第59話「尋問」
「ピンカートンさんが殺害されたということで、ピンカートンさんの事をよく知るあなた達にお話しを聞きたいと思います」
関係者たちの前に立ち、ホーソンが話を進めていく。
裁判を行うメンバーは割と固定されており、ホーソンの言う通り、ピンカートンの事をよく知る人物たちと言っても過言はないだろう。
まあ、この場にいるマニーはピンカートンとは初対面だけど、一応魔法も使えるし、容疑者の一人ではある。
「事件が起こるまでの行動を教えていただいてもいいですか?」
「行動といっても、判決前の休憩に入ってから、ボーン君とシャーリー君とヒューム君の四人でこれまでの裁判の内容を確認するために十分ぐらいは話していたかな。それでオーティス君とかと大体一緒ぐらいの時間に法廷を出て、自分の部屋に戻ったよ。だから、ピンカートン君が法廷を出て十分ぐらいの時間差だね。それで次の裁判の内容とかを確認していたら爆発が起こったね」
代表してフィールズが答える。
「ピンカートンさんとは知り合って十年ぐらい経つそうですが、ピンカートンさんに敵などはいたでしょうか?」
ホーソンが質問を続ける。俺とマリアはそれを黙って聞いている。
「敵……ねえ……検事という職業柄、有罪にしていった犯罪者や、その関係者が恨むとかあるかもしれんが、それは我々裁判官も似たようなものだからね」
「私生活はどうでしょう?」
「うーん……よく飲みに行ったりはするけれど、私生活まで詳しく知っている訳じゃないからね。でもまあ、女にだらしないとか、お金関係でトラブルがあるようには見えなかったかな」
ボーンやシャーリー、ヒューム、オーティスたちも似たような印象らしい。
「酒癖が悪いとかそういうこともなかったですか」
「一緒にお酒を飲みますけど、そういう事もなかったですよ。まあ少し陽気になるくらいで」
とボーン。
「仕事の様子ですけど、どのような感じですか?真面目に仕事をしないから反感を買うとか、真面目過ぎて息が詰まるとか」
という質問にはシャーリーが答える。
「どちらも当てはまらない気がしますね。別に何事にも完璧を求めるような人物ではありませんけど、ずぼらという訳でも。まあ、程よく手を抜くことができる、といったところでしょうか」
「なるほど。……ヒュームさんはどうです?」
まだ何も発言していないヒュームの方を見てホーソンが尋ねる。
「そうですね……まあ、仕事中はピシッとしてますけど、仕事以外の時はわりとラフな格好を好んでいたね。まあ、目上の人とか初対面の人にはあんまりそういった格好は見せないけど、僕とか相手だとそういう面も見せるようになってますね」
知り合って十年も経てば、年上のフィールズや異性であるシャーリーとかにもピンカートンは気兼ねなく接するようになるということらしい。
まあ、十年も付き合いがあるなら、犯行の動機とか割とありそうな気もする。
「オーティスさんはどうです?」
「お金にだらしない面もなかったから、お金関係で問題はなかったと思うな。それは他の五人も同様ですけど。……仕事やプライベートでも交流はいくらかあったけど、問題に発展するようなことはなかったね。例えば、プライドが高い面もあったけど、別に際立って目立つわけでもなかったし……もちろん、猫被ってたらわからないですけど」
「検事と弁護士なら、一番仕事上の敵になりそうですけど」
と俺が思った事を言うと、オーティスは少し苦笑いを浮かべ、
「まあ、検事と弁護士だからね。……でも、こんなこと言うのはあれなんだけど、正直言ってあまり勝ち負けは気にしないというか……そもそも勝ち負けとかないんだけどね。例えば、十回裁判をして十回とも検事よりの判決が出たからと言って僕の仕事がなくなるわけではないからね。ほとんどの裁判は割り当てられるものだし」
日本の裁判だったら考えらえないようなことを言っているが、この世界では珍しいことではないことらしい。
「あ、それでも、僕らは手を抜いているというわけではないからね。裁判をしていてもし被告が無罪だと思えば、検事は無理に有罪にしようとせずに、無罪判決を受け入れるし、僕ら弁護士は明らかに犯行を行っている犯人に対して、無理に無罪を取ろうとはしないしね」
オーティスが慌てて付け加えるように言う。
「念のため、マニーさんもお話を伺ってもいいでしょうか?」
「はい、それはもちろん。えーっと何をお話すればいいのでしょうか」
「そうですね……裁判が一時中断された後の行動を伺っても?」
「裁判官の方々が法廷を出られてから、お手洗いに行ったり、ロビーで少し時間をつぶしていました」
「その時にどなたかを見かけたりは?」
「いえ、特には」
「そうですか。ちなみに、ピンカートンさんと面識は?」
「今日を合わせて二回会った程度ですね。一度目は、裁判を行うための聴取で。そして、今日裁判が始まる前にこの部屋にいるピンカートンさんを伺いました」
