第26話「真面目な捜査官としゃべる犬」
手前の部屋の扉を開けると、先ほどあった死体は椅子の上から移されていたことに気がついた。
パーカーさんの遺体は床の上に横たわっていて、捜査員の一人が死体を調べていた。
「御覧の通り、全体的に荒らされていますが、何か盗まれたものがあるかどうか分かりますか?」
俺とマリアの方を見てホーソンはそう聞くが、正直言ってよく分からない。
「ちょっとよく分からないわね。初めにこの部屋に来た時に見て印象に残っているものは残ってるとは思うけど」
「ぼくもわからないなー。この離れに入ったのは今日が初めてだし。っていうか、パーカーさん以外が離れに入ったのは今日が初めてだと思うよ」
とレオがマリアに抱きかかえられながらそう言った。
「そうね。パーカーさん自体もここに引っ越してきて間もないから。それにこの離れは執事のジョンソンさんも立ち入らないらしいわ。離れの掃除とかはパーカーさんがしてるんだって」
貴重な本とかもあり、あまり他人に触れてほしくないかららしい。
「ということは、他の人に聞いても何かが盗まれたかどうかはわからないということですか?」
「ええ、おそらく。まあ、この散らかった部屋をいったんきれいに並べれば、何かしらが無くなったのかわかるかもしれないわね」
奥の部屋の本とかも、床に散らばったりしてるから、そっちは本棚に直せば何かがなくなってるかどうかはわかりそうだ。
「そもそもこれって強盗とかの犯行なわけ?」
「おそらくその可能性は低いと思われます」
レオの問いかけにホーソンが答える。
「この館の周りは高い塀でおおわれており、これを乗り越えての侵入はほぼ不可能かと思われます。そしてこの敷地に入る唯一の入り口は二人の門番が見張っています」
確かに俺たちが来た時も、その門番の一人に案内された。
「そして、犯行があったとされる時刻は、門番の二人は一度も持ち場を離れることはなかったようで、その間不審な人物もいなかったそうです」
そして門には、魔王城のときにあったようなカメラの機能を持った魔法石が設置してあり、それによって門番二人のアリバイも後から確かめられた。
「ホーソンさん、一通り調べ終わりました」
さっきまで検視を行っていた捜査員がホーソンに近づきそう言った。
「そうですか。死因は?」
「はい、頭部を殴られたことが原因のようです。出血こそこまでありませんでしたが、内出血がひどく、おそらく殴られてから間を置かずに亡くなったと思われます」
凶器は手前の部屋にあった、金属製の置物だった。よく見れば血が少しこびりついていて、手前の部屋の床に無造作に転がっていた。
「亡くなった時間はわかりますか?」
それを聞かれた捜査員は、申し訳なさそうな表情を浮かべ、
「それについてはあまり。今の状況を見るに、午後四時から午後七時の間なのは確実ですが、それよりさらに細かい時間を割り出すことは……」
一応この世界にも死亡推定時刻という概念はあるが、まだ歴史が浅く、まだまだ不十分な点が多いらしい。
「私たちがパーカーさんと別れたのが大体四時くらいで、パーカーさんの死体を見つけたのが七時すぎだったわ」
パーカーはみんなと別れてからそのままこの離れに向かい、何者かによって殺害された。つまり、
「つまり、被害者のパーカーさんが皆さんと別れた後の皆さんの行動が重要になってきそうですね」
と俺が思っていたことをホーソンが言った。
「そっか。じゃあ、ジョンソンさんは犯人じゃなさそうだね。だってぼくとずっと一緒にいたし」
とレオ。執事のジョンソンさんが夜の食事を作っている際、ずっと足元でうろうろしていたらしい。
「それじゃあ、ベティーさんもキッチンで準備をしてたってことは、犯行は無理だったってことかしら」
「うーん……まあ……」
マリアの質問に、レオはそんな風に答える。
「ベティーさんが一人でいる時間があったのか?」
「うん。えっと、午後六時くらいかな。料理に必要な道具を取りに、ジョンソンさんとぼくが地下の倉庫に行ったから、三十分くらい一人の時間があったよ」
「三十分か。まあ、キッチンから離れまで行くのに急げば五分くらいでいけるし、犯行は不可能ではないか」
「でも、ベティーさんがそれだけの時間一人になったのは偶然じゃないの?いつ戻ってくるかわからない状況で、犯行に及ぶとは考えにくいわ」
俺の言葉を聞き、マリアが割と論理的に反論してきた。
「それはそうだが……なあ、レオ、ジョンソンさんが地下の倉庫に行って道具を取りに行くのに結構な時間がかかるっていうことは予測できたのか?」
という俺の問いかけに、
「うん、出来たと思うよ。引っ越して間もないから、荷物とかも箱の中にあったり、どこに何があるのかいまいちよく分かってない状況だったから、ジョンソンさんもキッチンを離れるときに三十分くらい戻ってこれないって伝えてたし、ベティーさんも地下の倉庫の様子は知っていたみたいだから、予想もできたと思うよ」
とりあえず、ベティーを容疑者の輪からまだ外せないってことだ。
「ところで、被害者がこの離れにいることは皆さん知っていたんですか?」
「ええ。私たちと別れる前に、離れで少し仕事をしてくるっていってたから、みんな知ってるわね」
マリアの答えを聞いたホーソンはあたりを見渡し、
「仕事ですか。館に書斎等はないのですか?」
「それはあるわね。でも、この部屋でもちょくちょく仕事をしてたみたいよ」
手前の部屋はテーブルしかなく、しかもその上にはパーカーが趣味で集めた収集物がならべてあるものの、奥の部屋は机といすもあり、書類仕事ならできる。
「なるほど。……それで、トウマ君。なにか分かったこととかありますか。それか何か聞きたいこととか」
「そうですね……パーカーさんの死体ですけど、亡くなった後に移動された形跡とかってありますか」
さっきまで死体を調べていた捜査員は、
「あ、はい、おそらくそうだと思われます。断言はできませんが、この手前の部屋で被害者の方は殴られ亡くなったと思われます。その後、奥の部屋にひきずり、いすに座らせたかと。若干ですが、死体に争ったような形跡もあります」
ということは、この荒らされた部屋は、犯人とパーカーが争った際に部屋の中が乱れたのをごまかそうとしたかもしれないのか。
「それで、他に何か調べることはありますか?」
「うーん……まあ、そろそろ他の人に話を聞いた方がいいですかね」
たぶん、死体やこの部屋を詳しく調べれば、犯人の痕跡等が出て来そうな気もするが、この世界の捜査の精度とかを考えるときつそうだ。
数人の捜査員を離れに残し、俺たちは本館へと戻った。
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