第37話「迷路の先の殺人」
「……だめだ、死んでる。……なあ、ダンジョン内だけど、生き返らせることはできないのか?」
ダンジョン内であれば、生き返りの魔法とかが使える気がするのだが。
しかし、マリアは首を横に振り、
「だめね。……時間が経ちすぎているわ。残念だけど、生き返らせることは無理そうね」
魔王城みたいに、やられたら自動的に入口に転送される結界も張ってないため、やられたらそのままになるみたいだ。
もっとも、スライムしかいない洞窟であるため、死者が出ることなんて今までないみたいだが。
「……ん?これって昨日会ったエリックじゃないか?」
薄暗い部屋で、すぐには気がつかなかったが、よく見れば昨日会った戦士のエリックだった。手に持っている長剣や盾にも見覚えがある。
「この迷路洞窟に来てたのか……」
昨日このダンジョンの話をしたせいだろうか。
ともかく、事件が起きている以上、誰かしらは呼ばなくてはいけない。
「……で、どうするんだ?ピース・メイカーを呼ぶのか?」
「そうね……まあ、本来なら近くの国の特殊騎士団でも呼ぶんでしょうけど、私がいるからね」
こないだ起こった事件も、世界的に有名な貴族の娘であるマリアがいるため、捜査員が事件どころじゃないだろう、ということでピース・メイカーという超法規的な組織の人間を呼んだんだった。
そう言ってマリアは、魔法石を取り出し、ピース・メイカーを呼び出した。
「あの、どうかされましたか?」
と、部屋の扉から、声が聞こえた。
見れば、こないだ会った三人がぞろぞろと部屋に入ってくる。
当然、棺の中の死体にも気づくわけで、
「な、エリック⁉」
「ひゃああ!」
「し、死んでるのか⁉」
と三人が各々驚いたリアクションを見ることができた。
驚いている三人に事情を説明し、とりあえずここで待ってもらうことにした。
数十分後。
「えー連絡を受けて来たんですけど……げ」
最後の間に入ってきたのは、レオポルドやホーソンと同じような制服に身を包んだ、俺と同い年くらいの女だった。
背も高く、すらりとしていて、モデルのようなスタイル。目が少しつり目気味で、かなり気の強そうな見た目をしているが、かなりの美人なのは間違いない。
入ってきた女は、マリアに気が付くと、嫌そうな表情を浮かべ、マリアは対照的に嬉しそうな表情になった。
「あ、ユノちゃん。久しぶり~」
「ユノちゃんって言うな。……ったく」
「知り合いなのか?」
「うん。魔法学校の時の同級生。その時からレベル100を超える超優等生で、先生よりも強かったよね。それで、飛び級で卒業してそのままピース・メイカーに入ったのよ」
要はめっちゃ強い女の子ってことか。
「へー……マリアにも友達がいたんだな」
「感心するとこそこ?失礼ね」
「待って。別に仲良くないから。こいつが勝手に私のそばでうろちょろしてただけだから」
と、なんだかツンデレみたいな反応をするユノ。
「……もしかして、あんたもマリアと同じような貴族だったりするのか?」
マリアに対する態度、そして何やら家紋みたいな模様が描かれてあるペンダントを見て、何となくそう思った。
「……ああ、まあ一応な。私は、ダナエ・カエリウス・ユノ。一応貴族の娘だけど、別に気を使う必要はないぞ。…つっても、マリアに対して普通に接してるから、わざわざ言う必要はないか。……というか、あんた誰だ?……まさかマリアの……」
「保護者ってところかな」
「ああ、なるほど」
おかしな道具や魔法を使って、周りの人に迷惑をかけさせないための。
「ちょっと待ちなさい。私を何だと思ってるのよ。というか、ユノちゃんも納得しないで」
と、殺人現場で緊張感のない会話をしている俺たちに見かねたのか、ユノの後ろに控えていた部下っぽい男の人が、
「ダナエさん、あのそろそろ……」
と耳打ちをする。
「オホン。えっと、殺人事件が起こったって聞いて来ました。えー、ピース・メイカーのダナエと言います。ピース・メイカーですけど、新入りですし、年もみなさんと一緒くらいなので、普通にしてもらって結構です。」
とユノはニッキイ、オリガ、カーターに話しかけているが、ものすごく緊張した面持ちだ。
「えーっと、ちょっと狭いんで、一旦外に出てもらってもいいですかね?」
