「怪物の集う島」問題編

第42話「名探偵は島へゆく」

 迷路洞窟での事件があった二日後。屋敷にユノが訪ねてきた。


「迷路洞窟の事件は迷惑かけたわね」

 真犯人とは別の人間が逮捕されたのだが、なんとか真犯人を突き止めることができた。ここに来る前に、その間違って逮捕された人のもとに向かい、謝罪してきたそうだ。

「まあ、ユノちゃんが逮捕したわけじゃないし。あれでしょ?隣の大陸で獣災が起こったから、そっちの方に行かなくちゃいけなくなったって言ってたけど、一日で平定できたの?」

 獣災とは、超高レベルな魔物たちが時空のはざまから大量に表れ、人々を襲う災害である。

「まあね。比較的危険度は低い獣災だったし、他のピース・メイカーもいたから、比較的早くに平定できたんだけど、ちょっと問題が起こって」

「……俺んところに来たってことは、殺人事件なのか?」

「うん。少し変わった状況で起こったんだけど……当事者から話を聞くために、今から現場に向かおうと思うんだけど……来てくれる?」

 まあ、レオポルドから依頼を受けて、いくつか事件の捜査に協力しているわけだし、特に断る理由もないと思い、二つ返事で了承する。

「なら、さっそく行きましょう」

 俺とマリアは、ユノに連れられ、屋敷の外に出る。

「じゃ、行くよ」

 ぶつぶつと呪文を唱えるユノ。

「呪文で隣の大陸に瞬間移動するってことか?」

「ええ。一瞬でつくから」

 なんていう会話を横にいるマリアとしていると、三人の足元に光り輝く魔法陣が現れ、体が宙に浮き……




「おえぇぇぇ……」

 地面にうずくまる俺。瞬間移動の魔法を初めて体験したのだが、ものすごく乗り物酔いをすることが分かった。マリアとユノは平気そうだが、慣れなんだろうか。

「すまない、瞬間移動の魔法ははじめてだったか。まれに酔いやすい人がいるみたい。でも、慣れれば大丈夫になるから」

 とユノ。マリアは地面にうずくまっている俺を見てにやにやしている。

「……それで、現場はこの辺なのか?」

「いや、この向こうにある小さな島だよ」

 ユノの指さす海の先には、うっすらと島が見える。

「じゃあ、その島に行くか。……できれば、酔いにくい移動手段で」



「そう言えばトウマってマリアに召喚されたんだよね」

「ああ。それが?」

 俺たち三人は空飛ぶ絨毯の上にいた。瞬間移動の魔法みたいに、乗り物酔いはしないが、空気抵抗が結構すごい。

「今回の事件の関係者なんだけど、全員が異世界召喚された人たちなんだ」

「異世界召喚……」

「そ。トウマは単独召喚だけど、この世界には集団召喚と言う魔法もあるんだ」

 まあ、どんな魔法なのかは想像できる。

「で、今回は少し特殊なケースなんだけど、転送召喚魔法が使われたみたいなんだ」

「ほんとに?それってかなり珍しいわね。私でもまだ使ったことないのに」

「まだって言ったか?お前使うなよ?」

 マリアの不穏なセリフを軽く流しつつ、

「で、転送召喚魔法っていうので召喚された人たちが殺人事件に巻き込まれたってことか?」

「そう。今から向かっているあの島なんだけど、あの島ごと別世界から転送されたんだ。そして、ちょうどその島にいた十人の男女がこの世界に召喚されたんだ」

 島が近づいてくる。船着き場やさびれた町並みが見えてきた。

「なるほど。所々建物が壊されてるんだけど、あれは魔物が暴れた痕跡だよな」

 半壊している建物もあれば、全壊している建物もある。

 だがそれよりも気になるのは、島の町並みがひどく懐かしい印象を受けることだ。

「……なあ、異世界召喚された人間だけど、もしかして、日本から来たとか言ってなかったか?」

「……そういえば、ニホンとかいう国から来たって言ってたと思う」

「もしかして、トウマと同じ国の人?」

「まだ断言できないが、たぶんその可能性が高い」

 今俺の目の前にある町並みは、田舎の漁村を思い出させる見た目だった。こっちの世界に来て、中世ヨーロッパの街並みを彷彿とさせる建物とかしか見ていなかったから、日本の建物が新鮮な印象を受ける。




 島に到着し、空飛ぶ絨毯から降りる。漁村に降り立つと、日本に帰って来た気がする。別にこういう田舎で生まれ育ったわけではないのだが。

「まあ、とりあえず、魔物は私たちピース・メイカーが退治しているから、この島は安全だ」

 あたりを見渡す俺にユノがそう言ってくる。

「あっちの大陸で起こった獣災で出てきたモンスターがこっちの島まで来たってこと?」

「いや、実はそうじゃない。獣災が起こったのは大陸だけの話で、こっちはまた別の原因でモンスターが発生してたんだ。召喚魔法が使われると、そこそこの確率でどこからか魔物がやってくるから。まあ時空とかのゆがみによるって聞いたことはあるけど、詳しい理由は知らない。……でまあ、魔物自体は大したレベルではなかったんだけど、いきなりこの世界に連れてこられた人には災いでしかないからね」

「そうか……この島を召喚したやつはどうなったんだ?逃げたのか?」

「いや。自分が召喚した魔物に殺された」

 本来、召喚魔法等は高レベルの人間にしかできないそうなのだが、最近は金さえ出せば、魔力を一時的に上げる道具等も手に入るため、自分が召喚されたモンスターをコントロールできず、自身が殺されるようなことが起きるらしい。


「それで、事件の関係者はまだこの島にいるんだよな」

「ああ。………ただ、三人しかいないんだけどな」

「三人?……ってことは……」

「そう、残念ながら七人は亡くなっている。……それで、ここから問題なんだ。七人の内六人は魔物に襲われて死亡しているのが確認された。そして、七人の内一人は、人の手によって殺されたんだ」




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「怪物の集う島」は一日一話ずつ更新していきます(全9話)

 毎日21時頃更新予定

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