第43話「召喚前夜」
O県T島。石炭が取れる島としてかつては人口二百人程度の村が存在していたが、石炭が取れなくなってからは衰退し、××××年には完全に人がいなくなった。
そんな島に十人の男女が訪れていた。この十人はK大学のキャンプ同好会のメンバーだった。夏休みなどの長期の休みの時期になると、山や海などのさまざまな場所に出かけ、そこでキャンプなどを行うのだった。
「人のいない村って雰囲気あるな」
島に降り立ったよく日に焼けた男が言った。その男は
「ホラー映画の舞台とかになりそうだよ」
横に立っている長髪の男がそれに同意した。
「人のいない村ですけど、意外ときれいなんですね」
同好会の中では一番の後輩であるショートカットヘアの女が言った。
「T島の管轄であるO市がこまめに来てきれいにしているみたいだよ。私たちみたいな観光客が多いからね」
隣に立っていた女が言う。
…こうやって一つのセリフと一緒にそれぞれの人物を紹介するのもいいが、めんどくさくなってきたので、残りはまとめて紹介する。
まず、この同好会の部長である
その会沢と同い年の
さらに二人と同級生の
菊田や青木と同級生である
同じく同級生の
最後も、菊田達と同級生である
以上のメンバーがこの島で二泊三日のキャンプを行う予定だった。
「テントなしっていうのは荷物が多少は少なくなって助かるよな」
寝床の準備した深尾が言った。村のほとんどの家が集まっている場所から、木造の一軒家を二軒選んで使用することとなった。
「まあ、建物が意外としっかりしてるからな。それより早く裏の森に行きたいよ。珍しい昆虫とかがいるのかも」
昆虫マニアでもある芳賀がせかすように言う。
「とりあえず準備は出来たし、夕方まで各自テキトーに行動するか。夕方になったら、晩御飯の準備をするということで」
部長である会沢が言う。そしてそれを隣の家にいる女子三人にも伝える。
それから各々が思い思いの行動をとった。細木は山に行き、牧坂は島の様子を写真に撮り、細木は釣りのポイントを探した。
他のメンバーは、この島のさまざまな場所を探検していた。
この島で一番大きな建物は、島の中央にある五階建ての普通の学校サイズの建物で、海と山の中間地点に存在していた。過去は、村の学校と病院、村の役場を兼ねた建物だったらしい。全体としてはカタカナのロのような形をしていて、かつて池があったとされる中庭を囲むようにして建物が立っている。
「ここ夜に肝試しとして使えそうだなー」
その建物を探検していた菊田が他のメンバーに向かって言う。菊田の他に小金井、青木、根津、屋代がいた。会沢と深尾は炭鉱に行っていた。
「でも、そんなに物は置いてないんだね」
青木の言う通り、学校の教室には机と椅子、病室ならベットのみという感じで、建物の中はいたって殺風景だった。菊田たちはちょうど五階にきていたが、机やいすが置いてあるだけで、当時を表すようなものはあまり置いていなかった。
また、中庭に面している廊下の窓ガラスは板でふさがれていて、外の様子を見ることが出来ない。おそらく、窓ガラスの劣化かなにかで割れそうになったのを板でふさいでいるだけだと考えられた。部屋の中にある窓はまだ残っているものもあるし、開けっぱなしになっている窓や、割れてなくなっているものもある。
「こういう場所だと私は鬼ごっこがしたいですね。逃○○みたいな」
根津が某テレビ番組の名前を言う。
「そろそろ戻らないといけないかな」
小金井が時計を見ながら言う。そろそろ晩御飯の準備をする時間になりつつある。ちなみに、この日はバーベキューをする予定だ。
「あ、あれ会沢さんたちかな」
菊田が部屋の中にある窓から外を見て言った。遠くで二人の人影らしきものが動いている。菊田は窓を開け、身を乗り出しながら、それが会沢と深尾であることを確かめた。小金井たちにはよく見えなかったが、視力の良い菊田にはわかった。
五時過ぎには皆が集まり、浜辺でバーベキューを行った。
「あ、そうだ。会沢さん、これも調理してくださいよ」
細木がそう言って先ほど釣った魚を出す。ちなみに、この同好会で料理を行うのは部長の会沢の他には青木や牧坂ぐらいで、他は食べる専門と言うかんじだ。
「さっきの時間でこんなに釣ったのか。これだけあれば、いろんな調理ができるな」
細木が釣って来た魚は十匹以上だった。いろんなものに凝るタイプの会沢は、料理の腕もなかなかで、限られた調理道具で様々な料理を出したのだった。
「それにしても、こんなにたくさんの魚、どこで釣ったんだ?」
感心したように屋代が尋ねる。
「浜辺近くの赤い屋根の家があるだろ?あそこをさらに奥に行ったところ」
「あの辺か。あそこって結構危険じゃないのか?」
細木が釣りを行った場所は、深くえぐれた湾のようなところで、落ちたら大変なことになるぐらいの高さの崖だった。
「まあ、飛び込みやったことあるから大丈夫。ああいう所の方が結構釣れるしね」
細木は根拠のない自信があるのだった。
「よし、まだ行ってないところでも冒険してみるか」
バーベキューも終わり、片付けもひと段落ついたところで屋代が言った。肝試し的なことが大好きな屋代らしい発言だった。
「結構暗くなってきてるし、私は遠慮しておこうかな」
牧坂をはじめとする女子メンバーは残ることに。残るメンバーでまだ誰も行っていない島の山の、さらに裏に向かうことになった。
炭鉱が近くにあるわけではないので、山の裏には特に何もなかった。せいぜい小さな小屋があるくらいで、かろうじて残っている獣道があるくらいだった。
「…ん?なんだこれ?」
そんな中、深尾が奇妙なものを見つけた。地面や崖の壁面に魔法陣のようなものが書かれていた。
「書かれてからそんなに時間が経っていないような感じだなあ。」
芳賀が書かれたものを懐中電灯で照らしながらまじまじと見ながら言う。
「なんか気味悪いですけどね」
魔法陣のようなものから、何か不気味なものを感じ取った小金井が言う。
「俺たちの前にきた奴が書いてったのかな」
「だったらそいつは中二病だな」
菊田と屋代が笑いあっている。
変わった事と言えばそのくらいのことで、その日は楽しく終わった。
島の中が地獄と化したのは翌日の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます