「棺のある死体」問題編

第33話「名探偵は冒険したくない」

「いい天気ね。絶好の冒険日和だわ」

 とてもいい笑顔でそういうマリアの後を俺はだらだらとついていく。

「なあ、どこまで行くんだよ」

 冬が過ぎ、春になりたての時期ではあるが、寒くもなくちょうどいい気候。ただ、かれこれ一時間近く歩いているので、さすがに疲れてきた。

 ダンジョンに行こう、と何度も言われ続け、根負けした俺はこうしてマリアについてきているわけだが、早くも後悔しつつある。

「そろそろ着くから。……ほら、見えてきたわよ」

 向こうに、色とりどりの花が咲いている野原が見える。

「花畑か?なんか異世界というかダンジョンぽくないんだが」

「まあ、ピクニックとかにぴったりの見た目だけどね。…でも、ここに生えてるお花たちは、色んな効果を持っていて、バトルとかでも使えるものがあるのよ」

 使えば体力の回復する木の実とかそういった類だろうか。

「で、この時期はとくに種類が多くてね。一人じゃ持って帰れないかもしれないから、一緒に来てもらったの」

 どんだけ持って帰るつもりなんだ。

「持って帰るのもほどほどにしろよ?……で、今手に持ってるのはどんな花なんだ?」

 マリアは、真っ赤なチューリップみたいな花を数本手にし、カバンの中に入れている。

「これ?この花を使えば、疑似的な炎の魔法が使えるの。こんな風に……えい」

 そう言いながら、宙にバスケットボールくらいの大きさの炎を出した。

「へえ。魔法が使えなくても、その花を使えば魔法みたいな攻撃ができるってわけか。それは便利だな」

 せっかく異世界に来たというのに、『名探偵』という職業のせいで、魔法もほとんど使えない。なんなら、扱える武器もほとんどない。

 でも、さっきマリアがやったみたいに、魔法が使えるんなら、もうちょっとダンジョンとかに行ってもいいなと思う。


「じゃあこの水色のやつはなんだ?」

「あ、それは毒ね」

「毒の攻撃ができるってことか?」

「ううん、食べたら毒で死ぬの。人間やモンスター関係なく」

 それを聞いて手に持っていた花を地面に捨てる。

「じゃあこの黄色い花は?」

「それも毒ね。食べたら体が光り輝いて死ぬわ」

「……じゃあこの虹色の花は?」

「毒よ。食べたらなんかやばい毒ね」

「毒しかねーのか!つーかなんかやばい毒ってなんだよ!」

 毒はたいていやばいと思う。

「い、いや、その辺は毒花ゾーンなだけだから。あの辺とかは毒花ゾーンじゃないから」

 マリアは慌てた様子で、俺を別の場所へ案内する。

 そうして、光沢のある青色の花を一本手にすると、

「この花の蜜を吸うと、消費した魔力を回復できるの」

「へー……でも俺魔法使えないしなあ……」

「まあそうね。それに、これを吸うと、魔力が回復するかわりに、頭がお花畑になるんだけどね」

「それやばい薬じゃないよな⁉デメリットの方がでかくね⁉」



 マリアが花を取っている間、俺はその辺をぶらぶら歩く。見た感じ、モンスターも見当たらない。たぶん、この辺に生えている花がやばくてモンスターも近寄らないんだと思う。

 小高い丘に、何か箱のようなものを見つけた。赤い色をした箱で、それはまさしく……

「……ん?宝箱か?」

 それはRPGとかで見る、ザ・宝箱だった。

「何か入ってるかも……」

 手を触れ開けようとしたところで、ふと思った。

 RPGの定番モンスターにミミックがいる。宝箱とかに擬態して、人間を襲うモンスターだ。

 こんな何にもない丘に、あまり汚れてない宝箱がポツンと置いてあるとか、よくよく考えれば怪しいよな……


「あ、それミミックじゃないわよ。この辺の地域にミミック系統のモンスターはいないから」

「……っ!」

 いつの間にか後ろにいたマリアが俺にそう話しかけた。

「…そ、そうか。で、この中には何か宝が入ってるのか?」

「んーまあ、大したものは入ってないと思うけど、そこそこの装備品とか入ってるんじゃないのかな」

 そんなマリアの言葉を聞きながら、俺は宝箱を開けた。

 すると、中には鉄製のそこそこ立派な盾が入っていた。

「へー盾か。なんか異世界っていう感じがする装備だ……な?」

 と、奇妙なことが起こった。手にしようとした盾が宙に浮き、マリアの手元に移動したのだ。

「……なんで?」

「あ、トウマは知らないかもしれないけど、こういうダンジョンで宝箱等からアイテムを見つけると、そのパーティーの中で一番高レベルの人がアイテムをもらう事になるのよ」

「そうなのか。……っていうか、俺とマリアってパーティーなんだな」

 気分としては、マリアの保護者みたいな感じなんだが。

「まあ、パーティーって言っても、その場に何人かいればパーティーになるけどね」

「……で、俺が見つけてもアイテムは全部マリアの物になるってことなのか?」

「ああ、それは大丈夫よ。私が譲渡すればトウマの物になるから」

 そう言うとマリアは短い呪文を唱える。するとさっきの鉄の盾は俺の手元にやってきた。

「へー結構重いな」

「まあ鉄だからね。……ちなみに、トウマの『名探偵』の職業じゃ盾は装備できないけどね」

「………渡す前に言えよ」






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「棺のある死体」は一日一話ずつ更新していきます(全9話)

 毎日21時頃更新予定

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