第54話 運命三相 ルツィア
「ってことがあってねー」
「ふぅん、エーレンもなかなか大変なんだねぇ」
「……その適当なコメントで安らぐのって私相当疲れてるわ……」
約束通り、宝石をいっぱいに詰めた瓶を持って私は王城地下のサキの部屋を訪ねた。
瓶を見てにぱっと笑ったサキは、カリカリサクサクと夢中で色とりどりの石を口に運んでいく。
ちょうど今口に入れたのは、白い地に虹のような色が散った石だった。
「それ、なんて石?」
「おふぁーゆ」
「あー、食べ終わってからでいいから」
「ん」
ごくんとサキの喉が鳴って。
「オパール。とろっと甘いよー」
「そー、それはよかったねー」
「エーレンこそ、適当!」
「だって私、悩んでるんだもん。ねえサキ、カタリナの言ったこと、どういうことだと思う?」
「んー、わかんない」
「サキもわかんないかあ……。じゃあ私なんかもっとわからないよね……」
もしかして、サキなら答えを知ってるかもってちょっと希望を持って聞いたんだけど。
「エーレンはどんなふうに思ったの?」
「カタリナも転移者か転生者で中身は別の人」
「なるほどー……でもぼくが見た感じ、あのお姉さんの魂はこの世界にしっかり根を張ってるよ。ぼくらみたいな流され人にも見えないし、エーレンみたいな転生者にも見えない」
「そっかあ……じゃあ、ルツィアは?あの赤い女の人」
「あの人?あの人もおんなじ。この世界にもともとあった魂だと思う。
……どしたの?エーレン」
「よけいわかんなくなったの。でもルツィアは『運命』とか『二度目』とかにこだわってるみたいで、カタリナもこの乙女ゲームの秘密を何か知ってるみたい」
「ん、そーだねぇ。話を聞いてるとぼくもそう思う」
「でしょ?でしょ?もー、なんでみんな意味ありげなことしか言わないのよ!ズバッと結論を言えばいいじゃない!!」
「世間の人はみんなエーレンみたいに直球なわけじゃないから。___あれ?カリカリ没収って言わないの?」
「その通りだと思って現実に打ちのめされてるの」
私は頭を抱える。
勝つか負けるか、私の世界にはそれしかなかった。
それはある意味、とても明確な線引きだった。
ルツィアは仕方ないとしても、私は今まで、カタリナのような曖昧な強さには出会ったことがなかった。
「でも、敵じゃないだけいいんじゃない?エーレンの味方だって言ったんでしょ?」
ぽふぽふと小さな手に背を叩かれて、私は顔をあげる。
「それはそうだけど……」
「ん、じゃあいいよ。問題は切り分けていかないと。そのお姉さんは味方、赤い人は敵。とりあえず」
「そうね……それしかないわね。あ、その赤い人のこと調べてほしくて来たのよ。赤い人っていうか、赤い人にそっくりな、悪神イハのこと」
「いいよー。何が知りたいの?」
「ユゼって人がイハのそばに存在したか」
サキの表情が凍る。
ごめん。わかってる。
サキにとってキトさんはユゼじゃないし、自分を忘れてそう名乗ってるってことを考えるだけでつらいよね。
でも、私、どうしてもこれだけは知りたいし、このことをきちんと調べられるのは、始祖ヨンナと元の私が似ていることに気づいたサキだけだと思うから。
「ごめん……サキにはつらいことだと思うけど、これが鍵になる気がするの。どうしてルツィアはキトさんをユゼと呼ぶのか、あんなに執着するのか。運命って言葉と私の予想が正しければ……ルツィアがキトさんを欲しがる理由もわかるような……」
「……ん、わかった、エーレン。まかせて。ぼく、がんばる」
そんな私の気持ちを察してくれたのか、サキはちょっとの間のあと、真剣な顔でうなずいてくれた。
「ありがと……あ、もっと聞きたいことがあったんだ!!」
「エーレン、声おっきい!」
「ごめん、つい。ね、サキ、あのとき聞きそびれちゃったけど、サキはなんで光るの?」
「あー、それ?力がうまく貯蔵できなくて漏れちゃうの。キトがいないから」
え?どういうこと?
「えーとね、前も話したと思うんだけど、ぼくはキトがそばにいればもっといろんなことができるの。なんでかっていうと、キトは憑代みたいなものだから」
「よりしろ……?」
はい、わからない言葉来ましたー。
「わかんない?」
「全然」
そんな言葉、今まで生きてきて使ったことない。
「んー、そうだね、わかりやすく言うと、キトは力を貯蔵するダム。ぼくはすごい力を持ってる。でもそれをうまく貯めておけないの。だから今は複製くらいしかできないし、貯めておけない力がどんどん漏れ出してく。だからそのせいで光っちゃう」
「複製ができるだけで充分すごいと思うけど……」
「ほんとのぼくはもっとすごいの!キトがいれば、キトと回路がまたつながれば、ぼくの力をキトに貯めてぼくはそれを全部使うことができるんだ」
「で、キトさんは?」
「え?」
「キトさんは何ができるの?」
「キトは何もできないよ」
「えっ?!」
「だってキトは力を貯める器だから。バケツにお水は貯められるけど、バケツにできることはそれだけでしょ?」
「そっか。なるほど、うん、確かに」
「でも、ぼくみたいに自分の中に力を貯められない生き物にはいてくれなければ困る人。
それだけじゃ……ないけど……キトはずっと一緒にいた大事な友達だけど……」
「うん、わかるよ。サキには必要なんだよね、キトさんのこと」
「そう……」
「それは安心して。キトさんは私がなんとかするから、絶対に」
「ありがと。その宣言に特に根拠がないってわかってても嬉しいよ……」
「一言多い!カリカリ没収!」
「あ、いつものエーレンだ」
うくくっと楽しそうにサキが笑った。
「あのねぇエーレン?ぼくだってエーレンが悲しそうな顔をするのはいやなんだよ。ぼくはいつものエーレンが好き。よく笑って、怒って、直球で暴走してるエーレンが好き」
「それ、けなされてる気がするんだけど」
「褒めてる」
私をじっと見る、サキの真面目くさった顔と声。
はいはい、もう、仕方ないな。
「それ、今回だけは信じてあげる」
私だって、サキが笑ってる方が嬉しいから___。
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