第43話「召喚前夜」

 O県T島。石炭が取れる島としてかつては人口二百人程度の村が存在していたが、石炭が取れなくなってからは衰退し、××××年には完全に人がいなくなった。

 そんな島に十人の男女が訪れていた。この十人はK大学のキャンプ同好会のメンバーだった。夏休みなどの長期の休みの時期になると、山や海などのさまざまな場所に出かけ、そこでキャンプなどを行うのだった。

「人のいない村って雰囲気あるな」

 島に降り立ったよく日に焼けた男が言った。その男は菊田きくた清一せいいちと言い、マリンスポーツが得意で、半そでから出ている腕もずいぶんと筋肉質である。

「ホラー映画の舞台とかになりそうだよ」

 横に立っている長髪の男がそれに同意した。細木さいき従道つぐみち、キャンプと釣りが好きな男で、今回は島釣りが楽しみだと言っていた。

「人のいない村ですけど、意外ときれいなんですね」

 同好会の中では一番の後輩であるショートカットヘアの女が言った。根津ねづ小春こはる、球技全般が得意なスポーツ女子で、すらりとした体つきだ。

「T島の管轄であるO市がこまめに来てきれいにしているみたいだよ。私たちみたいな観光客が多いからね」

 隣に立っていた女が言う。青木あおき富美子ふみこ、メガネにおさげという見た目で、インドア派に見えるが、根っからのアウトドア派女子である。

 …こうやって一つのセリフと一緒にそれぞれの人物を紹介するのもいいが、めんどくさくなってきたので、残りはまとめて紹介する。

 まず、この同好会の部長である会沢あいざわ忠吉ただきち。やせぎすな体をしていて、不健康そうに見えるが、アウトドアの知識はかなりのものである。

 その会沢と同い年の深尾ふかお安隆やすたか。体が大きく、運動が出来そうな見た目だが、帰宅部だったらしい。この中では一番参加率が悪い人物でもある。こないだの山でのキャンプには参加していなかった。

 さらに二人と同級生の芳賀はが広太郎こうたろう。金髪でピアスという見た目で、ヤンキーにしか見えないのだが、性格はいたって温厚で、見た目と中身が全然一致しない人物である。

 菊田や青木と同級生である牧坂まきさか正子しょうこ。ポニーテールが特徴のこの女子は水泳をやっていて、県で優勝したこともある。

 同じく同級生の小金井こがねい健太けんた。実はそんなにキャンプなどが好きというわけではないが、青木がこの同好会に入るということを聞いたのが、この同好会に入ったきっかけだった。

 最後も、菊田達と同級生である屋代やしろ貞利さだとし。実家が金持ちで、今回この島まで来るための船を手配したのは彼だった。とにかくいろんなことに挑戦するのがモットーで、最近ではスカイダイビングに行ったらしい。


 以上のメンバーがこの島で二泊三日のキャンプを行う予定だった。



「テントなしっていうのは荷物が多少は少なくなって助かるよな」

 寝床の準備した深尾が言った。村のほとんどの家が集まっている場所から、木造の一軒家を二軒選んで使用することとなった。

「まあ、建物が意外としっかりしてるからな。それより早く裏の森に行きたいよ。珍しい昆虫とかがいるのかも」

 昆虫マニアでもある芳賀がせかすように言う。

「とりあえず準備は出来たし、夕方まで各自テキトーに行動するか。夕方になったら、晩御飯の準備をするということで」

 部長である会沢が言う。そしてそれを隣の家にいる女子三人にも伝える。

 

 それから各々が思い思いの行動をとった。細木は山に行き、牧坂は島の様子を写真に撮り、細木は釣りのポイントを探した。

 他のメンバーは、この島のさまざまな場所を探検していた。

 この島で一番大きな建物は、島の中央にある五階建ての普通の学校サイズの建物で、海と山の中間地点に存在していた。過去は、村の学校と病院、村の役場を兼ねた建物だったらしい。全体としてはカタカナのロのような形をしていて、かつて池があったとされる中庭を囲むようにして建物が立っている。

