第46話 転移者たち~再会~
「……模範解答だ、お嬢さん」
ちょっとした間のあと、大公が楽しそうに笑う。
「え?」
「きみはきちんと自分の頭で考え、どうするか決めたな?一国の統治者というのはそういうものだ。最後にはすべての責と名誉を己が中に受け止める。だからこそ国民は統治者についていく。
私との多数決でことを決めようとしたら、やはり、帝室での教育を受けていない人間にはこの国を背負わせてはならないと思う所だった」
それから大公も何度か銃を撃ち、何か言いたげに首を振りながら、的に空いた穴や銃そのものを見つめていた。
「お嬢さんの決断がどう結果を出すかわからない。でも私は全力でお嬢さんを助けたいと、そう思う。今後の計画はどうなっているんだね?」
「あっ、はいっ、イルダールとアルビンはだいぶ銃に習熟してきたので、これからはイルダールが選んだ騎士を数人ずつ、訓練に投入する予定です。それから、ヨナタンとヴィンセントも。
ただ、ルンドヴィスト侯爵とビョルケンハイム辺境伯には最後まで秘匿しておこうかと。もちろん、裏切りの心配などがあるわけでがありませんが___」
「だが、片方は若すぎるし、片方は頭が固すぎる。
秘密裡にことを進めているうちはその方がいいだろうな。的確だ」
「ありがとうございます」
「この銃はお嬢さんに返した方がいいのだろう?」
「はい。今のところはここからは出さないことにしています。本物が置いてある場所も私しか入れないのでご安心ください」
「いつか、それがどこか教えてくれたまえ」
「はい。時が来ましたら」
※※※
とりあえず、用事を全部終えて洞窟を出た私の目に映る鮮やかな赤……ルツィア?!
どうしてこんなところに?!
……サキの能力で壁をコピーして、洞窟の入り口をふさいでおいてよかった……。
まだ、銃のことはルツィアには知られたくない。
「まあ、大公、お久しぶりですわね」
ルツィアが微笑う。
相変わらず赤薔薇姫の名前にぴったりな華やかな笑顔だったけど、私はそれ以外のものに気を取られていた。
ルツィアの隣にいる、褪せた紺色のマントにくるまっている背の高い人は誰……?
フードを深くかぶってるせいで顔も見えない……。
「そうだな。舞踏会以来か?」
「ええ。ねえ、こんな辺鄙なところに大公がわざわざ足を運ばれるようなものがありますの?」
「なに、気晴らしの散歩だよ。この黒薔薇のお嬢さんと話すのは楽しいからな。そういう赤薔薇姫こそ、なぜこんなところに?」
「私の食客を皆様にご覧にいれたくて。特にそこのおちびさんに。さ、ユゼ、フードをお取りなさいな」
ルツィアの言葉とともに、ふさっと音が聞こえそうな勢いでユゼさん?がフードをめくる。
そこにあったのは、30代位の男の人の顔だった。
濃い茶色の髪。顔の中のパーツはどれも大作りで、まるで野生のライオンみたいな精悍な顔立ち。
うん。素直にかっこいい。でもなにより目を引くのはそのスタイルの良さ!手も足もすらりと細く伸びていて、8……8.5頭身?だけど弱さは感じない。むしろリーチが長くていいなーと素直に羨ましくなっちゃう。
さすが乙女ゲーム……男性キャラのレベル高すぎ……。
そのとき、サキが思いがけない名前を口にしたのが聞こえた。
「キト!キト!やっと会えた!ぼくだよ!サキだよ!ずーっと探してたんだから!エーレンだって探してくれてたんだから!こんなに近くにいたのになんで気づいてくれなかったの?」
え、この人がキトさんなの?!サキがずっと探してたあの人?!
それがなんでルツィアといるの?!
「……知らない。俺はおまえを知らない」
キトさん?ユゼさん?が冷たい表情で首を振る。
「じょ、冗談やめてよ、キト。ぼくだってば。ほら。あのときイタズラしたのまだ怒ってるなら謝るから……やめてよ……」
そして、サキが指先をキトさんへ向ける。
サキの指から延びる細く光る青い線が、キトさんの指先に絡みついた。
「ほら、見えるよね、これ。ぼくとキトを繋ぐもの」
「知らないな」
けれど、それを一蹴されて、サキの目に涙が浮かび上がる。
「なんで?!ぼく、キトと会えるのだけ楽しみに頑張ってたんだよ。キトと2人で元の世界に帰れるんだって」
「悪いが本当に知らないんだ。……どいてくれないか?俺はルツィア様と行くところがある」
キトさんがサキの体をぐいっと押しのける。
ルツィアがにんまりと笑った。
「残念ですわね、サキ・ドゥ。ここにいるのはもう、キト・アーマではなく、ユゼ・ハルテですのよ。
……エーレン、わたくしを見くびらないことね。わたくしはもう、サキ・ドゥもキト・アーマも知っていてよ。『神器』がおまえの手に渡ったことだけは残念だけど……ユゼが私の手元にいる限り、サキ・ドゥの本当の力は発現しない。
ねえ、そのくらい、私が知らないと思っていたのかしら?愚かな黒薔薇」
勝ち誇るようなルツィアの高笑いを、私は歯を食いしばりながら聞いていた。
私はルツィアを見くびっていたのかもしれない___。
異世界からの転生者と転移者が揃えば、ルツィアに対して優位を保てると……。
「それでは御機嫌よう。さあ、行きましょう、ユゼ」
「はっ」
ドレスの裾を翻し、去って行くルツィアとキトさんの前でサキは茫然としていた顔をしていた。
サキの白い頬の上を涙が滑り落ちていく。
「やだ……やだ……こんなのやだよ、エーレン……なんでキトはぼくを忘れちゃったの……?
ぼく、本当にキトに会いたかったのに……」
すんすんと鼻を鳴らすサキを抱きしめ、私もこれからのことを考えていた。
まず私がすべきことは何?
キトさんを正気に戻すこと?
ルツィアがどこで人を操る力を手に入れたかを知ること?
騎士団を重武装した軍団にしたてること?
ううん。いま、いちばん大事なことはサキの涙を止めること。
「泣かないで、泣かないで、サキ。きっと私がキトさんを取り戻して見せるから。2人で元の世界に帰れるようにするから……」
私はそう言いながら、サキをもう一度ぎゅっと抱きしめた。
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