第44話 禁域ルート:『神器』

「ありがとうございます。悩んだけど、お話ししてよかった。ヴィンセントたちには内緒ですよ。知っているのはサキと私、それに今は大公だけです」

「お嬢さんにそこまで選ばれるとは光栄なことだ。……わかっている。もちろん口外はしない。お嬢さんとて誰かに真実を話したくなる時はあるだろう。その時には私の所に来ればいい」

「ダメ―!エーレンはぼくの所に来るの!」

「これは困った。ではいちばんはサキくんに譲ろう」


 ん!とサキが偉そうな顔でうなずくから、私は思わずそこにデコピンしちゃった。


 よし!だいぶ微笑みテロにも慣れてきたみたい。

 この綺麗な顔にもドキドキしないで普通にツッコめるようになった!


「サキ、大公は偉い人なの!ちゃんと説明したでしょ!」

「偉くても偉くなくてもエーレンを好きなのには関係ないもん!」

「これは一本取られたな」

「すみません……こういう子なんです……」

「大丈夫だ。サキくんにもサキくんの矜持があろう」


 大公に頭をなでなでされて、ふにゃーっとした顔をしてる男の子に『矜持』かぁ。

 ……物は言いようだなあ……。


「それで、大公、ここにお招きしたのは『由真』と『サキ』の紹介以外に、お見せしたいものがあるからなんです。これはまだ、私とサキ、イルダールとアルビンしか知りません。ヴィンセントたちにも伝えていません」

「ほう、そんなものを私に」

「はい。お見せするのは仮に『神器』と呼んでいる強い武器です。はじめはこれを騎士たちに習熟させ、ルツィアとの戦いに投入し、その後はヤルヴァの武器としようと考えていました。けれど私の中に迷いが生まれて……これは本当にそんな大勢に簡単に使わせていいものなのかと」

「豪気なお嬢さんが迷うほどの代物か。よろしい。見せてみなさい」

「はい」


 私は石嵌に隠していた銃を取り出す。もちろんコピーだ。本物は王城地下の聖域に置いてある。


「弩弓に似ているな」


 一目見て、なんの驚く様子もなくそう言い放った大公に私は息を呑む。

 いし……ゆみ……?

 なに、それ? 


「蛮族の使う武器よ。戦争の時に何度か見た。だが我々はこの国で広めたことはない。この国は剣の国だ。時代遅れと言われようがな」

「じゃあ、やっぱり……」

「しかし、いまここにはお嬢さんが来て、サキくんも来た。これは我々も変わるべきだという合図なのかもしれない。とりあえず、その、本当はなんというのだね?それは」

「銃、です」

「その銃の強さを見せてくれたまえ。古いものを大切にすることと、しがみつくのは別のことだ。

 あのときは剣と弓で対抗することができたが、もうそれでは敵わぬ時代が来たのかもしれぬな……」


 独り言のような大公の言葉を聞きながら、私は銃をきっちりと構える。


 大きく深呼吸。


 それから、まずは置いておいた木の板へと弾丸を撃ち込んだ。


 うん。


 私が書いたぐちゃっとした円だけど、その中に弾痕はきちんと収まってる。


 あれからも一人で何度も練習してるし、大丈夫、腕、落ちてない。


 それどころか実弾にどんどん慣れてきてる。もう音も反動も怖くない。


 初めての光景に、大公もイルダールたちのように驚くんじゃないかと身構えていたけれど、引き鉄を引いた瞬間の轟音にだけ、大公は少し体を動かしただけだった。


 あとはただその景色をじっと見ていた

 遠くにあった木の板に突然無数の穴がばらばらと空いても。


「なるほど……弩弓など及びもつかぬ。まるで魔術」

「魔術ではありませんが、こういったこともできます。サキ、投げて」

「はーい!」


 サキがぽいぽいと壁の端から木片を投げ始める。

 イルダールたちの前で撃った時は何個か外しちゃったけど……今回は皆中!

 皆中はやっぱり気分がいいなー。


「ほう。動くものにも使えるのか」

「はい。ただこちらは修練が必要です」

「……ヨナタンがお嬢さんのことを始祖ヨンナのようだと言ったとき、私は笑ったが、それは取り消そう。 凄まじいその腕。お嬢さんはここに来るべくしてきた人間だ。誰がなんと言おうとな。

 しかしそれをどうやって騎士の人数分、用意する?とても我々の作れるものではなさそうだが」


 組んだ両手の上に顎を載せた大公に、サキが自慢げに何丁かの銃を見せる。


「ん、大公、これ」

「サキは生命のないものなら無限に複製できる能力を持っています。できあがったものが壊れやすいのが難点ですが」

「本当はもっといろいろできるんだよ!壊れたりもしないよ!キトがいればぼくはちゃんとできるんだから!」

「キト・アーマ。サキと同じ、流され人です。手を尽くして探してはいるのですがまだ見つからず……」

「いいよ、大丈夫だよ、エーレン。エーレンといれば必ず会えるんだから」

「必ず……会える?」

「私に、サキとこの銃を託した誰かがそう告げたのだと。ただ、誰かは秘密だということで……それ以上は聞いていません」

「そうか。秘密なのかね?サキくん」

「うん!約束したから大公にも教えないよ!」

「かまわんかまわん。約束を簡単に破る男の方が無様だ。きみは立派な男だな」

「イルダールたちには、これは『神器』であり、私以外には本来使えない物を、私の力で誰にでも使えるようにしてあると説明してあります。……でなければ私はここではきっと受け入れられませんから……」

「賢明だ。イルダールも立派な男だが頭が固い。そのうえ、アルビンも師に似て最近は頭が固くなってきた」


 『自害』が口癖のアルビンを思い出し、私はくすりと笑う。確かにあの師弟は良く似たコンビだ。


「それで、大公はいかがお考えですか?これの戦列投入について……」

「対ルツィア戦に投入するのに異議はない。ただその後の運用は、ルツィア亡き後の帝国の状況を見て考えたいと思うな、私なら。

 ____お嬢さんはどう思うのかね?」


 大公がいつものように優しい顔で笑いながら言う。


「最後に決めるのはきみだ、お嬢さん。お嬢さんはこの国の頂点になるのだから」

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