第45話 禁域ルート:たったひとつのやり方
「私は……迷ってはいますが、採用した方がよいのではないかと考えています」
「なぜだね?」
大公が穏やかに笑って聞く。
でもその後ろには猛禽のような鋭さが隠れてる。
……お父さんと一緒だ。
私にいろんなことを聞くときの。
「私のいた世界では、ヤルヴァのような剣の国が侵略されたことがあります。その国は銃も恐れず戦い、圧勝を収めました。同じように侵略された剣の弱い国はたくさんの犠牲者を出してなんとか勝ちました。けれど……二度目の侵略の時には、同じように剣で戦った国は戦略を分析され、銃の前に完敗しました。そして、自分たちは弱いのだからと、一度目の侵略のあとから銃を採用していた国は逆に完勝しました。誇りは大事なものです。でも、その誇りを賭ける国が亡くなってしまったら意味がありません」
「……確かに、そうだな。国あるからこその国への忠誠だ。万が一、本当に万が一、その銃というものの手練れの兵たちがいま攻め込んで来たら、いくら我々だとて勝てぬかもしれぬ。戦略家は柔軟であれ、だな……。
きみは実に有能だ。その話は誰に聞いた?士官学校にでも通っていたのかね?」
「いいえ、私は普通の学生でした」
お父さんと同じように聞いてくれる人の前で私は首を振る。
また、すこしだけ、涙がにじみそうになった。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん。
私はその気持ちを食い殺す。
泣かない。
悔やまない。
私はエーレン。
黒薔薇姫エーレン。
そう生きると決めたんだから。
「でも、元いた世界の父と兄がこの話や、勝つための戦い方を教えてくれました。今では兄は国家を守る仕事についています」
「なるほど。お嬢さんはよいご家族に恵まれたようだ。お嬢さんの父君や兄君にもいつか会えるといいのだが」
「私も以前まではそう思ってましたが、いまはもう思いません。私はヤルヴァ帝国次期女帝、黒薔薇姫エーレンです。
この国のためにも、いつまでも由真ではいられません」
「そう……か」
大公がまなざしを下に向け、何度か無言でうなずく。
そして、顔を上げてひたりと私を見据えた。
そこにはもう、笑顔はなかった。
「お嬢さんの決意に拍手を贈ろう。もっと大規模な訓練所が必要になったら私のところへ来なさい。無駄なほど広い独立領を私は持っている。ルツィアもそこには口出しできない」
「ありがとうございます。でもいまはまだ、自分だけの力でなんとかしたいんです。
……それが、弱かったエーレンが、騎士たちの本当の信頼を得るたったひとつの方法でしょうから」
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