第36話 黒薔薇姫とサンテーヌの女王Ⅱ~邂逅~

「皆さま、本日の主賓がいらっしゃいましてよ」


 パルメ夫人の声でその場にいた人たちが一斉に振り向く。

 そこにいたのはヴィンセントと、私の知らない30代くらいから70代くらいの幅広い年齢の人たちだった。

 女の人が1人いるけど、それがヨナタンの言ってたアガタ公爵夫人かな……?


「本来でしたら皆様を先にご紹介するのが筋ですが、失礼させていただいてお先にご紹介させていただきますね。

 こちら、エーレン・アウリ・ヤルヴァ姫。かの黒薔薇姫様ですわ」


 え、と私はヨナタンの顔を見上げた。

 まだ私が黒薔薇を名乗っていることはこの人は知らないはず……!


「安心してください。俺から話を通しておいただけです。あなたがご自身で宣言されるより、俺が言った方がいい。

 人は他者が評価した人間の方を高く評価するものです」


 ヨナタンが私を見下ろしてささやく。


「……嬉しいけど……どんな風に言ったの?」

「美しきヤルヴァの始祖ヨンナ、黒い戦神を髣髴とさせる、凛々しく強い姫君だと」

「……ばか」


 思わず正直な声が小さく漏れた。


「はい?」


 ヨナタンはきょとんとした顔で聞き返す。

 いや、聞こえてないならいいんです。


「なんでもありません」


 いくらヨナタンの頭が良くてもこのホストな言動は生まれつきなんだろうな……もう諦めた。

 それに、とりあえずヴィンセントもいることに安心した。

 さすがにヨナタン以外に知らない人ばかりの所は入りづらい。

 それも、その中に眼帯をした渋い70代くらいのお爺さまなんかが混じっていたらなおさら。


「ようこそ姫、どうぞこちらへ」


 ヴィンセントが空いている席をてのひらで指し示してくれる。


「あらあらわたくしとしたことが。まずはお席のご案内でしたわね。やはりこういったことは緊張いたしますわ」

「仕方がない、パルメ夫人。これは普通の集まりではないのだから。いくら『サンテーヌの女王』でも心ざわめくこともあるだろう」


 そう言ったのは眼帯のお爺さまだった。

 さっきも思ったけど、渋い。声も顔も。

 もともとくっきりした顔立ちに年月がさらに味を加えた感じで、誰かに似てる。

 ……あ!お父さんのお師匠だ!お父さんが唯一勝てない相手!

 静かな表情なのに凄みがあるのも似てる!

 きっとこの人は強い。剣を交えなくてもわかる。


「エーレン姫、わたしはロルフ・エーリク・ハグストレーム。ロベルト帝の父君の代よりヤルヴァに仕えている」

「まあ、大公、何をおっしゃいますの。大公は独立領をお持ちですのに」

「それでもヤルヴァの家臣であることに違いはない。

 ……まだ、な」


 ハグストレーム大公は、なんだか含みのある表情でにやりと笑った。

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