第1話「名探偵は異世界に来る」

 さて、ここでみなさんには俺がこの異世界に来た経緯を話したほうが良いかもしれない。といっても、なんか壮大なドラマがあるという訳じゃない。

 俺が学校から帰ってると、なにやら光に包まれる

→気がついたら、見慣れぬ屋敷にいて、その足元には魔法陣

→目の前にはとびっきりの美少女がいる

→俺が召喚魔法によって一時的に呼びつけたと聞かされる

→突然のことで戸惑うが、美人だしまあいいかと思う

→召喚魔法を使った理由を聞いてみる

→それまで使ったことがなかったから、とりあえず試してみたかったとの答えが返ってくる

→その理由に、ちょっとおかしいとは思ったが、美人だしまあいいかと思う

→するとここで、とある問題が生じる

→マリアは、異世界から呼び寄せた人は、数時間経過したら自動的に元の世界に戻る魔法を使ったつもりだった

→しかし、ちょっとした手違いで、召喚魔法を使った人物の願いを叶えるまでは元の世界に帰ることが出来ない魔法が使われたことが判明

→マリアは召喚魔法を唱えたとき、特になにか願い事をしたわけではなかった

→元の世界に戻ることが出来ないことが決定した(←今ココ)


「……で、特に深い考えがないまま俺を呼び出したわけだが……なあ、ホントに何か願い事はないのか?例えば、人間の危険を脅かす魔王を倒してほしいとか」

「魔王ねえ……大昔なら確かに人間と魔王軍の戦いがあったけど、今じゃ人間を襲うような魔王はいないから」

「そうか。じゃあ、国を脅かすドラゴンがいるとか」

「ドラゴンは確かにいるけど、普通に人間と共存してるほうが多いわね」

「そうか……うーん……」

「というか、あなたモンスターと戦える前提で話してるけど、今のあなたじゃそもそも魔法も使えないわよ」

「あ、そうなの?」

「ええ。魔法を使うには、まずステータスを調べて、職業を決めて冒険者にならないと。そこでようやくその職業ごとに魔法が使えたりするわ」

 異世界に召喚や転生した主人公といえば、最初からチート持ちが多いから、なんか俺もそういう奴らと同じなのかなと思っていたが、そうじゃないらしい。

「じゃあ、そういった戦い系の話は置いといて、ホントに願い事とかないのか?例えば今やりたいこととか」

「うーん……そう言われても……やりたいと思った、大抵のことは出来るし……」

 今俺がいるのは、マリアが住んでいる屋敷らしいが、今座っているソファーや天井にある照明など、ものすごく高級感あふれる家具がそろっているし、窓の外には大きな庭が広がっている。

「もしかして…いや、もしかしなくても、お前んちって金持ちなのか?」

「お金持ち……まあ、そう言ってもいいのかしら。一応そこそこ大きな貴族の血は引いてるけど」

 まあ、この世界のヒエラルキーとか詳しいことは知らないけど、なんか偉い一族の人間だということは分かった。

「でもあれだな。こういう大きな屋敷って、執事とか使用人とかいないのか?正直言って、俺とお前以外人の気配がないんだけど」

「まあね。本宅は別にあって、そこにはお父様や使用人たちが住んでいるけど、ここは私一人で暮らしているわ」

 こんなでかい屋敷で一人暮らしとか、かなり恵まれた生活を送っているらしい。ということは、俺一人が増えても大した問題はなさそうだ。

 マリアの願いを叶えて日本に帰るより、とりあえずここでマリアに養ってもらいながら生活する方が楽そうだ。

「よし、とりあえず生活に必要なものでもそろえようかな。荷物もなんも持ってないし、着替えとか必要だろうし」

 俺の急な変わりようにマリアも戸惑う。

「あ、あれ?なんか早くもここで暮らしていく前提で話し始めてない?い、いや確かに私のせいで帰れなくなっちゃったけどさぁ……」

「あ、それとお金ももちろんないから、その辺のこともよろしくな。まあ、お金持ちみたいだし、大丈夫だろ」

 マリアはなんだか困った顔をしているが、遠慮してたらこの異世界で野垂れ死ぬ可能性だってあるわけだし、使えるコネは使っておかないと。


 こうして何か大きなドラマもなく、異世界初日が終了した。

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