第65話 戦闘ルート:そして空は緋色に染まる Ⅲ

「侯爵!?」


驚いた私の声を受け、ルンドヴィスト侯爵は誇らしげに微笑む。


「ルンドヴィスト家は弓矢の家、剣の女神である姫のお役になど立てないと思っておりましたが、僕にしかできないことがあるというフォルシアン公の言葉を信じて本当に良かった!

 この空を引き裂けるのはルンドヴィストの弓兵だけです!」


 イケメンだったけど地味な大根おでんみたいだった人が、異様に輝いた目でなんか語り倒してる。


 え、これどう反応すればいいの?

 ツッコむところ?褒めるところ?


「あとぼくの力ねー」

「え?サキも?!」


 のんびりした声といっしょにルンドヴィスト侯爵の影から見慣れた小さな体がひょこんと姿を現す。


 あれ、でも今日のサキはいつもみたいな魔法使いとか妖精みたいな、乙女ゲームの攻略キャラっぽい服は着てない。


 体の線がぴったりと見える、黒いオールインワン。

 ところどころキラキラと光るそれは私がいた世界のヴィジュアル系バンドの人が着てそうな服だった。 

 もともと妖精みたいな顔立ちだから、あと何十cmか身長があったら、ホストなヨナタンどころかチートなヴィンセントと並んでもきっと全然見劣りしない。


「あー、普段着でごめんねえ、エーレン。力を全部レオくんの弓に割り振ってるからいつもの部品を構築する余力がないんだ」

「構築とかってどういうこと?!」


 あれ、服じゃなかったの?!


「言ってなかったけー?今まではここの文化を分析してまわりに馴染めるような服の部品を構築してたんだよー」


 言ってない。絶対絶対言ってない。

 なのに何その私がサキに言われてたことを忘れてたみたいな顔。


「でももうその余裕がないんだー。すこしでも多く、レオくんちの弓にぼくの力を供給したいから。

 ……こんなときキトがいてくれればぼく、もっと力を出せるんだけど……」

「何をおっしゃるのですか!サキくんは姫とは違う素晴らしき力で我々を支えてくださっています!

 空を裂いているのはルンドヴィストの矢の力ですが、矢を青く染めているのはサキくんの力です!」

「うー、ありがとー!ぼくレオくん好き好き超好きー!」

「はい。僕もサキくんのことが好きですよ。

 ……あ、姫、誤解の無いよう!僕とサキくんはあくまで親友です!そして姫は僕の麗しの黒薔薇です!」

「うん。ぼくもレオくんより女の子が好きだよ」

「また意見が一致しましたねサキくん」

「そーだね、レオくん」

「やはり僕たちは親友ですね!」

「うん!」


 は?なんでこのシリアス戦闘パートで2人でハイタッチしてるの?


 てか、レオくんとサキくんって何?

 親友って何?


 どこでどうそんなフラグが立ったわけ?


 戦場で繰り広げられているとは思えないしょうもないやり取りに私は脱力して空を見上げる。


 大丈夫。


 なにがなんだかよくわからないけれど、侯爵の弓兵さんたちは主人たちの呑気な会話なんか意に介さずに相変わらず空に向かって規則正しく矢を放ち続けて、空はどんどん青い色を取り戻してる。


 ……サキははじめから規格外だからどうでもいいとして、もしかして、私の味方の中でいちばんの大物って大公でもヴィンセントでもなくてルンドヴィスト侯爵なのかもしれない……。


「アルビン」

「はい」

「戦場で平常心を保つのは大事だけど、あそこまで保たなくていいからね……」

「承知いたしました……」


アルビンも何かを察したのか、いつもとは違う微妙な表情でうなずいた。

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