第24話「開けっぱなしの扉」
午後七時を少し過ぎた頃。
言われた通りの時間にダイニングルームに行くと、いい匂いがしてきた。
テーブルの上には色とりどりのごちそうが並んでいる。
「これまた美味しそうな料理ですね~」
「そうですな。ベティーさんも腕を振るったみたいですし、楽しみですな」
ダイニングルームに集まってきたグレッチェンとローレンスが口々に言う。
「いえ、私はそんなに……ほとんどジョンソンさんがやってくれたので」
ジョンソンさんは執事の名前だ。今気がついたが、ジョンソンさんの足元でレオがうろうろしている。
夕食を作っている間ずっとそばにいたのかもしれない。
俺とマリアに続いて、フレッドとルドルフが入ってきた。
するとグレッチェンはルドルフに近づき、万年筆のようなものを手渡していた。お手洗いに落ちていたものをグレッチェンが拾ったらしい。よく見れば、万年筆に名前が彫ってある。ルドルフは落としていたことに気がついてなかったのか、グレッチェンにお礼を言っている。
「あら?パーカーさんはまだみたいね」
席についたマリアが周りを見渡しそう言った。
パーカーが言っていた時間から十五分ほどが過ぎていた。
「ふむ。パーカーさんが時間を守らないのは珍しい気がしますな」
とローレンス。それにルドルフも同調し、
「そうですね。具合でも悪いんでしょうか」
席を立って呼びに行こうとする。
「あ、俺が呼びに行きますよ」
深い考えはなかったが、なんとなくそんな言葉が出た。まあ、このなかで一番年下だからか。
結局、俺とマリア、ルドルフとグレッチェンがパーカーを呼びに行くことになった。別に呼びに行くだけだからそんなに大人数はいらないのだが、ルドルフは一度離れを見てみたいらしく、マリアとグレッチェンは借りてた本を返しにいきたいみたいだ。
「ん?なんだこれ」
離れに近づくと、すぐに異変に気が付いた
離れの扉が開けっ放しになっていたのだ。横にスライドさせてあけるタイプの扉は、レール上に置かれた置物によって閉じるのを防がれていた。置かれてあるものはおそらく、さっき見せてもらった離れの手前の部屋にあった展示物の一つみたいだ。
「あ、ちょっと待ってください。一応そのままにしてもらえますか。それよりもさきに部屋の中を見ましょう」
深い理由はないが、置いてある置物をどかそうとするグレッチェンを止める。
一瞬怪訝な表情を浮かべるグレッチェンだったが、特に何か言う事もなく俺の言う事を聞いてくれた。
扉が開けっぱなしのせいで、廊下に冬の肌寒い空気が流れ込んでいた。
俺が先頭になり、離れの部屋の扉を開ける。
「……!」
扉を開けると、まるで空き巣の被害にあったかのような荒らされた部屋の様子が目に入った。
そして―――
「パ、パーカー……さん?」
奥の部屋で全く生気のない目をこちらに向けて座っているパーカーを見つけた。
パーカーの変わり果てた姿を見て、誰も声を出せず、静寂の時間がしばらく続いた。聞こえるのは周りの人間の息遣いくらいだ。
事件に遭遇したのが初めてじゃないおかげか、一番初めに行動を起こしたのは俺だった。
床に散乱した展示物を踏まないようにして、生暖かい部屋の中に入り、パーカーの方へ近づいていく。
そのまま奥の部屋へと入り、“名探偵スキル”を発動させパーカーの生死を確認する。
「だめだ、亡くなってる」
振り返り、部屋の扉の所で立ちすくんでいるグレッチェンたちにそう告げた。
できることなら生き返らせたいが、亡くなってから時間がたっていて、しかもダンジョンでない普通の街の中だから、生き返りの魔法も道具も使えない。
「……で、どうすればいい?」
殺人事件が起こったら、その国の騎士などが対応するって聞いた気はするが、実際に街中で事件に遭遇したのは初めてだから、勝手がわからない。
「そうね。エレシウス国の騎士を呼ぶのが普通なんでしょうけど、私がいるから、捜査になるかしら」
世界に影響を及ぼすくらい有名な貴族の家の一人娘が事件の関係者にいるとなれば、一国の騎士や兵士は色々と捜査を行うのも大変になりそうだ。
「じゃあレオポルドでも呼ぶのか」
「そうね……まあ、その辺が良いかもしれないわね。もっとも、レオポルドが来るかどうかはわからないけどね。ピース・メイカーだから忙しいでしょうし」
一緒に来たグレッチェンとルドルフに館に戻るように伝え、マリアはピース・メイカーを呼ぶためにその場を離れる。
俺もとりあえず現場をそのままにして部屋を出た。
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