ユノの言う通り、あまり広くないこの部屋に、俺やマリア、捜査員のユノとかも含めると10人近くいることになり、少し窮屈だ。
というわけで一旦、ニッキイ、オリガ、カーターの三人には洞窟の外で待機してもらうことになった。
「……で、マリアは別に帰ってもいいんだけど。犯人じゃないんでしょ?」
三人が出ていったあと、ユノはマリアの方を見て一言。
「そうね。ずっとトウマと一緒にいたから」
「そ。なら帰っていいわよ。あんたを長いこと拘束してたら、上の人間になんて言われるか」
「別にそんなの気にしなくていいわよ。それに、ここには『名探偵』もいることだし」
「ああ……あんたが例の『名探偵』なのね。こっちに来る前に、レオポルドさんがトウマっていう『名探偵』を頼るといいい、みたいなことを言ってたけど」
「あー別に頼られてもな。一応事件は解決してるけど、運が良かった面もあるし」
と形ばかりの謙遜はしておく。
「まあ、ぶっちゃけこういう殺人事件は初めて遭遇するから、いまいち勝手がわからなくって」
「分かったわ。私とユノちゃんの仲だもんね。協力してあげるわ」
「いや、マリアには言ってねーよ」
という二人のやり取りを見てると、なんだかんだで仲がいいのかなって思えてくる。
「えーっと、まずは被害者の死因ね。……どうかしら」
棺の中に入っている死体を調べている部下は、俺たちの方を振り返り、
「はい、ナイフを刺されたことが死因のようです。特に争った形跡もなく、背中から心臓を一突きで、ほとんど即死だったかと」
戦士のエリックは、胸当て程度の鎧を着ていて、背中はほとんど丸出しったから、背中から刺されて致命傷を負ったのだろう。
「いつ頃亡くなったか分かる?」
「そうですね……今から二、三時間以内っていうところでしょうか」
「えーっと、私たちがこの洞窟に入ったのが五時間くらい前だから、それよりかは後ってことね」
そうか、五時間も俺たちは迷っていたのか。まあ、それはさておき。
「なあ、この迷路洞窟に出入りした人がどれだけいるとか分からないのか?」
あの三人がとても怪しいが、他の冒険者とかが犯人である可能性だってある。エリックを殺害し、早々に迷路洞窟を後にしている可能性もある。
「ああ、この迷路洞窟なら、ダンジョンの出入り記録があると思うけど」
「そうか。じゃあ、その情報を教えてくれるか?」
「いいわ。ちょっと待ちなさい」
そう言ってユノはどこかと連絡を取る。
数分後。
「えっと、情報によると、今日の八時から九時の間に清掃スタッフが洞窟に入って、十時から十一時の間に洞窟を出ているわ。そして、マリアとトウマがこの洞窟に入っていることが確認されてるわ。そして、十一時から十二時の間ににエリック、ニッキイ、オリガ、カーターが洞窟に入ったことが確認済み。そして、私たちがこの洞窟に入るまでの間に、洞窟を出入りした人はいないわ」
ちなみにこのダンジョンの出入り記録、四人の入った具体的な順番とかは分からない仕組みになっている。だから分かるのは、十一時から十二時の間に、被害者のエリックを含めた四人が洞窟に入ったってことだけで、誰が誰と一緒に入ったのかっていうのは分からない。
「えーっと、この洞窟に他の人間がいる可能性はないんだよな?」
「ええ。清掃スタッフがこの洞窟に入る時点での出入り記録によると、入った人数と出ていった人数に不審な点はないから、あなたたちがこの迷路洞窟に入った時点では誰もいなかったのは確かよ」
「……そうか。で、この迷路洞窟の出入り口は一つだよな?」
「ええ」
「魔法とかで、外から瞬間移動で中に入ったり、出入り記録に残らないように洞窟内に侵入することはできるか?」
「……たぶん、無理ね。もし仮にそんな魔法を使って、出入り記録に残らないように侵入できたとしても、現時点で膨大な魔力の痕跡が残ると思う」
だが、そのような痕跡は残っていない。
ということは……
「犯人はニッキイ、オリガ、カーターの三人の中にいるってことね」
……言おうと思っていたセリフをマリアにとられてしまった。
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