「なるほど。では、部屋を訪れた際、何か不審なものを見かけたりしましたか?」
「いえ、特には。一度しか見たことがないので、なんとも言えませんが」
同じく、裁判前に部屋を訪れていたヒュームにも同様の質問をぶつけたが、同じく不審な点には気が付かなかったという。
「さて……これからどうしましょうか」
一通り聴取を終え、場所を移してディスカッションを行う。
「そうですね……ところで、裁判所内にいる人たちの身体検査とかはしましたか?」
「ええ、それはもちろん。今のところ、怪しいものを所持していた人物はいません。また、裁判所内をくまなく捜索していますが、これと言った進展はありません」
まだ身体検査を受けていなかった俺とマリアも一応受けておいた。もちろん、何もなかったが。
「他に気になる事は?」
「被告のライリーについてなんですけど、ライリーと関係のある人とかっていますか?」
「ライリーですか。一応念入りに調べてますが、捜査や裁判の記録などを見る限り、身寄りもなく、関係性の深い人はいなさそうですね」
「ライリーが怪しいの?」
と横からマリアが首をかしげて聞いてくる。
「いや、なんとなくな。裁判中に検事を殺害する理由はなんだろうな、と思ったんだよ」
もしライリーなら、判決が出る前に事件を起こし、裁判を延期にしてしまおう、という考えがあったのかもしれない。ライリー本人は常に見張られていたため、犯人足り得ない。だから、共犯の可能性も少しは考えたが、それもなさそうだ。
「まあ、そうよね。もし何らかの動機を持ってたとしても、わざわざ裁判所内で殺害する必要性はないわね」
「爆殺っていう手段を用いてるところから、まともな理由じゃない気もするけどな」
まあ、動機とか考えるのは苦手だし、別の観点から考えた方が良いかもしれない。
「で、裁判所に入る時には厳重なチェックを受け、魔法はほとんど使えないように制御されているわけだけど、現場で魔法が使われているかどうかは分かるのか?」
「うーん……それは微妙なところかな」
というマリアの言葉に、ホーソンもうなずく。
「爆発の被害がこの部屋のみに抑えられたのも、この裁判所内にかけられている魔法のおかげでして、そういった魔法のせいで、区別がつきにくいですね」
この裁判所、外部からの攻撃とかテロ対策とかで、攻撃魔法は著しく制限されるが、防御系の魔法などにかんしてはそうでもないらしい。
ただ、そうした魔法が爆発を引き起こせるとは考えられないらしいが。
「ただ、裁判所内にいる方たちがつけている腕輪を調べれば、誰がこの部屋に近づいたのか、ということは分かりそうです」
「あ、そうなんですね。それなら、容疑者の数を減らせそうですね」
「はい。ちょっと時間がかかるので、お待ちください。それで、その間に調べておきたいことはありますか?」
「それじゃあ、さっき話を聞いた六人の所持品とか教えてもらえますか」
フィールズ
持ち物…裁判に関する書類及びそれを入れているファイル。筆記用具(筆、インク)歯ブラシ。歯磨き粉。髭剃り。ハンカチ。現金。
ボーン
持ち物…裁判に関する書類及びそれを入れているファイル。筆記用具(万年筆、定規)バスケット(昼食が入っていた。サンドイッチ)水筒(水が入っていた) 歯ブラシ。歯磨き粉。タオル。現金。
シャーリー
持ち物…裁判に関する書類及びそれを入れているファイル。筆記用具(万年筆、筆、インク)化粧品(口紅と白粉) 歯ブラシ。歯磨き粉。バスケット(昼食が入っていた。お肉とサラダ) 水筒(中身は紅茶)。ハンカチ。ちり紙。現金。
オーティス
持ち物…裁判に関する書類及びそれを入れているファイル。筆記用具(万年筆)歯磨き粉。歯ブラシ。ハンカチ。メガネ。現金。
ヒューム
持ち物…裁判に関する書類及びそれを入れているファイル。筆記用具(万年筆、定規)歯ブラシ。歯磨き粉。ハンカチ。水筒(中身は水)現金。
マニー
持ち物…化粧品(口紅のみ)ハンカチ。ティッシュ。バスケット(昼食が入っていた。クロワッサンやフランスパンなどのパン)水筒(中身は紅茶)現金。
なお、持ち物の名称はこの異世界では違うものも存在しているが、すべて日本にあるもので統一した。名称は違っても、中身はほぼ同じである。化粧品にしてもそうであるし、パンなどの食材も日本のものとほとんど同じだ。
また、荷物を入れているカバンについては、見た目やデザインは違うものの、素材そのものは全員が同じだった。
そして、六人全員が裁判所に入ってきたときの所持品チェックと比べて、何かが無くなったりとか、増えたということもなかった。(もちろん、飲食物に関しては減ったりしている)
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