「棺のある死体」解決編
第40話「犯人である理由 1」
「実は、オリガが逮捕されたんだ」
「オリガが?……なあ、ユノからなんか聞いてるか?」
俺は後ろにいたマリアに聞いてみる。
「…あ、そういえば、昨日の夜遅くに、隣の大陸で獣災が起こったからって、そっちの平定に行かなくちゃいけなくなったって言ってたわ」
獣災とは、超高レベルの魔物たちが大量に表れ、村や街、国などを襲う災害の事だ。
「そうか。…じゃあ、事件の捜査権とかはどうなるんだ?」
「この国の騎士団が引き継いだって。現場にはまだ行ってないみたいだけど、捜査情報は全部引き継いだって」
「じゃあ、引き継いですぐに犯人が分かったってことか?」
「な、なんかそうみたいで……たまたま、オリガと一緒にいたところに、その騎士団の人が来て、エリックの殺害容疑で逮捕するって……もちろん、オリガはなんで、反論したんですけど、有無を言わさない感じで連れていかれて……」
不安そうな表情を浮かべ、ニッキイは説明する。
「逮捕の理由については言わなかったのか」
「はい。ただ、よく考えればすぐに犯人なんてわかるだろう、って言われました」
よく考えれば、か。マリアは、あることが気になったらしく、
「もしかして、その騎士団の人間って、アルタミとかいう名前の男だった?」
「……ええ、たしかそうでした」
「知り合いか?」
「まあ、知っているといえば知っているってところかな。一応貴族の家の出身で、インテリでエリートぶってる顔をしている男ね」
そう評しているってことは、マリアはそのアルタミっていう男のことが嫌いなんだろうな。
「で、そいつはなんか問題を起こすやつなのか?」
「うーん……別にそういうわけじゃないと思うけど。どちらかと言えば、優秀な成績を残してるらしいけど」
「あ、あの、それよりも本当にオリガは犯人なんでしょうか?オリガが犯人とは思えなくて……」
脱線しだした俺とマリアの会話をニッキイは横から口をはさみ、元に戻そうとする。
オリガの事を心底心配しているニッキイを見て、ニッキイはオリガに惚れているんだろうか、と思った。いや、勘違いかもしれないが。
好きだからこそ、犯人であってほしくない、みたいな。
「確かにそうね。考えたらわかる、っていうけど、どういう根拠で逮捕したのかしら」
とマリアも同調する。二人は俺の方を見る。
「……少し思いついたことがあるから、とりあえずその辺の店で話す」
と、近くにある喫茶店を指さし、俺はそう言った。
「えーっと、まず大前提として、エリックは事故でも自殺でもなく、誰かに殺されて、その犯人はニッキイ、オリガ、カーターの三人の中の一人っていうのはいいか?」
テーブルにつき、メニューを頼んだ俺は、話を始める。
「まあ、それはそうだね。君とマリアさんはずっと一緒にいたからね」
「そして、犯人は一人だってことはいいか?」
「まあ、それもいいと思うよ。二人以上だったら、お互いにずっと一緒にいたって言うと思うし」
とニッキイ。
「で、事件の流れとしては、洞窟内を犯人とエリックはある程度一緒に行動していた。会ってすぐに殺害しようとすれば、エリックも抵抗するだろうし、洞窟内は音が反響して、こっそり後ろから近付いて殺害するっていうのも難しい。まあ、魔法とか使えばできたかもしれないが、魔法は使われてなかったわけだし。となれば、犯人はエリックの後ろについて洞窟内を歩いていたということだ」
別に今更確認する必要もない事柄かもしれないけど。
俺はさらに話を進める。
「で、エリックの死体の様子を思い出してほしい。右手に長剣、左手に盾を持っていた。そして、エリックの所持品も調べたが、その中にランプのような明かりの類を持っていなかったよな?」
マリアとニッキイが同時にうなずく。
「でも、あの迷路洞窟は明かり無しでは歩けない」
実際、入り口からすぐのところでさえ、前の見えない暗闇だった。
「ということは、洞窟内を照らす明かりは、犯人の方が持っていたということだ」
店員が食事を持ってきたため、一旦話を中断させる。店員が離れ、俺は水を一口飲んでから話を続ける。
「じゃあ、エリックの後ろにいる犯人がランプを持ってついて行っていたのだろうか?……いや、後ろの人間がランプを持っていても、たいして効果がない。というか、ものすごく歩きづらい」
「そうだったわね」
迷路洞窟でのやり取りを思い出したのか、マリアがうなずいた。
「ここまで考えると、前の人物の両手がふさがっている場面で、後ろの人間が光源を用意するとするならば、残る手段は魔法による光源になる。で、そういう光の魔法がつかえるのは、『賢者』、『魔法使い』、『魔法戦士』、『僧侶』の四つの職業。三人のなかで当てはまるのはオリガということになる」
俺の考えを聞き終えたニッキイは、ショックを受けた様子で帰っていった。
「で、どうするの。事件いつの間にか終わっちゃったみたいだけど」
昼食を食べ終えたマリアがそう聞いてきたが、終わった事件に関して俺にどうしろというのだろう。
「まあ、とりあえず飯も食い終わったし、武器屋にでも行こうかな」
「別に今日のこれからの予定を聞いてるわけじゃないんだけどね。トウマの考えがあってるのか、騎士団のところに聞きに行かなくていいの?」
「うーん……別にそれはいいかな。それよりも、迷路洞窟に行ったせいで、だいぶこの剣もボロボロになったから、直してもら……」
「どうしたの?」
急に動きを止めた俺に、怪訝そうな顔を向けるマリア。
「分かった」
「分かったって何が?」
「真犯人が」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます