第49話 転移者たち~別離~
「さっき、論より証拠と言ったわね。まず、サキ。もういいわよ。
___大公はもうご存知でしょうが」
「ああ、美しい光だったな」
私と大公の会話を「?」って顔で聞いてるヨナタンとヴィンセントの顔色がぱっと変わった。
サキが今まで抑えていた体の光を解放したからだ。
闇の中、月のようにやわらかく光るサキの体。白銀の髪と相まってまるで妖精だ。
「二人とも、武器は構えないで。これがサキが流され人の証拠の一つ。ね、サキ?」
「ん!」
「サキの体は暗いところで光るのよ。光らせないこともできるけど疲れるからあまりやりたくないんですって。
……そう言えば、なんで光るの?」
「えーと、それはねぇ……」
そのとき、サキの体がまばゆく光った。
こんなのもう月光じゃない。
この鮮やかな青さ。地球光だ……!
「キト!!!!」
サキの唇から、なんてたとえたらいいかわからない叫びが漏れた。
嬉しそうな、本当に嬉しそうな___。
「エーレン、あそこにキトがいるよ!」
サキが壁の向こうを指さす。
「わかるんだ、ぼく!キトもぼくを探してる!!だからぼくの体はいま、力でいっぱい!!!
ね、早くキトに……」
叫び続けるサキの口を大公が抑える。
そして、ヨナタンとヴィンセントに小声で「臨戦」とだけ伝えた。
サキの小さな体がもがく。
なんで?なんで?全身で訴えているようだった。
「気配は一人ではない。サキくんの探しているキトくんはルツィアの手に落ちた。
ならばあそこにいるのは我々の味方ではないだろう。おそらく、ルツィアだ。それもキトくんを連れているということは、我々とことを構えたがっている可能性は否定できない」
サキが大きく目を見開いた。
それでなくても大きな目は、はめこまれた宝石のように転げ落ちてしまいそうだった。
「お嬢さんは『神器』を。
……サキくんは申し訳ないが静粛にして隠れていてくれないか。その光も消して」
サキの表情がさっきまでの喜びにあふれたものから、眉根をよせた悲痛なものに変わる。
でもサキも馬鹿な子じゃない。
大公の言葉にこくんとうなずいて、体の動きを止めた。
「申し訳ないな。きみの探し人がそこにいるというのに」
「んーん。しかたないの……しかたないの……。ぼく、牢の中にいるから、全部終わったら、エーレン、鍵を開けてね。
もうあの鍵を開けられるのはエーレンだけだよ」
「わかったわ。……終わったら、いっぱいカリカリあげるわね」
「こども扱いするなよぉ」
そう言いながらトコトコとサキは牢の中に入り、自分から鉄格子の扉を閉めた。
「あれも証拠の一つ。あの牢を開けられるのは私だけなの。詳しい説明はあとで。
それから……私は『神器』っていう二人が見たこともない武器を使うけど心配しないで。剣より強く、弓より速いのよ」
剣を鞘から抜いたヨナタンとヴィンセントにそう言いながら、私は散弾銃を構える。
初速数百メートルで無数の弾丸をまき散らす、この世界には存在しない武器。
いくらキトさんを手に入れたルツィアだって、『神器』のことを知ってたって、これの本当の強さは知らないはず……!
セーフティをはずし、私はヨナタンとヴィンセントに指示をする。
たぶんリロードするより、全弾撃ちきってから彼らに斬撃してもらった方が早い……!
「まずは私が『神器』で一斉攻撃をする。力が尽きたら右手を上げるから、その時点で生き残っている人間を掃討。できればルツィアは生け捕りに。
……右手を上げるまで絶対に私の前に出ては駄目よ。そんなことをすればあなたたちも神の力に触れて死ぬ」
嘘をつくのは心苦しい。
でも、これからも銃を『神器』として運用していくことを考えれば______。
大公の予想通り、壁の向こうから誰かと会話しているようなルツィアの声が聞こえた。
私は引き金に軽く指をかけ、照準機越しの世界をじっと見据える___!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます