第41話「犯人である理由 2」
「じゃあ、犯人が分かった理由でも聞かせてもらおうかしら」
屋敷に帰りつくなり、マリアは俺をつかまえて聞いてきた。
結局あの後、俺は騎士団のところに乗り込んでいき、真犯人を指摘した。マリアの名前と、レオポルドとかピース・メイカーの名前を出したおかげで、誤りを認めたくなさそうな騎士団を黙らせ、真犯人のもとへと赴いた。
真犯人も観念したのか、比較的すぐに罪を認め、緊急逮捕の運びとなった。
そしてオリガも無事に釈放された。
マリアは、真犯人逮捕の経緯と、その名前は知っているが、どうしてその結論に至ったのかについては詳しく説明していなかったため、今こうやって問い詰められている。
「分かってるって。じゃあ、一から説明するぞ?まず、オリガが犯人だと考えた経緯については、エリックの両手がふさがっていて、ランプという光源を持っていなかったことによるよな?」
「ええ、そうだったわね」
「で、このとき、おかしなことがある。それは、エリックの持っていた、刃こぼれ一つないきれいな長剣だよ」
「……あ、そっか」
マリアも俺の言いたいことが分かったみたいだ。
「あれだけ狭い洞窟で、あの長剣を使ったら、俺の持ってる剣みたいにボロボロになるだろう」
「……ってことは、犯人がわざと剣を握らせたってことね。えーっとつまり、犯人のギゾーコーサク?」
「偽装工作な。……んで、エリックは殺害された際に長剣を持っていなかったと考えられる。まあ、それでもエリックが犯人の前を歩いていたことは変わらないから、左手に持った盾を持ちながらスライムをよけていたんだろう」
「えっとつまり、右手の長剣は犯人が持たせたってことは、オリガが犯人だって言う根拠が崩れるってわけね」
「ああ。剣はさやに入れてるとしたら、右手が空いていることになる。だったら、その右手でランプを持っていてもおかしくない。むしろ先頭を歩いているんだから、その可能性が高くなる」
「確かに、盾で体を守りながら反対の手でランプとかを持つのはおかしくないわね。……だけどちょっといい?確かにトウマの言う事は分かるけど、それが、オリガが犯人じゃないという根拠にならない気がするんだけど」
「その通りだな。あくまで剣の代わりにランプを持っていたからって、光の魔法が使えるオリガが犯人じゃないという根拠にはならない。魔力の消費を抑えるために道具を使ったってこともありえるし、エリックが持っていたのはランプじゃなくて地図とか他の可能性もある」
「だったら……」
マリアが何か言おうとするのを遮り、
「ここで重要なのは、エリックを殺害した犯人として、ニッキイ、オリガ、カーターの三人ともに可能性があるってことを言いたいだけだ」
「それは分かったわ。でも、それって結局振り出しに戻るってことじゃないの?剣の事から犯人が絞れるんじゃないのね」
「まあな。犯人がわかるのはここからだ」
「と言っても、そんな難しいことを考えるわけじゃない。至極当然なことを追及すれば犯人はすぐわかる」
俺の言葉に怪訝そうな表情を浮かべるマリア。
そんなマリアに構わず、俺は説明を進める。
「いいか。俺が考えたのは、エリックを殺害した凶器はどこから出てきたってことだ」
「それは犯人が……って誰もナイフなんて装備してないわね。ってことは……」
「考えられるのは、洞窟内で拾ったとかもあるが、それはない。なぜなら、俺たちが入る前に清掃のおっちゃんが洞窟内をきれいにしたからな」
「そうだったわね。じゃあ……」
「決まってるだろ。棺の中のアイテムとして入っていたとしか考えられないだろ」
「……そうだったわ。死体発見ですっかり忘れてたけど、棺の中にアイテムとかなかったわね」
「ああ。で、容疑者三人プラス被害者のエリックの所持品を調べたけど、見慣れないものを持ってた人はいなかった。で、ナイフの刺さった死体を外に運んで、今日俺とマリアが迷路洞窟に戻ったら、棺の蓋は閉じてて、中にゼリーの詰め合わせが入っていたよな」
「アイテムであるナイフがダンジョンの外にでて、棺がリセットされたんだったわね」
「ああ。それで、犯人は棺の中のアイテムを使ったと言う事は、犯人とエリックは最後の間に入って、二人で棺を開けたんだろう。まあそれは棺の蓋の指紋とかで分かってたけどな。洞窟を歩いていたエリックと犯人は、最後の部屋に入り、棺を開け、アイテムであるナイフをゲットした。そして犯人とエリックは最後の部屋を出る。エリックが前で犯人が後ろという並び方で歩いているところを、犯人は背中を一突き。そして殺害したエリックの死体を引きづって棺の中に入れて、蓋を閉じてその場を離れた」
すぐに迷路洞窟を出ようとしたのかは分からないが、俺たちが死体を発見して、犯人は他の二人と会ったことで、再び現場に戻ることになったのだろう。
「で、二人以上冒険者がいる時、宝箱等の中身は誰のもとに行くんだった?」
「あ、その中で一番レベルの高い人……」
「だろ?なら、エリックと一緒にいて、棺の中のナイフを手に入れることができるのは、エリックよりレベルの高いカーターしかいない。だから、犯人はカーターということになる」
「で、でも、一旦エリックにナイフが行ったとしても、犯人に渡すことも……」
とマリアは言いかけて途中でやめた。
「ああ、その可能性もあるな。でも、エリックはケチだったよな。たとえ自分には関係ないアイテムや道具で、知り合いがそれを欲していても、渡そうとはしない性格なのは、一回会っただけの俺でも知ってる」
さて、なぜカーターがエリックを殺害したのか、その動機であるが、女性問題だったらしい。
なんでも、カーターの彼女の不倫相手がエリックだったそうだ。
棺の部屋を出て、帰ろうとしている時、ふとした発言でカーターはエリックが自分の彼女と浮気していると勘づいたらしい。
そしてカッとなったカーターは、手にしたばかりのナイフでエリックを刺したと言っている。
「自分でもよく分からないんです。気づいたら、目の前でエリックが倒れていて……
その後は無我夢中で……棺の中に死体を入れたのも、その場しのぎだったんです。早く洞窟からでようと思ったんですけど、死体が見つかって、ニッキイやオリガと会って、帰るに帰れない状態に」
そんな風に取り調べで話していると聞いた。
「まあ、前から気に食わない部分はあったんですよね。でも、殺してやろう、とまでは思っていなかったはずなんです。なんででしょうね……無防備な背中を見て、誰かが僕の背中を押した感じでした」
自白したカーターはどこかすっきりした様子だったという。
「棺のある死体」終わり
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