第38話「迷路の中の捜査」
「まあ、被害者と顔見知りの三人が同じダンジョンにいるから、犯人はあの中にいるだろう、ってのは分かるけど。……で、これからどうするの」
と、俺に丸投げしてくるユノ。なんかレオポルドと捜査するときと変わんない気がする。
「とりあえず……他に何か手掛かりとかないのか?凶器に関してとか」
「凶器ね。いたって普通のナイフよ」
「指紋は?」
「きれいに拭き取られています。刺したことにより、いくらか出血はしていますが、見る限り犯人が返り血を浴びた様子はないかと思います」
死体の様子を詳しく調べていた捜査員の人が答えてくれる。
「そういえば、この部屋の外に、血っぽい汚れがあったけど、被害者を引きづった跡だったのか」
「はい、そうみたいです。この棺のある部屋から出て、洞窟を少し歩いた場所が現場のようです。ある地点から被害者の血痕が地面に付着していて、そこからひきづってこの棺まで運んだみたいです」
同じ捜査員の人が答えている中、ユノはとりあえずうなずいている。部下の人の方が優秀そうだ。
「で、今思ったんだけど、凶器はこのナイフなんだろ?だったら、ナイフを装備することができる人が犯人なんじゃ?」
「ナイフを装備できるのはほぼすべての職業の人が装備できるわ。装備できないのは『戦士』か、『聖騎士』か、『借金取り』の三つの職業くらいね」
「なんか一つおかしな職業があったな」
とりあえず、容疑者三人ともが装備できるってことだ。
ただ、ニッキイは弓矢、オリガは杖、カーターは斧を普段装備しているため、普段ナイフを装備してないみたいだが。
「えっと、そろそろ死体を移動させようと思うのですが、いいですか?」
「ああ、そうですね。特に目立った証拠も見つからないみたいですし、良いと思います」
捜査員の人に聞かれて答えたが、こういうのはユノが指示を出す気がする。
棺の中にある死体を二人の捜査員が運び出している。死後硬直のせいか、手に持っている長剣や盾を死体の手から離すのに少し手間取っているみたいだ。
エリックの装備品や手荷物も調べたが、武器である長剣、防具である盾、薬草が少しと飲料水くらいで、特に変わった物はなかった。
「あ、棺に指紋とか残ってる?」
部屋の外に出ようとする捜査員を引き留めて聞く。
「えーっと、死体を発見したマリアさんとトウマさんの他に、被害者のエリックさんの指紋があります。場所は、ちょうどトウマさんの触った場所と同じくらいのところですね」
「じゃあ、犯人の指紋はなかったんだ」
「はい。ただ、マリアさんの指紋があった付近で布かなにかで拭きとられた痕跡はありました」
ということは、犯人が自分の痕跡を消したってことか。
「じゃあ、外で待っている三人に話を聞こうかしらね」
俺が一通り聞きたいことを聞き終えたと判断したマリアは、そう言ってその場を仕切ろうとする。
「いやお前が仕切るなよ」
と言いながらユノもついていく。俺はもう一度誰もいなくなった部屋の中を見渡し、棺の中もふくめ、何か変わったものが残っていないか確認したが、僅かに残った血の跡以外には特に見つけることができなかった。
洞窟の外に出ると、不安そうな表情をした三人が待っていた。
三人を見張っていた捜査員の一人がユノに近づき、
「一応所持品等の検査を行いましたが、特に怪しいものは持っていませんでした。そして、三人とも顔見知りなので、お互いの荷物を確認してもらいましたが、いつも冒険する時に持ってる見慣れたものだそうで、怪しいものはありませんでした」
と報告した。指示を受ける前にもうすでにいろいろとやっていたみたいだ。
「そう。まあ、もしかしたら洞窟内に何かあるかもしれないから……」
「はい、今洞窟内をしらみつぶしに調べています。おそらく、そう時間がかからないうちに調べ終わると思います」
「……そう」
「なんかあれだね。ユノちゃんがいなくても円滑に捜査が進んでるね」
マリアが一言。
「うるせーよ。いいんだよ別に。私はなんかあった時のためのバトル要因なんだから」
なんかあった時のバトル要因ってなんだろう。
「それと、三人にそれぞれ話も聞いたのですが……」
どうやら事情聴取も終えていたみたいだ。
「三人とも、特に誰とも約束することなく、一人で来たと言っています」
なんでも、昨日ダンジョンの話でこの迷路洞窟が話題に上ったことで、行くのを決めたみたいだ。
「そして、それぞれ一人で洞窟内を探索していて、ゴール……つまりは現場に近付いたくらいの時に三人が偶然顔を合わせたみたいです。そしてそのまま三人で最後の部屋に到着して、死体を発見したと言っています」
「つまり、誰もアリバイはないってことか」
「でもあれよね?犯人はエリックを後ろから刺していて、別に争った形跡もないから、エリックの後ろを歩いてたんでしょ?つまり、少なくとも犯人は洞窟内でエリックと一緒に行動してた」
「まあ、そうだろうな。いきなり近づいてきた犯人に無抵抗で刺されるのはまあ、ないかな。洞窟内は結構音も反響するし、近づいてきたら足音で分かると思うし」
「それで、三人に何か聞きたいことは?」
ユノが俺の方を見て聞いてくる。
「うーん……そうだなあ……洞窟に入ってそれぞれ一人で行動してて、死体発見の直前まで誰かと会ったっていうわけでもないんでしょ?俺から話を聞いても特に新しい情報もなさそうだしな……あ、エリックの持ち物を確認してもらってもいいか?」
「ああ、それもそうね」
三人にエリックの装備品、所持品を確認してもらったが、いつも見慣れないものを所持しているということはなかった。
「……ダナエさん、もう暗くなってきましたし、今日の所は……」
後ろから控えめに捜査員がユノに耳打ちする。
見れば、すっかり日もくれつつある。
「……そうね。みなさん、これから街の外…ひいては国外に出る予定はありあせんね?」
無言でうなずく容疑者三人。
「なら、本日はこれで帰ってもらって結構です。もちろん、急にいなくならないでくださいね?万が一そのようなことがあった場合、全力で居場所を探させていただきますので」
これまた神妙な表情でうなずく三人。
ユノがしっかりと念を押して三人は帰っていった。
三人が帰ってしばらくして、洞窟内を捜索していた捜査員たちが戻って来た。
「お疲れ様。どうだった?」
「はい、現場までにいたる洞窟だけでなく、行き止まりに通じる道も調べましたが、特に不審な物はありませんでした」
「そう。……ってことは、ほんとに手がかりがないわね。……で、トウマはどうなの?犯人は分かった?」
ユノにそう聞かれたが、正直言って今の時点では何も分からない。
「いや」
「……じゃあ、私たちも帰りましょうか」
ユノも捜査員を引き連れて帰る準備をしはじめる。
「なあ、この洞窟はどうするんだ?一応解決するまでは封鎖とか……」
「ああ、それなら心配ないわよ。入り口に結界を張っておくから」
ユノはそう言って短い呪文を唱える。すると、洞窟の入口に光のカーテンのようなものがかけられた。
「これで、入れなくなったわよ。……それで、明日以降も調査はしてくれるのかしら?」
「ん?……うーん、まあ、事件に関わった以上、解決しとかないとなんかモヤモヤするからなぁ……」
「分かったわ。じゃあ、あなた達二人は自由に現場に出入りできるようにしておくわ」
ユノは俺とマリアにも魔法をかける。
そうして、俺たちは迷路洞窟を後にした。
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