第25話「捜査開始」

 パーカーの死体を見つけてから一時間後。

 俺たち全員は応接室に集まっていた。先ほどパーカーの死を伝えられたベティーの目は泣きはらしたせいで腫れぼったい。そんなベティーの横にマリアが寄り添っている。

 男たちは、それぞれ深刻な表情を浮かべながら、各自離れた所に座っていた。

 そんな全員の様子を、部屋の中央に立った三十代後半の男が見渡し、話始める。

「今回、事件の捜査を担当いたします、ホーソンと言います。親しい方、大切な方を亡くして、悲しみにくれているところ申し訳ありませんが、みなさんの協力、お願いいたします」

 と、とても丁寧なあいさつをした。

 レオポルドと同じ制服を身にまとったホーソンだが、制服を軽く着崩していたレオポルドと違い、かなりビシッとしている印象を受ける。

 かなり端正な顔をしていて、さらに仕事のできる真面目そうな見た目だ。

「これから、みなさんにはお一人ずつお話を伺いたいと思いますので、しばらくこちらでお待ちください。………それと、トウマ君だったかな。ちょっとこっちに来てもらってもいいかな」

「え?……あ、はい」

 ホーソンとともに応接室を出る。


「えっと、なんかしましたかね?」

 呼び出されるなんて、なんか悪いことをした感じだ。ここが体育館裏とかだったら100パーカツアゲだよな。

 するとホーソンは笑って首を振り、

「いやいや、そういうわけじゃ。レオポルドから聞いたんですけど、いくつか事件を解決してるそうですね。こないだあった魔王城での事件とか」

「ああ、まあ一応は。運が良かったというか」

 というか俺の事って知ってるのか。てっきりレオポルドが解決したことにでもなってるのかと思った。

「それで、今回の事件に関しても協力してほしいんです。私自身こういった殺人事件の捜査なんてほとんどやったことがないので」

「はあ。まあ、それはいいんですけど、俺が協力して組織から何か言われたりしないんですか?」

 レオポルドはあんな感じだから特にそんなことは思わなかったが、ホーソンは見るからに真面目そうだし、規律とかそういったものを重視してそうだ。

「それは大丈夫です。むしろ、そんな組織のメンツとかで解決をいたずらに長引かせる方が問題ですね」

 まあ、それならいいけど。

「それで、俺はどんな感じで協力すればいいんですか?」

「それなんですけど、私自身こういう殺人事件……犯人がまだ分かっていない事件の捜査はやったことがないので、一から見ていて欲しいですね。とりあえず、今部下たちに現場になにか犯人の痕跡が残っていないかとか、被害者の死因等を調べてもらっているんですが、問題はないですか」

「全く問題ないですね」

 レオポルドとは大違いだ。これなら俺がでなくてもいい気がする。

 とりあえず俺はホーソンとともに現場の離れに向かう。

 すると後ろから、

「私もついて行っていいかしら」

 とマリアが追いかけてきてそう言ってきた。

「……ええ、それはもちろんかまいませんが。ただ、まだ被害者の死体もありますが大丈夫ですか?」

「ええ。前からパーカーさんにはお世話になっていたし、私も協力したいわ」

 いつになく真剣な面持ちのマリア。

「それでは行きましょうか」



「この扉は最初から開けられていたんですか?」

 離れの入口に到着し、ホーソンがまずそれを聞いてきた。

「いや、違いますね。初めてこの離れに来たときは閉じてました。そのあとにグレッチェンとかがパーカーさんに連れられて来たはずですけど、その時は知りませんね。まあ、死体を発見したときの様子を見るに、二番目にこの離れに来たグループも知らないと思いますよ。おそらく犯行の前後に誰かがしたんでしょうね」

「そうだね。ぼくも一緒にいたけど、きちんとこの扉は閉じてたよ」

 俺の推測に、一緒に来ていたレオ……あのトイプードルが同意した。


「「「………」」」

 俺とマリア、ホーソンまでもがレオをまじまじと見つめた。

「お前しゃべれるのか?」

「あ、うん。なんかパーカーさんとかには話せていなかったんだけどね。俺異世界から転生してきたから」

 と結構軽い感じでカミングアウトしてきた。というか転生してきたやつか。

 パーカーも異世界、つまりは俺と一緒の世界から来ていたし、この世界で異世界から来た言ってもあんまり珍しくないのだろうか。

「じゃあ元々は人間だったのかしら」

「そうだよーまあ転生したのは一か月くらい前だけどね」

 ってことは俺とそんなに変わらないってことか。

「少し話がずれていますが、君はこの現場に来たんですか?」

 犬相手にも丁寧な言葉遣いをくずさずにホーソンが尋ねる。

「うん。といっても、パーカーさんとグレッチェン、それとフレッドさん一緒だったけどね」

「で、その三人と本館のほうに戻るときは、普通に入口の扉を閉じてきたってことだろ?」

「そうだよ」

「……ところで、その三人が離れの中の部屋にいた時の様子ってわかるか?」

「様子?まあ、ずっと一緒にいたからわかるけど……重要なの?」

「いや、なんとなく」

「えーっと、三人で手前の部屋に入って……色々ある展示物に触れつつ話してたね。で、小一時間くらい話してから奥の部屋に移ってたね。奥の部屋に移ってからは、それぞれが見聞きしたミステリー話に花を咲かせてたよ」

 世間話を一切することなく、妖怪とか未確認生物の話ばっかりしてたらしい。まあ、俺とマリアと一緒に来たときは、マリアが置いてある本に興味津々で、ろくに話をしてなかったからな。

 ただレオの話を聞くに、俺たちのときとそんな違いはなさそうだ。


「それじゃ、中に入りますか」

 まだ肌寒い廊下を進み、現場の部屋へと向かう。





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