしましょう?」

 と言った。警備員は裁判所で起こっている事件に戸惑っているようだ。

「そりゃ騎士団とかを呼ばなくちゃいけないだろう。私らはあくまで事件を捜査するわけじゃないからな」

 と裁判長のフィールズが言った。

「でも、どこの騎士団を呼ぶんです?ここは中立の場ということで、どこの国にも属していませんが。しかも、他の裁判の事とか、いろいろと問題は多そうですが」

 と裁判官のシャーリー。

「じゃあ、私がピース・メイカーでも呼ぶわ。それが一番いいと思うのだけれど」

 というマリアの提案に、

「……そうですね。お願いしてもいいですか?」

 代表してフィールズがお願いした。




 数十分後。

「こんにちは。ピース・メイカーのホーソンと申します。これから捜査を行いますが、どうぞ協力の方お願いいたします」

 ピース・メイカーであるホーソンがやって来た。ホーソンは部下に指示を出し、てきぱきと進めていく。

 関係者たちを別の場所に待機させ、ホーソンは俺とマリアを呼んだ。

「申し訳ありませんが、前の事件(開けっぱなしの扉)のように、捜査に協力していただけませんか?」

 相変わらず年下の俺にも丁寧な口調を崩さないホーソン。

「……まあ、俺で良かったら力になりますよ。…で、どこから見ます?」

 俺も捜査に協力するのには慣れてきた気がする。

「そうですね。死体の損傷が激しいですが……現場の様子を見ますか?」

「じゃあ、とりあえず」

 そう言って、ホーソンに続いて俺とマリアは爆発のあった部屋に入った。

 部屋の中にはいると、異様なにおいはするものの、部屋にある机であったり、椅子などは意外と原型をとどめていた。

 これもさっきマリアが言っていた魔法のおかげだろうか。

 

 そして、部屋の真ん中に死体があった。

 確かに死体の損傷はひどいが、ピンカートンの死体だと分かった。体格とか見た目だけでなく、着ているスーツや着けているネクタイに身に覚えがある。

「トウマさんから見て、この死体は検事のピンカートンさんで間違いないですか?」

「そうですね。もちろん、双子の兄弟とかいたら分かんないですけど」

「現時点ではそのような情報はありませんね。もちろん、全く別の人間の可能性も捨てていませんが」

 この後、ピンカートンをよく知る人たちにも遺体を確認してもらうなどして、遺体が間違いなくピンカートンであるということが確定した。


「えーっと、死因は爆発に巻き込まれて……でいいんですよね?」

 死体を調べているホーソンの部下に聞く。

「そうですね。ただ、被害者の頭部に殴られた跡があり、爆発に巻き込まれたときには意識がなかったのではないかと思われます」

「殴られた?」

「はい。花瓶か何か、重たいもので被害者の頭部を殴りつけ、意識を奪ったもようです。そして、部屋の中央においた状態で、何らかの方法を用いて爆殺したのかと」

「殴られた跡とか、爆発を受けた以外で不審な点は?」

「そうですね……爆風を受けていますが、それを除けば意外と服装の乱れも見られませんし、犯人と争った様子は見受けられませんね」

 爆発に巻き込まれているから、もっと黒焦げの死体とかを想像していたが、案外そうでもなかった。

「もともと、裁判所内で働いている方々が着ている服には、簡単ではありますが魔法が付与されているんです。そのため、爆発に巻き込まれてもこの程度の被害で済んでいるのかと思われます」

 とホーソンが俺の疑問に答えてくれる。

 貴族や国王など、重要な地位役職についている人や、兵士などの職業についている人たちは、万が一何者か(もしくはモンスター)に襲われた際に、被害を最小にするために魔法が付与された衣服を身に着けることがあるという。

 それに比べれば弱い効果ではあるが、裁判所内で働く人たちもそういった衣服を身につけているらしい。その効果としては、耐火性、耐熱性、耐刃性などが普通のものより強いくらいらしい。

 


「それで、この建物の中には何人いるんです?つまり、容疑者は何人なのかってことなんですけど」

 人通り現場となった部屋の中を見渡し、特に新しい発見がないことを確認したのち、入り口で待機しているホーソンに聞いてみた。

「それはまだ今からの調査しだいですが……少なくともこの裁判所にいるのは278人ですね」

 とホーソン。300人近くいるのか。

「それで、一番の問題はあれでしょ?どうしてこの裁判所内で爆発なんかが起こったのか」

「そうですね」

 マリアの言葉にホーソンがうなずく。

「裁判所に入るには厳重なセキュリティーチェックを受けますから、危険物が持ち込まれることが考えられませんし、入る人すべてに魔法力を抑える装備品をつけてもらっています。それは裁判官や検事、弁護士関係なく、すべての人にです」

「つまり、そもそもここで爆発が起こること自体おかしいってことだな」

「ええ、その通りです。そもそも爆弾と呼ばれるものも最近出てきたものなんです」

「そうなんだ。爆発魔法とか割とおなじみな感じがするんだけど」

「魔法はそうですね。トウマ君と同じように異世界からやって来た人が、魔法が使えなくても爆発を引き起こすことの出来る道具を開発したんです。ただ、そうした爆弾は、作り方が難解ですので、今回使用されたとは考えにくいですね」

「ってことは、やっぱり魔法で殺害したってことか」

「んーまあ、そうかもしれないけど……これをつけた状態で、人を殺せるほどの魔法が使えるとは思えないんだけどね」

 そう言いながらマリアは、手首につけた腕輪を見せる。

「全く魔法が使えなくなるのか?」

「全くっていうとあれだけど、どんな高レベルの魔法使いでも著しく魔法が使えなくなるからね。せいぜい、ろうそくの先に灯すくらいの火ならつけられると思うけど」

 軽く火をつけるくらいなら、ある程度離れた場所でもできるらしい。

「なら、腕輪を外せないのか?」

「それも難しいですね。付けたり外したりできるのは入口のみで、無理やり外そうとすると罰を受けます」

 罰を受けるってなんか怖えな。何されんだ。

 もし仮に腕輪を外せたとしても、それは裁判所の人間に分かってしまうらしい。

「まあ、その辺の詳しいことは置いといて、この裁判所内で魔法が使えるのはどのくらいいるんです?」

「えーっと、158人ですね」

 もちろん、アリバイとかそう言った観点からさらに人数は絞れるだろうが、結構な数がいるんだな。

「では、次はどうされますか?」

「そうですね……一応関係者に話を聞くところでしょうね」

「関係者、ですか。やはり、被害者が担当していた裁判の関係者ということになるんでしょうか」

「まあ、今のところそう考えてますね。被害者であるピンカートンの行動を追っていくのにも、それが一番な気がしますし」

「ま、今まで出てきてない人が犯人とかだったら読者もびっくりするもんね」

 急にメタ発言をしてきたマリアをスルーし、俺は現場を後にした。 










 

 



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