第34話「宝箱の中身はなんだろな」
花畑からの帰り道。少し寄り道したいということで、俺とマリアは湖の近くに来ていた。
「で、ここに何かあるのか?」
「うん。この時期にしか咲かない花があって、あらゆる異常状態を回復してくれる効果があるの」
「へえ。それはなかなか使えるアイテムだな。なんか副作用とかは?」
「一応あるわ。これを使うと、数日後に鳥のフンが頭の上に落ちてくるの」
うーん……微妙にツッコみにくい副作用だな。数日後という忘れた頃にっていうのもあれだな。
「……お、ここにも宝箱があるじゃん」
湖のほとりの木の陰に隠されたように宝箱が置いてあった。
「ん?中身がないな」
その宝箱はすでに誰かが中身をとったのか、ふたが開いていた。
「じゃあ、誰かが宝箱の中身をゲットしたんじゃない?」
「そうか。……なあ、こういう宝箱ってさ、中身をとったらもうそれで終わりなのか?翌日以降、中身が復活してるとか」
「そうね。たいていの宝箱はそういう仕組みね。翌日じゃなくて、宝箱の中身をもらった人が、そのダンジョンから出ると、宝箱は勝手に閉まって、中身が入るようになるわ」
宝箱に限らず、ダンジョン内にあるアイテムとか武器が入っているものはそういう感じらしい。
「ってことは、この宝箱の中身をゲットした奴がこの近くにいるってことか」
「……襲って奪うつもり?」
「なんでそう思った。いや、そう言えばこの世界に来て、他の冒険者とか見たことないなと思ってさ」
そう、一応マリアも『魔法戦士』というなかなか立派な職業についているものの、それ以外の普通の職業……『魔法使い』とか『戦士』とかの冒険者に会ったことがなかったから、少し興味があるだけだ。
「……だったら、……に……いよ」
向こうの方から声が聞こえる。
声のする方に行くと、俺とそんなに年の変わらないであろう男女三人がいた。
「……あら?君は冒険者?あんまり見かけない顔だけど」
俺が近づいてくるのに気が付いた赤い髪の女が、話しかけてきた。
「んーまあ、冒険者といえば冒険者なのかな。あんまりダンジョンとかには行かないけど」
「そう。……私はオリガ。『魔法使い』よ。レベルは8」
と杖を持った赤い髪の女が自己紹介する。
「あ、僕はニッキイ。職業は『アーチャー』で、レベルは8です」
と、背中に弓矢をたずさえた、小柄で割と童顔の男が続いて自己紹介する。
「俺はエリック。レベル10の『戦士』だ」
と腰に長剣をさし、手には弓矢を持った金髪の男がそう言った。
三人全員に自己紹介されたので、俺も仕方なく自己紹介をする。
「えーっと、俺はトウマ。あー職業は……『名探偵』で、レベル20」
案の定、俺の職業を聞いた三人は、「名探偵?」というような顔をしている。
「えっと、結構高レベルだけど、どんな職業なの?」
とニッキイ。
「あー異世界から来た奴が、適当に作った職業で、モンスターと戦うのに全く適してない職業だな」
それを聞いたエリックは納得した様子で、
「ああ、そっち系の職業か。だったら結構高レベルでも納得だな。そういう職業はレベルが上がりやすいって言うし」
この世界には、俺が今なっている『名探偵』という職業のような、メジャーでない職業があり、そういった類の職業は、俺と同じように異世界から来た奴が面白半分で作った職業だったりする。
そして、そういった職業は、モンスターとの闘いでは活躍できないが、レベルは上がりやすいという面もある。
この大陸では、レベル15もあれば大抵のダンジョンは制覇できるんだとか。
「あら、ここにいたの」
後ろから、両手いっぱいに花を抱えたマリアがやってきた。
「あ、あなたのお仲間?……なんかすごい高級そうな装備だけど……」
やってきたマリアを見て、オリガがそう言ってる中、ニッキイは何かに気が付いたようで、
「そ、そのペンダントに書いてある家紋ってまさか……ル、ルキナ家の方ですか?」
「ええ、そうよ。ルキナ・ウィミナリス・マリア。レベル42の『魔法戦士』よ」
マリアが有名な貴族と分かり、三人の態度が変わった。
「あ、あのルキナ家の……ど、どうもこんにちは……」
ちょっとチャラい印象を受けたエリックも、背筋を伸ばして挨拶している。
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。三人はパーティーを組んでるのかしら」
「正確に言えばパーティーじゃないですね。基本的には個人で活動していて、タイミングが合えば仮パーティーを組むっていう感じです。あと一人顔なじみの冒険者がいるんですけど、一人じゃ難しいダンジョンに行くときは、四人で臨時でパーティーを組むという感じです」
ニッキイが丁寧に説明をする。
すると、奥の茂みから、斧を持った少し背の高い男がやって来た。
「あ、あれがそのもう一人です」
とニッキイ。その男は俺たちに近付きながら、
「おう、こんな所にいたのか……」
見知った三人の他に、俺とマリアという見知らぬ人間の存在に気がついた男は、一旦喋るのを止め、コホンと一つ咳払いをし、
「う、うす、おいらは山賊のカーターっす。レベルは11っす」
「なんか無理やりキャラ付けしてね?話し方普通でいいよ」
無理やり山賊っぽい話し方を始めたカーターにそれ俺はそう言った。
確かに、装備とかは山賊っぽいが、見た目はスマートな感じだから、あんまり似合ってない。
そして、この四人が普段仮パーティーを組んでいるメンバーらしい。
仮パーティーだと、正式なパーティーを組む人たちに比べて、保障とかの点で少し優遇されない点もあるが、モンスターを倒した経験値や、手に入れたアイテムを独り占めできる利点があるらしい。
「へえ、仮パーティーなんてあるんだな。……で、今はどういう状況なんだ?」
「えっと、今日は四人ともこの湖の近くに生えてある珍しい花を取りに来てて。それで、エリックが宝箱の中身を手に入れたんですけど、それが弓矢で、この中だと僕だけが装備できるんで、譲ってほしいんですけど、断られてるんです」
「まあ、エリックがけち臭いのは今に始まったことじゃないから」
とオリガ。
「……でもさ、ニッキイが持ってる弓矢の方がよさそうだけど」
見た感じ、宝箱に入っていた弓矢より、ニッキイが今持っている方がグレードが上っぽい。
「あ、それはまあ。ただ、この弓矢で今僕が持っている武器の強化ができるから」
聞けば、長剣なら長剣どうし、杖なら杖を使って、武器の強化ができるらしい。
「同一の武器じゃないといけないから、そもそも弓矢を装備できないエリックが持っていても、意味ないんだよね」
とのこと。エリックが言うには、売ってお金をもらうということらしいが、せいぜい100円くらいの価値しかないらしい。
「弓矢ね。私が使わないものでよかったらあげようか?」
といつものごとく、パンパンにふくらんだカバンから、金ぴかの弓矢を取り出すマリア。
「と、と、と、とんでもございません!だ、だ、大丈夫です、大丈夫です」
ニッキイは慌てて手渡された弓矢を戻す。
「気にしなくていいわよ。それ私じゃ使いにくいから」
「なんでだ?」
「この弓矢、攻撃力はいいんだけど、使った回数だけ犬のフンを踏んじゃう呪いにかかるのよ」
「……そんな変なもんを渡そうとするんじゃねー!」
とりあえず、マリアの頭をはたいておいた。
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