「ここ夜に肝試しとして使えそうだなー」

 その建物を探検していた菊田が他のメンバーに向かって言う。菊田の他に小金井、青木、根津、屋代がいた。会沢と深尾は炭鉱に行っていた。

「でも、そんなに物は置いてないんだね」

 青木の言う通り、学校の教室には机と椅子、病室ならベットのみという感じで、建物の中はいたって殺風景だった。菊田たちはちょうど五階にきていたが、机やいすが置いてあるだけで、当時を表すようなものはあまり置いていなかった。

 また、中庭に面している廊下の窓ガラスは板でふさがれていて、外の様子を見ることが出来ない。おそらく、窓ガラスの劣化かなにかで割れそうになったのを板でふさいでいるだけだと考えられた。部屋の中にある窓はまだ残っているものもあるし、開けっぱなしになっている窓や、割れてなくなっているものもある。

「こういう場所だと私は鬼ごっこがしたいですね。逃○○みたいな」

 根津が某テレビ番組の名前を言う。


「そろそろ戻らないといけないかな」

 小金井が時計を見ながら言う。そろそろ晩御飯の準備をする時間になりつつある。ちなみに、この日はバーベキューをする予定だ。

「あ、あれ会沢さんたちかな」

 菊田が部屋の中にある窓から外を見て言った。遠くで二人の人影らしきものが動いている。菊田は窓を開け、身を乗り出しながら、それが会沢と深尾であることを確かめた。小金井たちにはよく見えなかったが、視力の良い菊田にはわかった。

 

 五時過ぎには皆が集まり、浜辺でバーベキューを行った。

「あ、そうだ。会沢さん、これも調理してくださいよ」

 細木がそう言って先ほど釣った魚を出す。ちなみに、この同好会で料理を行うのは部長の会沢の他には青木や牧坂ぐらいで、他は食べる専門と言うかんじだ。

「さっきの時間でこんなに釣ったのか。これだけあれば、いろんな調理ができるな」

 細木が釣って来た魚は十匹以上だった。いろんなものに凝るタイプの会沢は、料理の腕もなかなかで、限られた調理道具で様々な料理を出したのだった。

「それにしても、こんなにたくさんの魚、どこで釣ったんだ?」

 感心したように屋代が尋ねる。

「浜辺近くの赤い屋根の家があるだろ?あそこをさらに奥に行ったところ」

「あの辺か。あそこって結構危険じゃないのか?」

 細木が釣りを行った場所は、深くえぐれた湾のようなところで、落ちたら大変なことになるぐらいの高さの崖だった。

「まあ、飛び込みやったことあるから大丈夫。ああいう所の方が結構釣れるしね」

 細木は根拠のない自信があるのだった。



「よし、まだ行ってないところでも冒険してみるか」

 バーベキューも終わり、片付けもひと段落ついたところで屋代が言った。肝試し的なことが大好きな屋代らしい発言だった。

「結構暗くなってきてるし、私は遠慮しておこうかな」

 牧坂をはじめとする女子メンバーは残ることに。残るメンバーでまだ誰も行っていない島の山の、さらに裏に向かうことになった。

 炭鉱が近くにあるわけではないので、山の裏には特に何もなかった。せいぜい小さな小屋があるくらいで、かろうじて残っている獣道があるくらいだった。

「…ん?なんだこれ?」

 そんな中、深尾が奇妙なものを見つけた。地面や崖の壁面に魔法陣のようなものが書かれていた。

「書かれてからそんなに時間が経っていないような感じだなあ。」

 芳賀が書かれたものを懐中電灯で照らしながらまじまじと見ながら言う。

「なんか気味悪いですけどね」

 魔法陣のようなものから、何か不気味なものを感じ取った小金井が言う。

「俺たちの前にきた奴が書いてったのかな」

「だったらそいつは中二病だな」

 菊田と屋代が笑いあっている。

 変わった事と言えばそのくらいのことで、その日は楽しく終わった。

 島の中が地獄と化したのは翌日の事だった。


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