第21話「ミチとの遭遇」
「パーカーさんがそういうのが好きだっていうのは分かりましたけど、この世界じゃ別にミステリーでもなんでもないんじゃ?」
そう、この世界にはドラゴンとかミノタウロスとか、元の世界での神話とかに出てくるようなモンスターがいるから、別にネッシーとか珍しいものじゃない気がする。
「ええ、そう思いますよね。でも、この世界にもそういった不思議な存在はいるんですよ。特に、ヨーカイとかいう存在は、こっちの世界でも恐れられているとか」
ヨーカイというのは、妖怪のことだ。
この世界の生物は、倒すと経験値が貰える生き物と、経験値を持っていない生き物の二種類に分けられる。
前者はいわゆるモンスターのことで、ドラゴンからスライムまで幅広いレベルのものが存在する。
後者は俺たち人間が食べる、豚や牛、鶏といった生き物や、犬や猫といったペットとして飼うような生き物が挙げられる。
そして前者は人を襲い、後者は基本的に人を襲うことはない。
そんな二種類の分類に属さないものたちが、ネッシーとかツチノコとか妖怪になるらしい。
また、この世界に存在するモンスターはだいたい何かしらの書物にその生態等が記されているが、そのすべてが謎に包まれている生き物等もいて、そういったものがUFOだとか未確認生物として、この世界でも怪奇ミステリー的な感じで扱われている………ということを、パーカー及びマリアから説明を受けた。
「まあ、この部屋はお遊びで収集したものを並べただけで、本当に見てもらいたいのは奥の部屋なんですよ」
お遊びでこの量はすごいと思う。田舎の博物館くらいの展示品数はある気がする。
パーカーはたくさんの収集物の奥に鎮座する、金属製の重たげな扉を引き開ける。
その扉の奥には、たくさんの本が棚の中に並べてあった。書斎くらいの大きさの部屋の中に千冊近い本が収納してある。
パーカー、マリア、俺の順に部屋の中に入る。金属の分厚い扉で隔てられていたからか、冷たい冷気を肌に感じた。
十分以上経ってようやく手前の部屋が暖かくなってきたのに、再び寒い部屋に逆戻りだ。
「うげっ」
そんなことを考えていると、金属の扉が閉じて俺の背中にぶつかった。
「あ、すいません。その扉は押さえてないと重さで勝手に閉じるんです」
扉にぶつかって少しつんのめって後ろを振り向く俺に、パーカーが申し訳なさそうに言ってきた。
「それより、これだけの書物すごいわね。これって全部ミステリー関係?」
とマリア。それより、ってなんだよ。
「ええ。この世界における未知の生物に関する記述、もしくは未知のダンジョン、未知のアイテムなどについて書かれた本を集めたんですよ」
その発言を聞いて、マリアの目がますます輝いていく。
そうだった、こいつは使ったことのない道具とか魔法を使いたがる奴だった。
なら、この部屋はお宝の山みたいなものだろう。
「さっそく読ませてもらうわ」
パーカーの返事を聞くのもそこそこに、近くにある本を手に取り、集中して読み始めた。
パーカーはそんなマリアの様子を微笑みながら見ている。親戚の子供を見ているようだった。
するとパーカーは、たくさんある本の中からある一冊を取り出した。その本を開くと、中は本じゃなく、リモコンが入っていた。
そのリモコンを押すと、天井につけてある暖房器具がゴォーというそこそこ大きな音ともに作動し始めた。
「ああ、暖房器具のスイッチなんですけど、ちょっと遊び心で変なところにしようと思って、こんなところに収納してみたんです」
俺の視線に気が付いたのか、パーカーは少し笑みを浮かべながらそう言った。
「そうなんですか。この本以外にもなんか隠してるんですか?」
「いえ、この一冊だけです。他は全部書物ですよ。中には、この世界に一冊しかないような本もあります」
パーカーはそう言いながらリモコンの入った本を元に戻した。
「……にしても凄い集中してるな。そんなに面白いのか?」
椅子に座わって、本を熟読しているマリアにそう声をかける。
奥の部屋は手前の部屋と違って椅子と机があり、館についてからようやく座れた。手前の部屋はパーカーの収集物が雑然と並べてあるだけで、何か作業するのには向いていない部屋だったが、この奥の部屋は机…というかデスクや椅子がある。
実際、パーカーもこの部屋で仕事をすることもよくあるらしい。
「……面白いわよ。これは珍しい道具……というかこの世界にあるかどうかもよく分かっていない道具に関して書かれてあるんだけど、使ってみたいものがたくさんあるわ」
マリアが使ってみたい道具か……ろくでもないものなんだろうな。
「……ねえ、今なんか失礼なこと考えてるでしょ」
さらりと俺の考えを読むマリア。
「そんなことないぞ。…で、どんな道具が書いてあるんだ?」
「えーっとね……この伝説の剣とかすごいわよ。どんなモンスターもほぼ一撃で倒せるんだって。ただ、温度23度、湿度35パーセント、天候は晴れで、使用する人は一週間前に鳥の糞が頭に落ちて、五日前に深さ2メートルほどの水たまりにおちて、二日前に彼女ないし彼氏に三股かけられてこっぴどく振られて、前日にやけ酒して二日酔いの状態じゃないと使えないの」
「使いどころ限られすぎだろ!つーかなんだその条件!」
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