第23話「全員集合、そして解散」

 パーカーの館のいろんな場所を見回ってからしばらく経った頃。

 再び玄関にたどり着くと、パーカーたちが館に戻ってきた。

「ええ、たぶんあれはテングと言われる生き物だったと思います」

 グレッチェンが何やら真剣な様子で話している。テングはたぶん妖怪の天狗のことだろう。

 グレッチェンの話を聞いてみると、二週間ほど前に仕事で行った場所で、天狗の伝説がある場所に行ったらしく、その話題で盛り上がっていたそうだ。

 にしても、こっちの世界に来て天狗の話とか、あまり異世界って感じがしない。

 いや、別に日本にいた時も天狗に会ったわけじゃないけど。


「まあ、また今度行くので、その時は何か証拠でも持ってきますね」

「ええ、楽しみにしてます」

 とパーカー。

「もしあれだったら、今度小説の題材にさせてもらいますよ」

 とフレッド。

 離れの中で色々と話が盛り上がっていたみたいだ。

 

 フレッドやグレッチェンが一旦部屋に戻ると、パーカーはレオを抱きかかえたまま俺を呼び止めた。

「そういえばトウマ君は日本の出身だっていってたけど、ヨーカイというものには会ったことがあるかい?カッパとかユキオンナとかそういった類のヨーカイは日本が発祥とか聞いたことがあるんだけど」

 妖怪のイントネーションが気になったがスルーし、

「発祥かどうかくわしくは知らないですけど、まあ妖怪といったら日本のイメージは強いですね。ただ、この世界でそういう話を聞くとは思ってませんでしたけど」

「そうだね。これはある人が言っていたんだけど、私たちと同じように、異世界へと召喚されたヨーカイがいるとかいないとか」

 まあ、異世界に飛ばされるのは何も人間に限った話じゃないってことか。


 とここで、最後の客がやってきた。

 新たにやってきたのは、七十歳くらいの理知的な顔をしたおじいさんだった。

「あれはローレンスさん。考古学者だって。遺跡とかに行ってるって聞いたことある」

 とマリアが小声で教えてくれる。

 考古学者か。まあでも大学教授とか言ってもおかしくない見た目な気もする。なんか頭よさそう。

「どうもこんにちは。遅れてすいません」

「いえいえ。遺跡で調査でも行っていたんですか?」

「ええ、まあ。少し興味深いものが出てきました。ただ暗くなってきたので、今日の所は調査終了ということになりました」

 御年七十を超えても精力的に活動してるとか。

「マリアさんもこんにちは。元気そうでなによりです。そちらの方は?」

「あ、どうもトウマです。はい」

「彼は『名探偵』なの」

 マリアからそうやって紹介されるが、やはりローレンスの表情は微妙だ。まあ、いきなり名探偵とか言われても困るよな。ただでさえ名探偵っていう概念自体ないと言ってもいい世界だしな。

「さて、立ち話もなんですし中へどうぞ。ベティーがティータイムのお菓子を作っていて、おそらくそろそろできる頃かと思いますので」


 パーカーに連れられ、割かし大きなダイニングルームに案内された。

 テーブルの上には美味しそうなパフェらしきデザートが準備されていた。

「あ、みなさん。そろそろ呼びに行こうと思っていたんです」

「おーこれはまた美味しそうなパフェですね」

 いつの間にか来ていたグレッチェンが愛想よくベティーに話しかける。

「甘いもの好きなんですか?」

「ええ。スイーツは女性の好物っていう印象が強いでしょうけど、男も甘いもの好きですよ。というか、パーカーさんも結構な甘党ですよね?」

「ええ、そうですね」

 話を向けられたパーカーは穏やかに微笑む。

「パーカーさんとベティーさんが出会ったのもスイーツ繋がりだったわよね?」

「え?えぇ、まあ……」

 少し照れ臭そうにパーカーが答える。聞けば、パーカーが常連としてよく行っていたスイーツ店でベティーが働きだし、そこで出会ったのがなれそめだとか。

「まあ、私たちの話は置いといて、皆さんをお呼びしますね」

 そう言ってパーカーは残りのメンバーを呼びに行った。



 ダイニングルームに全員が集まった。こうやって見ると、割と幅広い年代の人間が集まったなと思う。

 一番年下の俺とマリアが十代、一番上は七十代のローレンス。二十代のベティーとグレッチェン。ルドルフは三十ちょうどで、フレッドは四十後半。パーカーは五十代。はたから見れば、なんの集まりかよくわからないかもしれない。

 ベティーの作ったスイーツを味わいながら、ミステリー話で盛り上がる一同。

 たとえば、とあるダンジョンの奥には、とある古代文明遺跡に通じる扉が隠されていて、ダンジョンにある暗号を解き明かせば、金銀財宝の眠る遺跡に行けるとか、とある森では、夜な夜なこの世のものとは思えないような怪物の声が聞こえ、何人もの人間が行方不明になっているとか、入ったら最後出ることができない呪われた荒城があるとか。

 ただ、ここが異世界だと言う事を踏まえると、不可思議さはあんまり感じないが。


 バラエティーに富んだをすること約一時間。

 パーカーが席を立ち、

「みなさん、申し訳ありませんが少し用事があり、席を外させていただきます。どうしても済まさなくちゃいけない仕事があるのを思い出しまして。ちょっと離れの方でそれを済ませてきますね。それと、午後七時……今から三時間後くらいに夕食の準備ができていると思いますので、またお集まりください。それまではどうぞ、ご自由におくつろぎください」

 そう言い残し、パーカーはダイニングルームを離れた。

 それからそんなに時間を置かず、ルドルフが席を立つ。あの時に比べれば顔色はいいものの、まだお腹の調子が悪いのかもしれない。

 次いでグレッチェンとフレッドが少しやることがあると言ってダイニングルームから出ていった。


「そういえば、トウマさんはパーカーさんと同じで異世界から来たって聞いたんですけど、そうなんですか?」

「ええ、まあ。まあ、パーカーさんとは別の国で、しかもパーカーさんと四十年くらいの時代の隔たりはありますけどね」

 ベティーから話を向けられ、俺はそう答える。

「トウマさんがいた世界にはどんなスイーツとかがありましたか?今日私が作ったパフェもパーカーさんに教えてもらって作ったものなんです」

「あ、そうなんですか」

 もともとこの世界にスイーツという概念はあまり浸透していなかったらしいが、例のごとく異世界からきた人たちが広めていったとか。

「スイーツといっても、たぶんそんな詳しくないですよ。まあ、日本のスイーツと言えば和菓子とかになるんでしょうけど、そんな作り方とか知らないしなぁ…」

「ワガシですか?」

「ええ。羊羹とか饅頭とかなんすけど……」

 そこから一時間近く、和菓子に興味を持ったベティーとマリアに色々聞かれ、自分の知っていることを答えることに。その横でローレンスは優雅に紅茶を飲んでいた。

 ベティーは夕食の準備……この館の執事の人が作るみたいだが、それを手伝うとかでキッチンの方に向かった。

 ローレンスも少し休むとかで部屋に戻っていった。


「さっき見た図書室にでも行きましょうか」

 館の探索をしているときに、離れの蔵書数ほどではないものの、本がそれなりに置いてある部屋を見つけていて、そこでさっき借りた三冊の本などを読みたいらしい。

 こうして各々が自由に過ごしている中、事件は起きていた。

 


 



 

 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る