第20話 手紙
その夜、電話がなった。
僕はスマホを所持していない。
皆がそれを知っている。
よって、なるのは固定電話。
「父さんか、母さんの仕事関係かな・・・」
僕はそう思い、放置していた。
すると、下から父の声がした。
「冬樹、電話だぞ」
「今、行く」
そう言って下へと下りた。
一応、親子電話なのだが、そろいもそろって、使い方がわからないときている。
「はい、お電話かわりました」
電話の主は、驚く相手だった。
「わかりました。すぐに行きます」
僕は、電話を切って、外へと駆けだした。
両親が呼んでいるようだが、耳に届かなかった。
駆け付けた場所は、美雪さんの家。
部屋に案内されると、美雪さんが、ベットの上で、眠っていた。
そう、眼の覚める事のない眠りに・・・
美雪さんの、ご家族とはすでに顔見知りになっていた。
「つい、さっきだよ。最後まで、君の名前を呼んでいた」
おじさんに、そう言われる。
おばさんんは、泣き崩れていた・・・
おじさんから、手紙を渡される。
「美雪から、冬樹くんに宛てた、最後の手紙だよ」
「ここで、読んでいいですか?」
おじさんは、無言で頷く。
≪前略
冬樹くん、元気?
君がこれを読んでいるという事は、私はもう、この世にいないよね。
実はね、もうかなり前から、余命宣告はされていたの。
病院にいたら、もう少しは持ったかもしれない。
でも、それではつまらない。
私は、普通の生活をしたままで、人生を終えたかったの。
引きづり回してごめんね。
私は君に抱いていた感情は、恋愛ではない。
かといって、友情でもない。
それはね・・・同調かな・・・
あっ、怒った?
でも、悪い意味ではないの。
私は、君といるっことで、安心感を得たの。
君を見ていると、他人の気がしなかった。
彼は私と、同じ類の人間だ。
そう、思ってたの・・・
ごめんね。
でも、君は文句も言わずに、付き合ってくれた。
それが、嬉しかった。
ごめん・・・
もう、力が無いや・・・
ありがとう・・・
そして・・・
約束は守ってね
美雪より≫
雪は冬に振る。
そして、春には止む。
僕は、立ち尽くすことしか出来なかった・・・
数日後に行われた、通夜にも葬儀にも、僕は出席しなかった。
いや、出来なかった。
美雪さんの意思だった、
僕はそれを、尊重した。
その日、僕はあの牧場にいた。
美雪さんから、思いを託されたあの牧場に・・・
「やあ、ひさしぶりだね」
あの時の声優さんたちがいた。
「お久しぶりです。実は・・・」
「わかってるよ。美雪ちゃんだね・・・」
「はい」
「実はね、冬樹くん・・・」
数年後経った。
美雪ちゃんとの、約束通り、手書きの手紙は送っている。
もう、ふたりとも結婚して、母となっている。
芸能活動とお母さん業をこなしている。
僕は普通に大学へ行き、普通に就職した。
ただ、就職先は普通ではないかもしれない・・・
「ただいま」
奥さんが帰ってくる。
「お疲れ、ご飯出来ているよ」
「ありがとう。お風呂は?」
「沸かしてあるよ。先に入って・・・」
「うん。おちびちゃんたちは?」
「もう、寝てるよ」
「じゃあ、会ってくるね」
僕は、あの声優さんたちの、紹介で同世代の女性の声優さんと結婚をした。
僕は主夫になっている。
主夫業というのは、とても大変だ。
それに、専業ではない。
「あなた、仕事はどう?」
奥さんに心配される。
「まあまあだよ。」
「無理しないでね」
「ありがとう」
でも、どうにか幸せにやっている。
美雪さんのおかげだと思う。
今更だが、ありがとう。
手紙 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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