第2話「そうです、私が名探偵です」

 異世界に来た翌日。

 必要最低限のものを買ってもらい、とりあえず異世界で暮らしていく準備ができた。このままヒモ生活も悪くないと思うが、せっかく異世界に来たし、魔法とか使ってモンスターを倒してみたい。

 というわけで、この世界での職業を決めることにした。


「ここで冒険者の職業を決めるわ」

 連れてこられた建物の入口には、『職業斡旋所』と書いてあった。なんかこう、酒場にあるギルド的な所を想像していたから、建物内が役所みたいなのを見て面食らってしまった。

 マリアは、受付の一番右端に座っている、白くて長いひげを蓄えたおじいさんの前まで一直線に向かった。

「このおじいさんがこの国の冒険者たちの職業を決めてるの」

 そう言われたおじいさんは、椅子から立ち上がり、

「これはこれはルキナ家のマリアさん。お久しぶりですな。どうも、私は必殺職業斡旋人のゴードンじゃ」

 と軽く挨拶。

「いや、必ず殺しちゃだめだろ」

「さて、今日はおぬしの職業を決めに来たみたいじゃの」

 俺のツッコミをスルーし、ゴードンはカウンターの上に木箱を置いた。

「ではこの箱の中に腕をいれてくれるかの」

 言われた通りに、ひじから先を箱の中に入れる。

 すると、箱が淡くひかり、ゴードンはそれをじっと見つめる。

「ふむ……うん、おぬしのステータスが判明したぞ」

 俺は少し緊張しながら、続きの言葉を待つ。

 だって異世界の定番イベントだからな。ここで凄まじい潜在能力が明らかになるという異世界ものあるあるをどうしても想像してしまう。

 が、ゴードンの表情を見るに、そういうわけではないらしい。

 ゴードンはゆっくりと口を開き、

「……おぬしはまあ、バランスのとれたステータスではあるな」

 と一言。

 つまり、特に秀でたステータスがあるっていうわけではないらしい。

「まあ、わりかし知性も高めじゃな。あとは……打たれ強い冒険者ではあるな」

 勘違いしないで欲しいのは、打たれ強いっていうだけで、別に不死身でもないし、攻撃されたら痛みもある。

「というわけで、おぬしの職業は『名探偵』じゃな」

「いやなんで⁉今までのステータスからそんな職業が出てきたんだ⁉つーかこの世界で需要あんのか⁉」

 というか、日本でも別に『名探偵』という職業はないし。

「まあ、おぬしがそう言うのもわかる。しかしな、この『名探偵』という職業はとても特殊な職業なんじゃ」

 まあ、そうだろうな。

「少し昔の話になるが、この世界とは別の世界……異世界からやって来た男がいたんじゃが、その男はちょっと特殊な力をもっていてな。なんでも、新しい職業を作り出すという力を持っていたそうなんじゃ」

「じゃあその男が『名探偵』っていう職業を作ったって?」

「うむ。まあ、いくつか他にも職業を作ったんじゃが、その男は自分が作った『名探偵』になったんじゃ。この世界で唯一のな」

 これは後から聞いた話だが、職業を作るのはそんなに簡単なことではないらしい。その職業特有のスキルや魔法も同時に誕生するということで、膨大な魔力とかが必要になるらしい。

「……で、何で俺がその『名探偵』になったんだよ」

「それは簡単じゃ。その『名探偵』を作った男と、おぬしのステータスが瓜二つじゃからな。もちろん、職業を作り出すような力はないがな」

「はあ……」

 別に推理力があるから、というわけではないらしい。

 あんまりぴんと来てない俺に対し、

「トウマは知らないだろうけど、『名探偵』って今この世界にトウマ一人だけなんだからね。私は『魔法戦士』だけど、この世界に何千人といるから」

 とマリアが横から入って来た。

 いや、『魔法戦士』の方がいいんだけど。っていうか、もう『名探偵』になってんのかよ。

「そのこの世界に『名探偵』っていう職業を作った男はどうなったんだよ?死んだのか?」

「いや、まだ生きとるぞ。でも、『名探偵』はやめたそうじゃ」

「やめた?」

「うむ。『名探偵』じゃモンスターは倒せないし、謎を解くような事件も起きないから、ってことでやめたそうじゃ」

「だろうな。で、そんな職業になろうと思うわけないだろ。他の選択肢はないのか」

「ない」

 きっぱりと断言されてしまった。

「おぬしのような、特に秀でたものもないごく普通の人間がそんな贅沢言うでない。なれる職業があるだけましと思わないと」

「なんか急に厳しくないか?いや、その通りかもしれんが」

 この世界は就職氷河期なんだろうか。そんなになれる職業に制限があるものだろうか。わりと昔のRPGでももっと選択肢があっただろう。

「まあ、いいいじゃない。『名探偵』って知ってはいたけど、実際に会ったことがなくって、ずっと興味があったの。それに、『名探偵』特有のスキルもあるみたいよ?」

 どことなくうれしそうなマリアにもそう言われ、結局俺は、この世界で『名探偵』として生きていくことになった。

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