第32話「開けっぱなしの扉を閉じるとき」

「……あ、……いや……わ、私は犯人じゃ……」

 犯人だと指摘されたルドルフは、冷や汗をかきながら、犯人じゃないとアピールしようとしているが、しどろもどろになっている。

 みんなの視線に耐えられなくなったのか、ルドルフは立ち上がり、

「しょ、証拠はあるんですか?」

 とルドルフはなかなか犯人らしい発言をする。

「証拠については我々が全力をつくして探しますよ」

 というホーソンの丁寧ながらも有無を言わさないような言葉を聞き、ルドルフは再び黙り込む。

「………で、でも、私が真犯人に陥れられた可能性はあるのではないですか」

「じゃあ、それについて考えてみますか」

「え?」

 まさか反論されると思っていなかったのか、予想外と言った表情でルドルフは俺の方を見る。

「ルドルフさんが犯人に陥れられたとして、その真犯人の条件はなんでしょうか。……それは、ということです」

「まあ、罪を着せようとするなら、そういうことになるわね」

 マリアがじろりとルドルフの方を見る。

「そして、ということも考えたら分かります。自分たちよりどれだけ早く来ているのかも知らないですしね。この中で離れに行ったことがないと知っているのは、ルドルフさんと一緒に館に入った俺とマリアだけです」

「しかし、トウマ君とマリアさんは犯行時刻のアリバイがありますから、ルドルフさんに罪を着せた犯人はいない、ということですね」

 ホーソンがゆっくりと俺の言葉を引き継ぐ。

 ルドルフは黙ったまま何も言わなくなった。他の人はそんなルドルフをじっと見ている。そんなプレッシャーに耐えきれなくなったのか、

「………私が……やりました……」

 と弱々しい声で犯行を認めた。



 数日後。マリアの屋敷にホーソンがやって来た。

「先日はどうもありがとうございました。結局あれから素直に自供しましたし、このまま立件、裁判という事になりそうです」

「そう。……それにしても、本来ならしないような仕事をしてもらって申し訳ないわね。ところで、犯行の動機については何か言ってたのかしら」

「はい。ルドルフ曰く、仕事を首になるんじゃないかと不安になり、話しをしに行った際に、思い余って殺害したそうです」

「首になる?パーカーさんを見る限り、そんな様子は感じなかったけどね」

 俺もマリアと同意見だ。ホーソンはうなずきつつ、

「ええ、そうみたいです。ただ、他のパーカーさんが運営している会社の幹部たちによると、ルドルフが会社のお金を横領しているんじゃないかという疑いを持ってたみたいで、近く監査を行おうとしていたみたいです」

「……もしかして、それを噂とかで聞いたルドルフは、会社を首になるんじゃないかと不安になって、あの日パーカーさんに話に行ったけど、そこで墓穴を掘って横領をしていたことがばれた……とか?」 

 という俺の推察は合っていたみたいで、

「そうみたいです。ルドルフは本当に横領をしていたみたいですね。パーカーさんはそういった不正に対して厳しい人みたいですから、その場で本当に首を言い渡されたみたいです。そして、気がついたら殴り倒していたそうです」

「そう……」

 子供のころからの知り合いが殺された理由を、マリアは少し悲しそうな表情で聞いている。



「そういえば、後から思ったのだけれど、ルドルフが離れに入ったことがないと言う事を知っているのは私とトウマだけって言ってたけど、そうなのかしら。私たちとほとんど間を置かずにやって来たグレッチェンなら分かってたかもしれないわよ」

 ホーソンが帰った後、唐突にマリアが聞いてきた。

「……確かに、グレッチェンは俺たちとほとんど一緒にやって来たけど、その時にはすでにルドルフはトイレにこもっていて、グレッチェンはルドルフがいつ来たのかは把握できなかっただろう」

 マリアの持っていた道具のせいで、急きょトイレに駆け込むことになっていたからな。

「そういえばそうだったわね。……でも、私たちが離れに言っている間にグレッチェンとルドルフが何かしら会話をしてたかもしれないわよ」

「……まあ、百歩譲ってそうだったとして、グレッチェンがルドルフを陥れるんだったら、もっと手っ取り早い方法があったと思うんだよな。それは、だよ」

「万年筆……?…あ、そういえばグレッチェンが拾って渡してたわね」

 ルドルフの名前が彫ってある万年筆だ。晩ご飯を食べるため、ダイニングルームに集まった時に、グレッチェンがルドルフに手渡しているのを目撃している。

「もしグレッチェンが真犯人なら、それを現場に置いとけば、ルドルフの疑いはさらに濃くなるだろう」

「それはそうね。開けっぱなしの扉からルドルフが犯人だって推理するより手っ取り早いわね」



「そういやあのレオはどうなったんだ?」

 俺と同じくもとは異世界から来た喋るトイプードルだ。パーカーに飼われていたはずだったが。

「ああ、レオちゃんなら、ベティーさんの家で暮らしているわよ。パーカーさんを失って、悲しんでいる彼女を元気づけてるんだって」

「そうか。……でも大丈夫なのか?ベティーさんって一人暮らしだっけ?」

「ええ、そうよ。……まあ大丈夫まあでしょ。レオちゃんも、今は子犬だけど、元は女の子だったみたいだし」

「………え、まじで?」

 それが一番の驚きなんだけど。

「まじよ。知らなかったの?レオって言う名前はこっちの世界に来てつけてもらった名前みたいで、元々はアスカっていう名前みたい」

 ってことは俺と同じ日本人なんだろうか。まあ、今度詳しく話を聞いてみよう。



「そうそう、最近暖かくなってきたと思わない?」

 急に話題を変えるように言ってきた。

「……?……まあ、そろそろ冬も終わりなんだっけ」

「ええ。ここの所、寒くてダンジョンとかあまり行けてなかったけど、ぼちぼち行こうかなって思うんだけど……」

 目を輝かせてそう言ってくるマリア。どうせろくでもないアイテムとか魔法を使いたいだけだろう。

「あ、用事を思い出した」

「え?ちょ、ちょっとまだ話は――」

 面倒になった俺は、そそくさと部屋から飛び出した。




「開けっぱなしの扉」終わり




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